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Ep.5 帝国第二騎士団員ジェイス

・オウル 今作主人公。濡れ羽色の長髪の女性。精霊術使い。


・レオ・グライフ 悪魔。銀髪金眼の男性。


・ベアンテ 竜人。騎士風の長身の女性。


・ジェイス 人間。帝国の第二騎士団に所属していた。

 契約に関しての話し合いは滞りなく進んだ。


 一つ、必要と判断した場合のみ魔術は使う。魔術の使用の際に発生する消費魔力はオウルの負担を三割以内とする。


「三割でいいんですか?」

「……お前、魔力の総量が少ないんだ」

「え?」

「いいか?魔力というのは血液中に存在する。魔力と血液は同一のものと考えるのが簡単だろう」


 実際は違うが、と言い手元の紙を見ながらお茶を飲む。

 紙には私の血液を一滴垂らしていて、淡い光の文字が浮かんでいる。

 悪魔の作る特殊な紙なのだとか。


「魔力を使い過ぎると魔力欠乏症……出血多量みたいなものだ。最悪死に至る」

「へぇ」

「おオウルという器が小さければ入る水の量は少ない。許容量が少ない器に大きな水は灌げない。俺は魔術の知識は多いし、使用できるものも当然多い。契約者のサポートがなくても大抵の魔術は使える程にな」

「契約者はサポートする役目なんですね」

「……なんで悪魔が人間に契約を持ち掛けるのか考えてなかったのか?」

「代償のためでしょう?」

「それもある。が、自身の限界を更新することも重要なことだな」


 契約者の体内にある魔力の使用量は契約の際にこうして決めるが、契約者である生命体が魔術を使えば使う程にその者の『器』は大きくなる。故に人間は子供の頃から魔術に触れることで、魔術師を育成する。その魔術士が成長できれば悪魔も共に成長できる。


「お前はもう二十を超えているだろう?」

「そうですね」

「……」

「?」

「……そこは『女性に年の話をするものじゃないです』とか言ってキレる所じゃないのか」

「私に女らしさを求めないでください。その凡そ二十年間を寿命の長いエルフ様や獣人の皆と過ごしたんですから」

「やはりあの森からか」


 口を滑らした。

 まぁほぼ確信していたようだし、いいか。


「それで、その年になるまで魔術に触れてこなかったから、魔力量が赤ん坊並だ。もう少し魔力量が増えてから使用魔力量の契約は練り直そう」

「なるほど……三割でどれほどのことが出来るんですか?」


 グライフさんは呆れた目も隠そうとせずに私の方へ指を突き付けた。


「魔術専門の最上級の悪魔である俺が、必要なリソースを全て担った上で三割と言っている。ほんの少ししかない魔力の三割など当てにしていない。契約者の魔力を突き刺せるわけにはいかないから、最初の一度だけ三割貰う」

