Ep.3 ドラゴン争奪作戦
・オウル 今作主人公。濡れ羽色の長髪の女性。精霊術使い。
・レオ・グライフ 悪魔。銀髪金眼の男性。
・ベアンテ 竜人。騎士風の長身の女性。
私は結局騎士団の詰め所に向かうことになった。
ドラゴンは城に一番近い詰め所にいるとのことで、侵入対策はグライフさんの言う通り魔術・物理的に警戒が強いとのこと。
実際精霊術は人間の生活には全くと言っていいほど関りがない。精霊術を使えば入れるとのこと。
「因みに、なんでそんなに精霊術に詳しいんですか?」
「ん? まぁ興味本位だ……知っている方が得だからな」
「……」
ベアンテさんのグライフさんを見る目は優しく、それでいてどこか悲しそうな雰囲気があった。
「……精霊は実際にはそこにはいても普通の人間の目には見えない。それは精霊が気配を極端に消しているからだ」
「気配を、極端に?」
「知らなくても無理はない。それが 普通になったからな」
「気配が極端に薄くなったからと言っても触った感覚はある。なんか当たったな程度にな。だが精霊は意識から外れやすい上に気配を隠している。だからいないように感じるだけだ」
「へー……それが私が使う精霊術、ということですか?」
「そうなる。俺もばれないようにはするが、何かあったら俺が陽動する」
「人間も本気でくれば馬鹿にならない。それはレオも同じだからな?」
「分かってる。抵抗されない魔術はないからな」
あの時唱えた"ダウン"という魔術は指定範囲内抵抗のての字もない相手が対象で、ドラゴンに意識が釘付けだった騎士団はその対象の範疇だったらしい。
更に丁寧に詠唱すれば敵はいないと胸を張りながら言ってはいるが、さっきの話の内容からすると無敵ではないのだろう。
「どう侵入するつもりなんだ?」
「オウルはさっきいった精霊術、俺は自前の魔術で完璧だな」
「……目立たないか?」
「建物の中なら。巡回してる連中が四六時中上下左右きっちり確認してるなら目立つかもな」
魔術には姿を隠すような術式は無いのだろうか。
というか、精霊様に自分が姿を隠せるのか聞いておこう。
「最悪真正面特攻でいける。寧ろその騒ぎでオウルが侵入しやすくなる……ん?」
「出来るのかという疑問を後で解決しておこうと思っていたが、必要なくなったらしい」
「……何も実感ないんですけれど、出来てるなら何よりです」
精霊様は実際に術をかけてくれたようだった。
言った通り体が透けたり、自分が消えているという実感がないが……
「ふむ。オウルさんの方は問題なさそうだ。だが騒ぎを起こしたら逆に侵入しにくくなるんじゃないか?」
「この気配の薄さならいけると思うが……ではこうしよう。俺は城に行く」
「は?」
「え?」
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戻ってきてしまった……
街に入る時から既に精霊様に術をかけて貰っており、関所やら目的外の詰め所の前やらを素通りした。
ここまでくれば流石に自分が他人の意識の外側にいることくらい自覚する。
ギルドで働いた後買い物したあのお店の前も、ギルドの前も一切誰にもバレることなく進んでいる。
流石に誰かに当たると疑問に思われるだろうから人混みを慎重に進む。
『たしかこの道を曲がった先に……!』
「おっと」
騎士甲冑のさわやかな見た目の青年とぶつかってしまった。
「……気のせいか?」
気のせいか? と言いつつこっちに来てる!
