Ep.1 魔女の生誕
魔女オウル。
その名前は恐れられて久しい。
それでも、私は、私たちは親しみを込めて彼女のことを思い出す。
きっとまたあの日常が戻ると信じて。
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魔法の技術が失われて幾星霜。
「ぉぎゃー!」
「……人間の、赤子?」
私は小さい頃にその森の傍に捨てられていました。
森には人間を嫌うエルフ様達が住んでいて、私の存在にはすぐに気が付いていました。
「赤子とはいえ人間。我らエルフの里に置くのは如何なものかと」
「ですが、どんな生き物も赤子の頃は脆弱です。見て見ぬふりは森と共に命を守るエルフの道ではありません」
「では育てるか?」
「それは……」
人間の子供ということで、エルフ様達は保護はしてくれましたが誰も育てようとはしてくれませんでした。
代わりにエルフの森を守る獣人の方々が気に掛けていてくれました。
「すまない。エルフの里に人間は置けないのだ。守りをして貰っておいてなんだが……」
「構いませんよ! この里の獣人はエルフの皆様のおかげで今日も生きられますから!」
「すまない。そしてありがとう」
特に老いた梟のおばば様に可愛がってもらっていました。
住む場所に着るもの、文字、言葉はおばば様に習いました
「おーよしよし。おばばがおるでな?」
「オウルって名前はどうだ?おばばのとこにおるし」
「安直だな」
そうしてオウルと呼ばれた私はすくすくと大きくなりました。
特に特徴があるという顔ではないと今の私は思いますが、綺麗な濡れ羽色の長い髪はちょっとした自慢です。
私はそのころ、役に立とうと懸命に出来ることを探していました。
その過程で、精霊術のことを知ったのです。
この森の獣人は精霊に好かれています。身体能力向上系の精霊術しか使えないけど、使えることには違いありません。
「おばば様、みんな、精霊術を教えてほしいです」
精霊術というのは、精霊に願い精霊の能力を事象として起こす術で、エルフ様はこの術が得意です。
そして、このエルフの森を守る獣人たちは、必然的に精霊と触れ合う機会が多く、長い年月をかけて協力関係を築いていました。
因みに、人間が一般的に扱うのは魔術で、こちらは悪魔を使役することで炎や水などを具現化する術。
悪魔を呼び、力を借りる事をエルフが良く思わなかったのが人間嫌いの発端だったりします。
閑話休題。
私は皆に精霊術を学びたいとせがみました。しかし、精霊は人間に姿を見せないのです。
皆もやっと築いた精霊との関係を崩したくはなく、難色を示していました。
「精霊様のご機嫌を損ねてしまっては元も子もない。エルフ様はたまに様子を見に来てくれるが、直接話したり触れたりはしないからもっての外じゃ」
「オウル。すまんが、他にないか?」
「人間のメスである私は力は勿論、人間の使うという魔術も使えない。穀潰しでいられるほど恥じた生き方は出来ないです」
「どこで覚えたそんな言葉」
それでも精霊術は教えてもらえませんでした。
人間の一生は獣人や精霊に比べて驚くほど短い。若干十五歳の当時の私でも、そのことは知っていました。
「--時に、あの人間の子供にこれを」
「これは……なぜ」
「我らとて押し付けて何もしないのは居心地が悪いのだ。せめて知識くらいは、と」
その日にやってきたエルフ様はエルフ様の中でも偉い方でした。
その方がくれたのは、長い年月多くのモノを見てきたエルフ様の本。今でも大事に持ってます。
私はひたすらに学びました。
精霊術については書かれていませんでしたが、薬草や道具の作り方など多くの本を読みました。
「長様。私も採取に同行したいです」
「……森には獣がいる。危険だぞ」
「見たいのです。本に書いてあることを知っただけではいけないと、エルフの皆様の本に書いてありました」
森に出るときは必ず五人以上の隊の荷車に乗り、里から近く、安全でなければ出てはいけないと何度も念を押されました。
里の外は初めて見る物が多かったです。