「ちょっとずつ増やしていくと?」

「……この指先を見ろ」

「?」

「"着火イグニス"」


 体から何かがごっそりと抜ける気配がした。

 気怠さと眩暈までする。


「火属性の基礎中の基礎でこれだ。一回の魔術使用で行動不能。だから現状は多く見積もっても三割、ということだ」

「今、どのくらい使ったんですか」


 思わず机に肘をつきながら頭を抱え、指の隙間からグライフさんの方を見る。

 手を振りながら指先に着いた火を消して少し思案していた。


「そうだな……一割以下といった程度か」

「一割以下……」

「お前が育つまではその程度に抑えておいてやる。早く魔力の感覚を覚えろ。ほら、回復用の薬だ」

「肝に銘じます……ありがとうございます」


 一つ、対等な関係とする。


「……今まで通りでは?」

「契約書を読まなくて悪魔に絶対服従した王族の人間がいたからな。しかもその王族は『服従を自分から望んだものとする』という契約も見逃した」

「それって……」

「一国が悪魔の傀儡になった、ということだな。因みにその悪魔は俺の知り合いだ」

「はっ?!」

「更に言えばその国は未だそのことに気が付いていない」

「今現在のお話ですかッ?!」


 衝撃的な話をされたものだが、そのおかげで『対等』という言葉がどれほど契約において重要なのか理解できた、と思う。


 一つ、精霊術で済むものは精霊術で行う。


「俺は従者じゃないからな」

「まぁ自分で何とか出来るときは何とかします」


「こんなもんだろう」

「少ないのでは?」

「魔術もろくに習ってきてないエルフと獣人の里育ちのお嬢さんに、契約を逆手にとって悪魔を騙せる力があるとは思えん」

「むっ。馬鹿に--」

「それに、一応は信用している」


 思わず目を見開いて固まっていると、くっくっくという喉を鳴らす音が聞こえた。


「そも、信用に足らん人間に精霊がここまで気を許しているとは思えん」

「……グライフさんのことは遠目から見ているようですが」

「まぁそれは仕方のないことだ。悪魔だからな」


 お茶を飲みながら精霊様の方を見ているグライフさんは、しんとしている精霊を凪いだ顔で見ていた。


「エルフにも、一度会っておくか……」

「え?」

「いや、なんでもない……そろそろベアンテの方に向かうとするか。契約は今後変更が必要だと判断した場合に両者の同意を持って変更可能とする。いいな?」

「ええ。それで問題ないです」

「では"悪魔 レオ・グライフの名において 契約が成立したことを ここに明記する"」


 淡い光の書類がもう一枚。

 先程作った私の紙が吸い込まれてグライフさんも血を一滴垂らした。


「ふん……」

「な、なんですか?」


 顎に手を当ててこちらをじっと見始めたグライフさん。嫌な予感がそこはかとなく……


「お前とのパスが強ければ強いほど魔力に干渉しやすい。心臓の上あたりに印をつけたいのだが」

「ああ、ここの辺りですか」

「そうだな」


 心臓の上、左のデコルテ(?)上部辺りを指差す。


「触れてもいいか?」

「あー待ってください。今脱ぎます」

「ハ? お前馬鹿なのか?」

「ハイ?」


 グライフさんの方を見ると目元をぴくぴくとさせながら呆れた顔をしていた。

 後ろの方にはこちらをじっと見る……目瞑っている竜人さん。


「……言っておきますけれど、はだけるだけですよ?」

「……」

「流石に私もそのくらいの常識はあります」


 竜人さんの閉じた瞳がじぃっとグライフさんを見ている気がします。


「……いや、悪かった。これは俺が悪いな」

「まぁ私も言い方が悪かったですね……これでいいですか?」

「ああ……」


 グライフさんは私の心臓の鼓動の感じられる部分に指を当てると小声で何かをつぶやいた。


「なんて言ったんですか?」

「悪魔が悪魔しか使えない魔術を使う時に使用する言語だ。パスをつなぐという意味の言葉を告げた」


 見ると鎖骨のちょっと下あたりに赤黒い文字が書かれていた。

 読めないが心臓の鼓動と同期して脈動しているように見える。


「俺の位置、存在、状態などが分かるはずだ。俺からお前の現状もこれで分かる」

「……どう思います?」


 ふるふると首を静かにしかししっかりと振る竜人のメイドさん。

 その顔は少し呆れが見える気がする。


「グライフさんのことは前から知ってました?」

 コクコク

「前からあんな感じで?」

 コクコク

「おい、なんなんだ」


 二人でグライフさんの方を見て、二人で一緒に溜め息をつきました。


 グライフさんの言ってることはともかく、実際にグライフさんのいる位置、状態がよく分かります。

 危険な状態であればすぐに分かるし、魔術によって姿を隠している状態でも場所が分かる。精霊術によるものは魔術の関連ではないので影響を受けないが、グライフさんの場合精霊も見えるし、注視すれば発見は可能とのこと。