「失礼。今ぶつかりましたかね?」
「え? いいえ。そんなことより騎士様。ウチでお肉買っていきませんか?」
近く、というか私の真横にいた肉屋の客引きの女性と会話をし始めた。
その間に道を進む。
『……今の騎士、肩に付いてた紋章が第二騎士団のものだった』
この国の騎士団には階級がある。
第一は城に配備される近衛騎士団。
第二は下級飛竜の世話を任されている飛竜騎士団。
第三はドラゴンよりかは育成が楽なグリフォンや魔術師がいれば連続運用が可能なゴーレムを中心とする魔獣騎士団。
第四は魔獣ではない馬に乗った騎兵隊。この騎兵隊の数が尋常ではないため第四以下の騎士団は主力且つ警察のような役割を担っている。
『飛竜騎士団や近衛騎士団に選ばれる騎士は相当強いってグライフさんも言っていたし、見つからないように気をつけなきゃ』
通りに面した形でその屋敷はあった。
レンガ調の塀の奥、屋敷の庭は色々な花が咲くまるで貴族のような屋敷。
ただ門の鉄柵には第二騎士団の紋章があり、門を守る騎士も第二の紋章を肩に付けている。
『特徴は合ってる……貴族の門番をするのは第一か第四、または私兵。第二の騎士が門を守るのはそこが第二の詰め所』
問題はどうやって入るか。
塀は高く、中の様子は門の鉄柵越しにしか見えない。門番も二人いるし、その二人に気付かれれば中にいる騎士にも見つかる。
『!精霊様、お力を…… "願い給う 風の精よ 共に空を"』
詠唱しながら近くにあった木箱に向かって走る。
木箱を足場に塀に向かって飛ぶ。すると風が吹き少しだけ浮かんでいれた。
塀の上に出来るだけゆっくり音の出ないように着地する。
「……ん?」
「どうした?」
『!』
バレた?
思わず口に手を当ててもう片手で塀の出っ張りを掴んで体を安定させる。
「なんか音がしなかったか?」
「そうか? 俺にはなんも聞こえなかったが……通りの音だろ」
「門裏にも何もないな……気のせいか」
大丈夫だった。
ここからどうすべきか。
塀の上は人が三人ほど通れそうなスペースの道が続いている。
『まるで砦ね……』
一先ずこの道を進んで侵入できそうなところを探そう。
グライフさんが城に侵入したタイミングは街のどこにいても分かるようにすると言っていたけれど、精霊様を使って連絡するのだろうか。それとも連絡用の魔術とか?
というか飛竜はここにいるんだから城に行く必要ってないのでは? などと思いつつ屋敷に入れそうな所を探していると鼓膜を直接揺らすような大きな爆発音がした。
「団長! 城の方から黒煙が上がっています!」
「なんだって?!」
城。黒煙。爆発音。
『まさかこれが侵入の合図なんて言わない、でしょうね?』
精霊様が耳の近くにやってきて囁いた。
『騒ぎは起こしてやった』
敵陣真っただ中で大きな声を出しそうになった。
合流したら思いっきり殴りたい。
飛竜騎士団の人達が慌ただしくなり結構な人数が出て行った。たしかに侵入しやすくなったけれど……
塀から風の精霊術を使って近場の小屋の屋根にゆっくりと降りる。
そのままもう一度飛び、彫刻の施されたテラスフェンスを掴んでよじ登る。窓は閉められていたが鍵はかかってなかった。さっきの騒動で閉めるだけ閉めたのだろう。
『不用心……いや悪いのはグライフさんだった』
事前情報として中庭に飛竜はいるらしい。
屋敷の廊下から中庭の様子が見れたが相当広い。中庭というかちょっとした森林公園のようだ。
窓を開けるには少し周りが騒がしい。
残った騎士達や侍女がピリピリした雰囲気で廊下を行き来している。
急に窓が開いたら流石に見つかるだろう。
『階段……一階からなら入れるかもしれない』
街中よりかは避けやすい廊下をするすると歩く。
廊下のカーペットの上なら多少は足音が軽減されるだろう。
中庭に入れるだろう扉を探すのはそこまで苦労しなかった。
どうも城の方に行った騎士達が救援要請をしているらしく、ゴーグルをした騎士というなんとも不思議な人達が扉を開けていた。
あれで飛ぶ前じゃなかったらここの人達は一度鏡を見た方がいい。似合ってないわけではないけれど違和感がスゴイ。
『って飛ぶ前ってことは飛竜が何体かここを離れるってこと?』
飛竜を開放するにはベアンテさんから貰った赤い鱗を見せればいいと言われたけれど、今のままでも飛竜は私のことを知覚してくれるのか分からない。
ベアンテさんは大丈夫だと言っていたけれど、実際やってみないと分からないって顔に書いてあったし。
「安全確認を早急かつ確実に済ませろ! 城での救援要請だ! 急げ!」
「了解!」
飛竜は唸り声をあげていたが警戒はそこまで強くしてないようだ。
とりあえず騎手のいない一体の前に静かに進み、鱗を顔の前に差し出した。
一拍の凝視の後、咆哮を上げた。
ぎょっとした顔をした騎士がこちらに向かってくるが飛竜はもう前に進み飛び立とうとしていた。
私は急いで前からどき、鱗を掲げたまま飛竜の前を走っていった。
それぞれの飛竜が空を見上げながら咆哮を上げながら翼を打った。
乗っていた騎士はぎょっとしながらしがみつくが大体が振り落とされた。
中には騎士を乗せたまま屋根を突き破る飛竜までいた。
「な、なんだ⁈ どうなってる!」
「わかりません! 急に暴れだして……待て!」
手を伸ばして手綱を掴もうとする騎士たちが空を掴む。
その中ほかに飛竜がいないことを確認しながら中庭を進む。
いれば鱗を見せるという作業をしながら進んでいると……
「待て! 貴様何者だ!」
『えっ⁉』
「そこの女! 止まれ!」
ここにきて見つかるなんて!