採取された状態ではない薬草に、狩られる前の獣。こちらを狙う獣。生き死にを実際に見ました。
森は豊かでした。度々人間の姿を見たと聞きました。
人間は森を手中に収めたかったそうですが、エルフ様や里の皆はそれを許さなかったとも聞きました。
「なぜ人間はこの森を欲しがるのですか?」
「自分たちのモノにしたいからだよ」
「どうして?」
「人は欲しがる思いが強いんだ。この森のモノを自由に使いたい。エルフ様や俺たち獣人もそのモノの中に入っている」
「……みんなはモノじゃないよ?」
そうだなと頭を撫でられました。暖かかったです。
時には森に火をつけようとする人間もいたと聞きます。
森はエルフ様と繋がっていて、人間が近寄るだけでエルフ様は気付けます。
エルフ様がいる限り森は安全なのです。
「エルフの皆様のところへ行きたいです」
「……それは、無理だ。エルフ様はオウルのことを気に掛けてくれているが、人間は嫌いなのだ」
「では、手紙を書きます」
そうしてエルフ様に手紙を書く許可を長様は取ってくれました。
もっと早くすれば良かったと思いながら、日頃の感謝とそれについての謝罪を書いて長様に渡した。
「長殿、あの子供は聡明であるな。本を渡したこと、後悔しなさそうだ」
「ありがとうございます……その、これはあの子を見てきて獣人皆が思っている事ですが、今後も同じような、手紙のやり取りをできませんか? 勿論、無理にとは言えませんし、親心のようなものですが……」
エルフ様は驚かれたと聞きました。
長様は厳しい方です。エルフ様もそれは知っていて、そのようなことを言われると思ってなかったらしいです。
私の性格や考え方はおばば様と長様のおかげです。今思えば年相応ではないと思います。でも、幼いながら周りと自分は違い過ぎました。獣人の子供は子供のように見えて何歳も年上ですから。これも一種の自己防衛だったのかもしれません。
「え? エルフ様宛に手紙を書き続けていいんですか?」
「ああ。エルフ様とて近況は気になるそうだ」
私を拾ってくれたのはたまたま外に出ていたエルフ様だと聞いています。
いつか日頃の感謝とは別件で感謝を言えたらという気持ちはありました。
直接言えないのは申し訳ないのですが、この機会を逃すわけにはいきません。
ですが、助けてもらったとはいえ、実際の関わりは皆無でしたから、至極事務的な手紙となってしまいました。
エルフ様から返ってきた手紙もでした。
ですが、先日貰った本の内容を所々挟むとどこか安堵したような文脈となっていきました。
熟読していたのが功を奏しました。
「おばば様。行ってまいります」
「はい、いってらっしゃい」
その頃には里の外に出る人達に同行することも特に違和感を感じていませんでした。
依然として精霊術は教えてもらっていませんでしたが、ナイフや弓矢などの武具の扱いは作成も含めて手慣れていました。
自分でも兎や鹿などの食用肉や軟膏や飲み薬に使われる薬草採取などを経験しました。
その日は順調に全て進んでいましたが、帰りに雨が降ってしまいました。
視界が悪く、先の見えない中、気付けば一人でした。
大きな洞があったので、そこで雨宿りをすることに。
大きな声や音は出さずとも、エルフ様のお力がありますし、森に長く住む獣人の皆なら見つけてくれるという確信がありました。
寧ろ肉食の獣に見つかるかもしれないと、じっと待っていました。
はっきり言ってしまえば怖かったです。そして寒かった。
洞の中も風は容赦なく通り抜けます。
霧も出てきて、尚のこと出歩く選択ができないと結論付けた時は、軽く絶望しました。
「?」
その時、視界に淡く光る玉のようなものが見えたのです。
暖かく、そして明るかった。
次第に数も増え、洞の中は火を灯したようでした。
「……エルフ様のお力かな」
思わず独り言ちて、掌の上の淡い光を見ながらゆっくり目を閉じました。
目が覚めると同行していた獣人さんの背中でした。
ゆっくりとこちらを気遣うように歩く感覚は心地よかったです。
里に着いたときは部隊のリーダーさんや長様、おばば様に怒られました。雷が落ちたようでした。