 とりあえず飛竜の巣に行くということだったので、一応ついて行くことにした。

 もうそろそろ眠いんですけれど……


--


 飛竜の巣にはベアンテさんが移住の準備を進めていた。

 こちらに気付いたみたいで片手をあげていた。


「なんだ、まだ寝てなかったのか」

「あ?あーまぁ色々あってな」

「ベアンテさん。ジェイスさんは……」

「ああ、あれ」


 ベアンテさんが指をさした方向にはせっせと働くジェイスさん。


「えっと……?」

「帝国には戻れないらしいからな。これから移る里の屋敷で雇うことにした」

「つまりベアンテさんの下で働くと?」

「人間が非人種の下で働くのは抵抗があると思っていたが、偶々最近オウルという先例をみたことだしな。少しは聞いてみるかと思ったわけだ」

「信じていいのか?」

「ほう?あのレオ・グライフが人間と契約したという方が信じられないが?」

「むっ」


 にやにやという言葉が合う顔でグライフさんの方を見るベアンテさん。

 グライフさんは誰かと契約したことがないのだろうか。


「確かに俺はあんまり契約はしない。だがまぁいいだろう? それが俺だ」

「そうか。いつも通りで何よりだ」


「……あの飛竜と騎士の間には種族間の壁を感じなかった。私は彼の今後に期待するよ」

「過剰評価でないことを祈る」

「私が飛竜を開放した時もジェイスさんとジャックさんは雰囲気が違いました。たぶん大丈夫ですよ」

「ほら、こうしてお前の契約者様も言っているんだ。安心したらどうだ?」

「何が契約者様だ。対等立場として契約した」

「実際は他人を下に見ているんだ。暖かい目で見てやってくれ」

「え? あ、はい」

「はいじゃないんだよ」


--


 ジェイスさんは仕事が一段落したようで、ベアンテさんの方に向かってくる途中に私とグライフさんに気が付いた。


「オウルさん……と」

「レオ・グライフだ。私の……同志みたいなものだな」

「同志……まぁそんなとこか?」

「いや、私だってつい最近知り合ったばかりですが?」


 それもそうかみたいな顔をグライフさんがしていると、ベアンテさんは少し目を見開いた。


「なんだ。そんな短い期間で契約したのか」

「こいつは信用できる。最悪どうにでもなる」

「なんて会話を本人の前で言うんですか……」

「お前が俺の道理から外れなければいい。いつも通り過ごせ」

「はぁ……それで、どういう関係なんですか?」

「昔馴染みと言えばいいか?」

「あー、所属が一緒だったという感じだな」


 所属。軍だろうか。

 帝国の城を襲撃した悪魔とドラゴンを束ねる竜人が所属する軍隊……考えたくない。

 ジェイスさんも少し瞼を痙攣させている。


「今だってあの連中とは関りがあるし、今回のように手伝いだってする」

「今回……あの、グライフさんはあの時何をしていたんですか?」

「城襲撃」

「は?」

「お城の方で騒動を起こしたのはこの悪魔です」

「じゃあ、第二騎士団にかかった緊急要請は……」

「この方のせいですね」

「俺がやった」


 瞼の痙攣が強くなった気がする。


「城の火薬庫周辺が崩壊したのは」

「俺だな。魔術で吹っ飛ばした」

「……」


 若干顔色も悪くなった気がする。


「……時に、グリフォンを従えている気になっているようだが、グリフォンは飛竜と並ぶ空の王者。お前たちが躾けたつもりでいるのは虎視眈々と隙を見計らうケモノだ」

「なにを……」

「今帝国は俺とオウルの飛竜開放騒動で混乱しているな? ケモノは規則ルールを知らないし、時と場合マナーなんてもっての外。動かないと思うか?」

「……貴方は、グリフォンすらも開放するために?」

「悪魔は、代償や理由なく動かない」


「……帝国は、帝国の騎士団は」

「グイフォンすら失う可能性があるな。群れを統率するリーダーが忠誠でも誓っていれば話は違うだろうが」

「群れ?」

「グリフォンは群れる。その際に最も強い個体がリーダーになる。群れの方針も移動の時期もそいつが決める」

「騎士団のグリフォンは群れてなかったと思いますが」

「いや、見た感じ群れていた。寧ろ騎士団に来たグリフォン全体が一個の群れって感じだったな。騎士団を利用してたんだろう」


 正直、あれほど大きな群れとなればこの辺りじゃ敵はいないだろうなと言い、グライフさんはあくびをした。

 ベアンテさんが従者に指示を出しているのを横目に、ジェイスさんを見ると青ざめた顔で下を見ていた。

