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第7話 次男

この世界は分割相続制を採用しているけど、その最大の理由は皇帝の封臣達に力を持たせないためだ。なお皇帝も直轄領を幾つか持っていて、それが相続時には分割相続されるから、場合によっては普通の貴族より血みどろな兄弟争いが起きるけど。


正妻1人、側室3人。計4人と結婚出来る以上、男子が生まれないというケースは少ない。そのため、男子が生まれないことによる御家断絶の危機は少ないものの、分割相続が嫌だと長男だけしか用意しなかった場合、その長男が戦死したり病死したりすると、一気に御家断絶の危機が高まる。


だからまあ、次男を用意することは多い。これが後々のお家騒動になることも多いけど、リスク回避は重要。そして年を離して、三男以降の保険を用意する。これがこの世界の貴族の一般的な常識であり、三男以降が成り上がれる可能性は著しく低い。


長男次男と三男以降の年を離れさせる理由は幾つかあるけど、一番大きいのは相続時に成人していない可能性が高いことだろうね。三男以降が15歳になる前に父親が死ぬと、三男以降はまだ子供なのに伯爵領の領主となる。


領主が子供であるというのはそれだけで戦争を仕掛ける大義名分にもなるし、実際に大きな公爵家とかで分割相続が起こった後に一番多い宣戦布告の内容は「相手領主が子供」だ。あとは前のオーブリー王国侵攻の時のように先に相続させ、長男の領土拡張を手伝う手法もわりと一般的だ。こっちはリスクも少ない。


まあそれでも、長子相続よりかは代替わり時に家の力が確実に削れる。分割相続を嫌って子供の数を制限すれば、流行り病とかで一気に御家断絶の危機。逆に増やし過ぎたら相続時に長男が勝てなくなる可能性が高く、親の旧領回復に時間がかかる。周囲の貴族を見渡すと男子が3人~4人というのが、一般的なのかな。そして大体のケースが、長男か次男が父親の旧領をまとめ上げる。長男次男と三男以降の差は、年の差以上に大きい。


リンデさん以外誰にも祝われない11歳の誕生日を迎え、来年に一度婚約したリンデさんの実家であるシュルト公爵家に向かう計画を立てた頃。次男のアルフレートに息子が生まれたという報告を聞かされる。長男のヴァーグナーはまだなのに、次男の方はもう孕ませたのか。というかこれでもう叔父さんになったのか。11歳で叔父さんになるとは思わなかったな。


ちなみにこのアルフレートの息子は、アルフレートが受け継ぐ予定の伯爵領2つの請求権を生まれながらに持ってます。一方で長男や俺が相続する土地には一切権利を持たない。基本は、父親の権利を相続すると考えれば良いね。


それにしても18歳でもうパパになるって異世界凄いな。いやむしろこれが普通で長男のヴァーグナーが遅いんだけど。でもまあヴァーグナーの正妻は皇帝パウルス4世の娘だから仕方ない。六女だけど、立派な皇女です。ヴァーグナーの3歳年下のはずだから、今年17歳か。まだ子供を産むには心配な年齢なのかな。


……アルフレートは連れて行ったメイド達と結婚していたけど、4人までの結婚相手の内、3人がメイドでした。我が父バイヤーのえげつない策略です。なお正妻だけは流石に庶民と結婚させるわけにはいかなかったみたいで、南西にあるオーブリー王国の更に西にあるボルグハルト王国の第四王女と結婚させた模様。長男との戦争になった時、次男は他家の援軍の期待は出来ないな。来たら次男にも勝ち目出て来るけど。


側室3人をメイドで埋められると、アルフレートは新たに婚姻同盟を結べなくなるし、側室との離婚でも評判は下がる。長男の領地拡張を手伝うのとは対照的に、次男へは地味な嫌がらせをしてるな。まあアルフレートが結構盛んというか、実家にいる時からメイドを口説き落としてヤッていたイケメンだから当人は気にしてなさそうだけど。正妻との間に息子も生まれたし、長男であれば順風満帆だった。


……アルフレートは珍しい雷属性魔法の使い手な上、本人の戦闘能力も馬鹿高いし、公爵家の次男はまだ後継者争いで勝つ可能性もあるからモテる。統治の方は優秀なメイド達が領内を管理しているからか、堅実に発展をしている上に、前のヴァーグナーの戦争を助力した時に得た金と領内で見つかった金山から出る金を合わせて今は城塞を建設している。


……これ、親父にとっても金山が見つかったのは想定外だったんだろうな。もし最初から金山が出ると分かっていたなら、こっちをヴァーグナーに引き継がせたかっただろうし。しかしながら既に長男には2つ伯爵領を与えているので、ここから次男の領土を引っぺがして長男に与えるというのは相当難しい。


バイヤー自身がこれから伯爵領3つ分ぐらい獲得すれば何とかなるけど、そもそも引っぺがす時に反乱されるだろうし、こればかりはどうしようもない。ここで次男を殺しても、既に息子がいるから受け継がれてしまう模様。評判も下がるし、不審な行動が多い俺に相続される伯爵領が増えるからたぶん没収は出来ない。


次男の領内で金山が発見されたという報告を受けて、俺も受け継ぐ予定の伯爵領で金山銀山を探すけど何も得られず。一応大きな山はあるけど鉱山ではありませんでした。何だこのクソゲー。現実かよ。世知辛いなあ。というか今見つかったら将来受け継ぐ予定の領土を入れ替えられるじゃないか。危なかった。


日に日に強大になっていく兄達を見ながら、今日も俺は屋敷でお勉強です。兄2人のスペアとはいえ、この状況でもまだ教育を受けさせてくれるというのはありがたいね。なお教育レベルが低すぎて外交マナー、礼儀に関する勉強時間以外は寝て過ごしている模様。奴隷への鞭打ちで疲れた身体を唯一癒せる時間です。

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[良い点] 淡々とした書き味なのに読みやすくて、続きが気になる作品です。 中世と言えば、人の正義より教会と神、王と皇帝の正義の時代です。 『聖王』とついてもやることが俗物の兄から、大義名分で潰され…
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] リアルの中世ヨーロッパも、史料を見てると、 この物語で描かれた様な殺伐とした世界であった事は想像に難くない。 畜生道というか修羅道というか。 …
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