とりあえずもういないようだし、逃げなければ!
「くそっ! どこ行った!」
「見失ったのか⁉」
「いや、それが存在感がないというか……そこにいるって認識するのが精一杯だったというか」
「言い訳なんて聞きたかないわ! くそ、探せ!」
どうやらいるとばれたが認識できた程度だったようだ。
というか騎士様がくそとかそれこそ聞きたくないと思ってしまうのは夢を見過ぎだろうか。
『ん?』
木陰で上を気にしながらも飛ばない飛竜がいる。
鱗を見せた飛竜は皆飛んだから、飛べないわけではないと思うのだが、なんだか誰かを探しているような……
「ジャックッ!」
「!」
丁度その飛竜に走って近づく騎士がいた。
しかしその飛竜は唸り声をあげ威嚇として軽く火を噴いた。まるでそこからは近づいてくるなと言っているように。
「ジャック……一体どうしたんだ。何がどうなって」
よく見れば曲がり角でぶつかったあの騎士だった。
ほかの騎士はパニックで慌てている中そこだけ別の空気が流れているような、一種の穏やかさと物悲しさがあった。
飛竜は動かない騎士に自ら近づいて手の甲に鼻を近づけた。
騎士は数瞬の後何かに気付いたように急いでガントレットを外して飛竜の方をじっと見ていた。
白い訓練の跡の見える手にジャックと呼ばれた飛竜は舌を伸ばし、一度だけ舐めた。それが最後のあいさつだったのか
「ジャック……」
一つ咆哮をして、その飛竜は空に広がる群れに加わった。
『……急がなきゃ』
物陰に隠れたりしながら上位飛竜の卵を探す。
ここにあればいいけれど……
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オウルが屋敷に侵入する数十分前……
城門前に銀髪の少年がいた。
「さて……」
魔術は契約した悪魔によって使える魔術が変わる。
基本的に火や水、風に地と四代元素を中心とした悪魔が多いが、上位の悪魔になってくると個性的な魔術、固有魔術を使う悪魔もいる。
レオ・グライフはその中でも異質中の異質。魔王の庇護下にいない悪魔として魔界でも名を馳せている。
「ん?君、何か用かな」
「用があるって言ったら入れるのか?」
「いやぁちょっと難しいかな……許可証とか持ってるかな」
「持ってたら提示してる。それと、俺はガキじゃない」
門兵のチェストアーマーをとんと押すと水の張った堀に向かって突っ込んだ。
「少なくとも、あんたらより年上だ」
「なっ……け、警報を鳴らせッ!」
「どうせなら門を開けてからにしてくれ」
掴まれた兵が驚くほど簡単に持ち上げられ、門に投げつける。
門が衝撃で開き、辺りがどよどよと騒がしくなる。
「かっ囲め! 貴様ッ! おとなしく投降しろ!」
「断る」
門を走って潜り抜け、ある程度頭に叩き込んでいた城の構造を思い出す。
目当ての建造物を見つけ、掌をかざす。
「"風砲" "着火"」
火を纏った風の砲弾が火薬庫に向かって投げられる。
一拍の後、ドンッという音が響き黒煙が上った。
「精霊。オウルに伝言を。騒ぎは起こしてやった」
怯えていた精霊はすぐにオウルのいる方へ飛んで行った。
これでこの城に国中の騎士団から応援が来るだろう。念のためもう少し問題を起こしておこう。
振り向きながら掌を走ってついてくる連中に向け
「"風砲"」
威力は他の属性に比べて低いが、広域範囲制圧型の風属性は集団に対してとても有効だ。
先程のように火属性の魔術と組み合わせることで高威力なものとすることが出来る。
「第三、四騎士団、現着ッ! 対象の拘束を始めるッ!」
「……この人数は流石に、分が悪いどころじゃないな」
周りは騎士姿の人間だらけ。
