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第73話 軍議

「それではこれより軍議を始める。各自、兵数と兵糧の量を報告せよ」


宣戦布告文がクヌート教の教皇から届いて32日後。無事にカルリング王国とレナート帝国以外の各国の軍がエストアニ公爵領に集結したようで、これから軍議が始まるようだ。


……何でちゃんと身元確認しないんだろうね。カルリング王国のアラン公爵領のナナシ伯爵ですと言ったら、普通に通ったんだが。警備がザル過ぎる。まあこんなところに、敵の総大将が紛れているとは普通思わないだろうけど。


ちなみにナナシ伯爵はアラン公爵領にいる実在する伯爵です。ナナシ伯爵領ってあるしな。誘拐して牢屋に閉じ込めているのでこの場には間違いなく現れないし、カルリング王国の封臣はこの場に誰もいないので特にバレたりもしていない。率いている兵力は、近衛兵の800人だけ。……この800人の上級奴隷でも、良い勝負しそうなのがなあ。


進軍ルートは、わざわざ峡谷を通って来てくれるようなので仕掛けた落石トラップは無事に稼働するだろうし、そこに流れる川に毒を流せば全員に効果がありそうなほどには水を持ち込んでいない。なんか兵糧を一括管理するようだし、そこを燃やせば全軍が飢えて死ぬな。


峡谷の終点には堅牢な砦があるし、回り込んで蓋をすれば脱出できずに全滅するんじゃないかこの軍。敵軍の上層部がアホ過ぎて兵の方が可哀想になってきた。相手が強大だからって一か所に集中するところがもうね……。まだそれぞれの王や公爵が好き勝手越境してきて略奪される方が辛かったよ。こちらは軍の細分化に、限界があるし、全ての国境を守り切るというのは難しい。


しかも立候補したら兵糧の管理役を任されたという。そんな重要な役回りをカルリング王国のよく分からない封臣に任せるなよ。配布するのは確かに面倒だろうけどさ、燃やされる懸念とか一切ないのか。駄目だ、ヴァーグナーがまとも過ぎる対戦相手だったせいでやる気が急に削がれてきた。


とりあえず、峡谷に入ったぐらいで兵糧を一か所に集めたら、夜の闇を利用して放火。その後、コルネリアに先導させて部隊ごと逃げる。持ち帰れないほどの兵糧だったけど、勿体ないので一部はちゃんと持って帰って来た。マシア王国の兵糧は、酒などのアルコール飲料が多かったしな。


酒は少量なら、気付けや気晴らしに使えるからそこら辺はちゃんと考えている模様。用意していた量からすると、結構な数の兵に行き渡らせるつもりだっただろうし、持ち運びしやすいように度数の高いアルコール飲料を多数用意していた。ちょびっと飲んだけど、たぶんアルコール度数は70%近くはある。


ということは、それらの飲料は引火しやすいわけで……それらの度数の高いアルコールはばら撒いたし、放火した火はあっという間に大きくなって大騒ぎになっている。逃げる部隊の足は速い方なので、まず捕まらないけど。暗視持ちがいないと、夜の森林で歩き回るとか遭難不可避だし。


兵糧を100%全部集めたわけじゃないし、各軍がそれぞれ別で管理している兵糧はあるだろうけど、そんなに長い日数は持たないだろう。峡谷の蓋をするための第三師団と合流して、逃げ道は完全に封鎖する。こんな袋小路の地形に、大軍で突っ込むとかもう少しまともな頭を持つ奴はいなかったのか。


……まあでも地球の歴史でも、あり得ないほど馬鹿なことをしでかした指揮官というのはかなりの数だし、今代のクヌート教の教皇はとてもアホだということだな。兄弟全員を皆殺しにしたマシア王は、別ルートの提案をしていたけど教皇に押し切られて離脱しない時点で期待してないです。


よく考えたら隣国を侵略戦争で支配しようとするより、クーデターで新マシア王国派の傀儡国家を作ろうという思考の時点でわりと軟弱者の思考だ。防諜面は優れていたけど、軍力もそこまで強大ではなく、マシア王自身は2万しか率いていない。


この峡谷、近道と言えば近道ではあるんだけど……冬山に登らせて80万人を失った某大国の指揮官とどちらがマシだろうか。この軍、合計したら10万5千人ぐらいはいるんだけど、何で一極集中運用をするかなあ。


案の定、挟み撃ちの形になった連合軍は幾つかの部隊が山を登って逃げようとするけど逃がしません。この道を通るとこの軍が決めたその瞬間から、何ならその前からこの道に大量の罠を仕掛けたのに逃げ切れるわけがないだろ。


そして人が逃げようとするとき、一番邪魔になるのは人の死体だ。正確には、死にかけの人だろうか。大砲の弾を撃ち込まれ、銃で足や太ももを撃ち抜かれ、地面に倒れ伏す人。そういう人は、他に逃げ出ようとしている人へ助けを求めたり、文字通り足を引っ張ってくれる。先頭を走る人から死にかけるお蔭で、部隊全滅が容易だ。


残りの大半は、蓋をした部隊の方へ突撃をしてくるけど近衛兵800人が加わった第三師団の人数は7000人を超える。狭い峡谷の出口、正面戦闘幅が狭いのに不死隊を突破しようとするとは本当に命知らずというか、物知らずというか、哀れだ。


……せめて別動隊を作れば、もう少し苦戦したんだけどな。騎馬突撃をしてくる敵軍を、一斉射撃で撃退する様子はまるで第一次世界大戦。第一次世界大戦と違うところは、こちら側は突撃をする必要がないことだけだな。後詰の部隊も来るようだけど、規模的には1万人以下だろうし問題にもならない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 対戦ありがとうございました^^ って感じかな
[一言] ふと思ったが、現代でも同僚の免許証やパスポートなんて確認しないよな。あれ、会議の内容ダダ漏れ…
[一言] 大義名分には事欠かないし、大陸規模の大恐慌の中まともに食料がある国だから、略奪も狙って集まってそうだな
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