場所が分かったのはそこだけ明るかったからとか。
あの淡い光は精霊様らしく、見つけた時は驚いたらしいです。
「無事で何より……あまり離れ過ぎないように」
「ごめんなさい」
「お前も気をつけろ。オウルは人間なんだ」
「……すいません」
兎も角、精霊様の姿を視認出来たことをエルフ様に伝えることとなりました。
最もその時には森を通して伝わっていたのですが。
後日、長様に呼ばれて家に向かうと何冊かの本を渡されました。
「エルフ様より精霊術の使用許可が下りた。これが教本だ」
「! ありがとうございます!!」
学ぶことが増えた日でした。
精霊様は獣人やエルフ様が気に掛ける人間というのが面白かったようで、興味を示したそうです。
精霊様との会話や術の練習は今までで一番難しいものでした。
「精霊様……?」
急に会話が出来なくなったり、術式途中で中断されたり。
本で読みましたが飽き性で気紛れな面が目立つそうで。
正式に精霊術の使い手として認められるまでが相当長いとのこと。苦労しました。
二年ほどして、ある程度精霊様がお力を貸してくれる頻度が増えました。
精霊様からしてみたら『困っている友達を助けてあげる』程度ですから、まだエルフ様や獣人の皆のようにはできませんでした。
これに関しては精霊様とどれだけ信頼関係を築けるか、仲良くなれるかに懸かってますからコツとかがないのです。
「……懸命な姿は精霊様も見てくれている。きっともっと仲良くなれる」
「長様!」
長様やおばば様、獣人の皆、手紙越しではあるけれどエルフ様からも励まされながら努力し続けました。
もう一年もすればだいぶ早目ではありますが高い完成率となってきました。
精霊様たちは人間と会話出来るという非日常に慣れ、この人間は精霊術を使いたいんだと認識され始めました。
今の今まで認識されてなかったことに白目を剥きそうになったのはいい思い出です。遊び相手として見られていたんでしょう。
そんなこんなであまり手間取らない程度の精霊術なら使えるようになりました。
しかし里の皆のようなフィジカルも、エルフ様のような技術も無く、まだまだこれから。
それでもこの頃には森の中で迷わなくもなってきました。
哨戒班や少人数での狩りに同行することも多く、散歩もさせてもらえるようになりました。おばば様は毎度心配そうに見てきますが。
「ちょっと奥の方には湖があるんだね」
「懐かしいねぇ。あの湖は昔から漁場として使っているけれど、もう釣りはさせてもらったのかい?」
「うん。釣り竿自作してやらせてもらったんだ。静かで和やかな時間だったよ」
おばば様と暖炉のある部屋で道具の点検や準備をしながら何気ない会話をするこの時間が何よりも好きです。
小さい頃から私を見てくれているおばば様には自分の成長を一番知っておいてほしいと思っています。
「オウル。この間仕掛けた罠、見てきてくれるか?今日の哨戒ついでに」
「いいよー。けもの道が近くにあったし、外れては無いと思うから安心して待っててね」
門を抜け、哨戒班の皆と共に里を出ました。
罠は帰りにということで一先ず森の中を歩くことになりました。
哨戒と言っても森にエルフ様が変化があれば即座に獣人の里に連絡が来ますから、念のため見回っているといった感じでした。
悪意のない人間が迷い込んだという過去があり、検知できないという可能性もあるとのこと。
そんな話を聞いていたからなのか。
「リーダー」
「これは……」
誰かが罠の解除をした形跡がありました。
罠を張ってから見に行く人はいても獲物を持ってきたというのは聞いていない。
そろそろかかってもおかしくないくらいの日数は経ったから頼まれたのに、明らか手による解除でした。
「人ですかね?」
「エルフ様からは何も聞かされてないが……」
かかっていたと思われる獲物の羽や血が散乱していて、辿れるほどではないが、かかったのが鳥類ということ、そして羽から種類が判別できました。
獣人の鼻なら追跡が出来るだろうということで痕跡を辿ることに。