 ……とうとう真っ青になりましたね


 帝国の軍事力が一段どころか二段も下がった場合、周辺国がどういう動きするのか分からない。

 エルフの森の周りを囲む大きな国は帝国のほかに王国や神聖共和国などがあり、互いに睨みを利かせながらも利害の一致で森を敵視したり交易をしていると聞いている。

 彼らの内一国でも足並みが揃わなくなった場合、属国になる可能性も否定できないとのこと。


「俺達には関りのない話だし、お前も国には戻れないのだろう? ならほって置けばいいじゃないか」

「……私は」

「それとも、ベアンテに拾って貰っておいて、帝国が心配とでも言うか?」 

「それは……」


 詰め寄り方が極悪人のそれ。


「グリフォンは俺にとって思い入れのある種族の一つだ。あんな風に扱われていればいつかは俺一人でも今回のようにした」

「……グリフォンに乗っていた者たちも誠心誠意世話をしていたはず。あんな風にとは」

「たかだか人間が世話をした? あのグリフォンたちが世話をしてくれとでも言ったか?」

「!」

「いいか人間。グリフォンは人間に制御できるケモノではない。いつか(・・・)が今になっただけだ。たとえ今動かなくても、群れのリーダーが万全だと判断した時期と人間の気が緩んだタイミングが重なれば、帝国はグリフォンに食い破れられる」

「そんな……」


 グライフさんは私の方を向いて屋敷の方、来た道を指さした。


「眠い」

「あ、はい」

「ベアンテ、あとは任せた」

「はぁ……お前ってやつは」


 グライフさんに付き添って館まで戻る。

 道すがら眠そうな少年となったグライフさん。どうみても十代前半かそのくらいの人間の少年にしか見えない。

 銀髪金眼で貴族のような服装をしているとしても、一国の王城を一人で攻めるような胆力もある悪魔--それも本人曰く強大な悪魔--なのだ。


 ジェイスさんに言っていた"人間"の中にはもちろん私も入っている。

 確認するほどもないだろう。


「オウル」

「はい」

「エルフの森へ連れていけ」

「はい?」

「エルフの長は俺のことを知っている。顔を出したのが随分前だからな。死んだと思われているかもしれないが」

「はぁ……連れて行けとは?」

「里帰りだとでも思えばいいだろう? 契約者とは極力離れないのが悪魔だ。そこら辺にある自然に宿っている精霊とは違って、俺という悪魔は俺しかいないからな」


 つまるところエルフの森を訪れる理由が欲しいのだろう。

 ふらりと訪れるとかしそうな人なのだが……


「明日の昼過ぎ辺りから移動開始する」

「ベアンテさんに伝えます?」

「もう言ってある。一度エルフの里へ行った後、そのまま魔術国家の方へ向かおう」

「魔術国家……そういえばグライフさんは何故あの国に?」

「そこにも知り合いがいる。そいつの様子を見に行くつもりだ」


 屋敷の玄関の扉に手をかけ、グライフさんを先に入れる。


「……別に従者のようなことをする必要無いんだが」

「従者のつもりでやってないので気にしなくていいですよ。私がそうしたいからそうするんです」

「意味わからん」


 グライフさんに教わることは多いし、自分よりはるかに年上なのはわかっている。

 言いたいことはあるが、それはまた別の機会に話し合えばいい。

 今はお互いに睡魔と疲労が限界だろう。

 固有魔術がどれほど疲れるものかは分からないが、見た感じ連続使用はしたくないのではないだろうか。

 ジェイスさんと会話する前あたりから顔色が少し悪い。


 思えば今日常に飲んでいたお茶の葉は、獣人の里でも疲労回復の効能のあるものだった。

 彼の少し丸みを帯びた背筋はいい加減限界だという表れなのではないか。

 もしかしたら常に発動している魔術があるかもしれない。


「では俺はもう寝る」

「はい。また明日」

 こんにちわ。御堂瑞駆です。


 色々あって更新が疎らですが、この小説の世界の存在のためにも完結を目指します。


 何はともあれここまでお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみにしてくれたら幸いです。


こちら筆者のTwitterアカウントです。(@Mimizuku_Oul)https://twitter.com/Mimizuku_Oul

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