魔術に耐性はあるが、多勢に無勢が過ぎる。
「おい! 第二はまだ来ないのか⁉」
「そ、それが、団長。あの空を……」
「……上手くやったようだな」
空に向かって飛竜が飛び立っていく。
オウルが開放を終わらせたようだ。
「飛竜の長はお前たちの行いにいい加減我慢ならんらしい。飛竜はすべて解放させてもらった」
「なんだと……」
「上位飛竜の卵なんてもんに手を出したのが運の尽きだったな。流石に許容できんらしい」
騎士達はざわざわと各々喋っている。
それでも包囲されている現状に変わりはなく、警戒心は全く揺らいで無いようだった。
「ま、これもこの国の自業自得ということで」
「ふざけるな!」
「それはこっちのセリフだ愚か者ども。貴様らのような数だけが取り柄の人間ごときが、飛竜を完全に手中にしようなど傲慢が過ぎる」
『卵発見。脱出可能』
精霊の細々とした声が耳に届いた。
『空から見える位置に移動』
精霊がまた戻っていくのを確認して、また目の前で気圧されている人間を見る。
「貴様らのその底の見えない欲は毒にも薬にもなる。精々これからはやり過ぎないことだな」
「……ここから生きて帰れるとでも?」
「残念ながら、俺の目にはでかい風穴が見えるよ"無重力" "反詠唱"」
両の足を肩幅に開く。腕を一度頭の上まで持ってきて、振り下ろしながら腰を下ろす。脚に力を入れ思いっきり跳ねる。
レオは重力の楔から離れ、城の上空に躍り出た。オウルを確認するとその方向に向かうように風の魔術を使用。
あまりの出来事に騎士達は皆見上げる事しかできなかった。
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「そこ、座ってくれません?」
「は?」
「座れ」
ベアンテさんが苦笑いしながらこちらを見ている。
今私たちがいるのは飛竜達の巣。高山の麓に下級飛竜の住処で、そこでやっと地に降ろしてもらった私の第一声がそれだった。
「グライフさん。一旦信頼してあなたの作戦をよぉく聞かなった私が悪かったのはあります。ええ、それは認めましょう」
「……なぁなんで俺が見下ろされてるんだ」
「見下ろされるのは立ち上がった時もそうでした」
「……」
咳払いを一つして、話を続ける。
「まず何故爆破させたんですか?」
「分かりやすくていいだろう。あの街のどこにいても分かる合図だった」
「馬鹿なんですか?」
「あ゛ぁ゛?」
グライフさんが凄い形相でこっちを見る中、ベアンテさんが思わず吹き出していた。
「そもそも飛竜開放して卵持って逃げるだけでよかったじゃないですか」
「また同じことされるたんびにまたやることになるだろうが」
「だからって火薬庫丸々一つを吹き飛ばすことは無いでしょう! 周りにいた人はいなかったんですか⁈」
「なんで俺が人間の安否なんか気にしなきゃなんないんだ」
あーでもないこーでもないと舌戦は激化し、結果二人とも肩で息をする羽目になった。
「二人とも、こっちで茶でも飲まないか?」
「……はぁ」
顔を合わせてため息をするところまで丸被りでした。
こんにちわ。御堂瑞駆です。
今回は飛竜を人間の国から解放する回でした。
ここまできて「あれ、国の名前も街の名前もなくね?」となりました。なんか不便だなって思ったんですよねw
まぁなんかのタイミングでちょっとずつ出していこうと思います。
何はともあれここまでお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみにしてくれたら幸いです。
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