できる限り音の出ないよう慎重に進み、森の端の方に行商らしき人と馬車、武装した数名の人間がいました。
こちらには気付いていないようで、丁度食事の準備をしているようでした。
(……初めて見た。私以外の人間)
「罠にかかってた⁈」
「え? ハイ」
揉め事のようです。内容的に鳥の話でしょう。
「おま、そっちの森に入んなっていったよなぁ⁈ この道挟んでこっち側で狩りはいい! そっちは獣人やエルフの土地だって聞いてなかったのか?!」
「え、いや、新鮮な肉食べれるんだしいいじゃないですか。バレませんて罠の一つや二つ」
「ばっ……お前、エルフの森に入ったらすぐバレんだよ! 何人死んでると思ってる!」
実際バレてますし、哨戒班のみんなもとりあえず様子を窺っているようです。
「……リーダー、人間相手ですし私が行きましょうか?」
「……うぅむ」
獣人の里に人間がいるというのは勿論知られていません。
ここで人間である私が行っても獲物の横取りだと思われるかもしれないから危ないとのこと。
「あのぉ……もしかして商品も狙われたりしますか?」
「えっ……あー、そうですねぇ……向こうさんが来る前に逃げれば…」
「今日以降、ここを安全に通れる保証がお前に出来るんか?」
「……」
ちらっとリーダーの方を向くと微妙そうな顔をしてました。
「……別に鳥一羽盗られたからって殺さないんだが」
「商品を代わりに貰っては? 鳥一匹分くらいの価値で」
「……そうするか。アレを見る限り逆上はしなさそうだから、交渉しに行こう。オウルは顔隠せ」
がさがさと音を立てながら道に出ます。
顔は布で隠して、リーダー達の後ろにこっそりついて行きました。
「!」
「げっ……」
「争うつもりはない。一旦武器を降ろしてくれ」
反射的だったのか、剣や槍をこちらに向けてきました。
相手が獣人だとわかるとばつが悪かったのか切っ先を少し降ろしていましたが。
「……驚いたな。すぐに襲ってくるかと思ったが」
「別に我々は人肉は食べないのでな。あらかたの話は聞いていたし、獲物を盗ったというのも聞こえた」
「うっ……」
「お前……」
武器を仕舞い、申し訳なさそうな顔をして一歩前に出てきたのは、さっき怒っていた人でした。
「申し訳ないが、この御仁の荷物以外で手を打てないだろうか」
「鳥一羽分の何かを貰えればこちらとしては構わないんだが」
リーダー同士での会話が始まり、それをそばで見ていましたが、こちらの鳥の価値と向こうの鳥の価値で相違があるらしく会話が長くなりそうでした。
とりあえず商人に盗った人がお金を払うということで商品を見せてもらうという結論に。
商人さんの馬車には見たことがないものが多く乗っていて、リーダーが人間とあーでもないこーでもないと話している横でじっと色んなものを見ていました。
しょげている盗人さんの傍ではこちらをちらちらとみる仲間の人もいましたが、気付かず哨戒班のみんなにあれこれ尋ねていました。
「あのぉ……」
「?」
軽装に弓を背負った女性がこっそりこちらに来て、少し聞きづらそうに哨戒班の方を向きながら小声で耳打ちしてきました。
「獣人……じゃなくて人間ですよね?」
「……」
リーダーの方を見るとまた微妙そうな顔をしていました。
聞こえていたんでしょう。耳いいですから。
「あー……その子は森に捨てられていたのを拾ってな。かれこれ一七年程度は里で育てている」
「オウルと言います。初めまして」
「あ、うん。初めまして」
懐疑の目でリーダーの方を見ていたので、ほぼ同じ目線の同じ人間に出来る限り優しい雰囲気で話しかけました。
「何をどう考えているか、何となく分かりますが、私は幸せですよ。この森で育って」
「!」
気持ちを言語化するには、言葉の知識が足らないそれしか言えませんでした。
それでも十分伝わったようで
「……ごめんなさいね。疑いました」
「いや、こちらとしてもそういう印象を受けているとは思っている」
「そういえばリーダー、決まりましたか?」
「え? あ、ああ。待ってくれ」
食料ではなくアクセサリーを購入し、森に戻る。
「では。失礼します」
「ええ。元気でね」
森の中に戻りつつ振り返る。
もうきっと向こうからは見えない。
でも確かに、あの道に私以外の人間がいた。
アクセサリーは木の葉の飾りがついたペンダント。
リーダーが長様含む男性陣に報告しに行っている間にペンダントを家の入口に飾り、おばば様に今日あったことを話しました。
おばば様はひどく心配していたが、私が笑顔を見せながらしゃべると次第に安心した顔になっていった。
葉っぱのアクセサリーは出掛けるたびに眺めるようにしている。
里にいるとどうしても悪い人間の話が多く聞こえるけれど、これを見ていると私を純粋に心配していたあの女性の目を思い出す。
リーダーたちを見る目は厳しい物だったけれど、あの目を覚えているだけで悪い人間ばかりではないということを覚えていられる。
私がいつかこの里を出るとしても、少なくともあの人はきっと助けてくれるだろうと思える。
森の外も見てみたい。
その気持ちが一層強くなり、その気持ちは日に日に増大する。
こうして人生を振り返りながら書いた日記のようなものが現在に追いついた。
私は今日、里を出る。
長様やエルフ様に許可を取るのに苦労したのもいい思い出だ。
魔術に興味があるという理由を話すとぎょっとされたものだ。
魔術を知っていれば人間に対する対策を講じられるから、人間側の町や都市がどうなっているのかの情報が全く入っていないことなど、説得を出来る限り正面からした。
もっとも納得というより根負けという感じだったけれど……
「ほんとうに行くのかい?」
「おばば様……私は里のためというだけではありません。私のために私が動くのです」
「オウル……」
「必ず戻ります。この私の育った家に」
必ず戻るのだ。魔術を覚え、人の今を見て、里がより安全になるように。自分の見聞を広げるために。
おばば様を抱きしめ、今までの感謝をささやいた。
さよならとは言わない。行ってきますといつものように言って、門の方に向かう。
門前広場には里の皆が集まっていた。
「本当に行くのだな」
「はい、長様。魔術も人間社会も、学ぶことは決して無駄ではないはずですから」
「……魔術が嫌われていることを分かっていてか?」
「好きと嫌い、出来る出来ないは別問題ですよ長様。精霊様に出来て悪魔に出来ないことはあるかと思いますが、その逆もあるはずです」
「……不敬だぞ」
「精霊様はこんな人間の戯言一つでお怒りになるほど器は狭くないと思いますよ。それにこの旅で精霊様が何もかも出来ると証明できるかもしれないじゃないですか」
かなり無理を言っているし、私も不敬だとは思う。
けれど魔術の得手不得手が人間社会で重宝されているのはそれだけ適合しているということのはず。
この森と何が違うのが知りたい。
精霊術で事足りるなら人間は魔術、エルフ様は精霊術ときっぱり分かれないはず。
「何があっても私はこの森に敵対しません。これだけは私のすべてに誓います」
「……」
皆がこっちを見る中、門を通り抜ける。
ただの自己満足に大きなリスクが伴っているのは分かっている。
渋い顔をされるのも長様の立場からすれば当たり前のことで。だから
「いつでも帰ってこい。みなが娘の帰りを待っている」
「っ!」
こちらを向くことなく、その大きな背中から聞こえたその言葉は、不安と期待が混ざったようなモノでした。
少し湿り気のある声音は、私を引き止めるのではなく追い風を吹かせてくれるような長様らしい言葉を紡ぎました。
「行ってまいります」
その言葉と共に思わず止まった足を動かし始めました。
ネックレスとして首に掛けたあのアクセサリーを片手で触りながら。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
初めまして。御堂瑞駆と申します。この作品が初投稿の小説になります。
ご意見、感想などありましたらご一報くださるとうれしいです。
こちら筆者のTwitterアカウントです。(@Mimizuku_Oul)https://twitter.com/Mimizuku_Oul