第70話 反乱
新しく領内に加わったクラウス公爵領、ディスモア公爵領、上テレンス公爵領で宗教改革を行っていたら、クヌート教の信者達が蜂起した。残念でもないし当然。およそ1万人ほどの農民が蜂起し、パルパル教信者と衝突しているようだけど、各地で鎮圧をされている。
これ幸いとディール王国にいるパルパル教信者が勝手に集団となり、軍となり、この反乱軍と激突したからだ。何やってるんだこいつら。パルパル教信者の一部は完全にアンチ宗教活動家になってるな。今は都合が良いから放置するけど、いずれ厄介な存在になるかもしれない。
万規模の軍隊同士が戦っているのに、ほぼ全軍が農民兵というのもこの戦争の面白いところだな。もちろん国としてこの衝突に介入しないわけがなく、第一師団を送られた戦場では虐殺に近いことが行われたとか。奴隷兵も大砲も小銃も弩も、何もかもが農民兵だらけの戦闘集団よりは強い。
クヌート教を守るために立ち上がった農民達は、ほぼ全員が討ち死にという凄まじい結果となり、この戦争に参加したパルパル教信者には大量の金が支払われた。そういう教義だし仕方ないね。なお資金源は反乱を起こした家族や本人の財産を全部没収して流用しました。土地や家、服や靴までも全て没収したので余裕で黒字です。
反乱を起こした家族とかからも没収したのは、完全に見せしめ目的だ。なお「パルパル教に改宗して許された派閥」と「息子や親が死ぬまで戦ったのに改宗して許されるとか許せん派」で再度抗争があったようで、特に上テレンス公爵領では大量の死人が出た。死んだのは大半がクヌート教信者なので懐はそこまで痛くないです。まだ国民にもなってない奴らが何人死のうが問題にもならない。
ちなみにディール王国では宗教の不自由を採用し、パルパル教を国教としているのでパルパル教信者以外はもう国民じゃない。逆にパルパル教信者は1人1人国民登録を行い、納めた税の分だけ優遇措置を行っている。何か国民が俺を見る時の目がもう人を見る時のそれじゃないし、恐れられ過ぎているからこそ出来ることだな。
あと、これに近しいことはクヌート教でも行っている。あの宗教、他教徒には基本殺意を向けるからな。伊達に数百年間、この地上を席巻していた宗教じゃない。まだパルパル教が殺したクヌート教信者より、クヌート教信者が殺した他教徒の方が多いぐらいだ。
古今東西、地球の歴史や物語でこういう暴君は暗殺されたり最後は悲惨な結末を辿っている者が多いけど、俺の場合はたぶん殺せないんじゃないかな。そもそもこの世界では、基本的に強い王が求められる。過去のカルリング帝国の皇帝の肖像画とか、クラウス家の歴代当主とか、誇張はされてあるだろうけど全員体格が非常に良かった。
……太古から階級というのは存在していたが、太古の時代の長の決め方は武力によるものだ。武力を持つ者が富み、周辺勢力を支配下におさめることで国になっていく。今俺がやっていることはその延長だから、時代を逆行したやり方だな。
今日は変装をして、自分の領土となったクラウス公爵領、その中核的な伯爵領であるクラウス伯爵領を見て回る。まだまだクヌート教信者が残っている地域だけど、これはヴァーグナーのせいだな。聖職者に多く金を回していたようだから、宗教関係者がわりと元気だ。
市場の方へ行くと、入り口にはやる気の無さそうな警邏の人間と、クヌート教の女神像があった。元々はクヌート教を信仰していた地域、こういう女神像は至る所にあるけど、ただただ破壊して壊すのは勿体ないような気がしたからクヌート教信者を炙り出すための玄関マットにするよう言ってたな。
当然女神像は、横にして寝かされている。既に何度も踏まれた後なのか、抽象的な顔の部分の鼻が折れていた。いやこれ踏むの危ないんじゃない?あ、靴で踏んで良いんですか。
軽くゲシゲシと踏むと、入り口の警邏のお兄さんはどうぞー、と通す。ザルかよ。そして俺の後ろに並んでいた女性は、女神像を踏めなくて躊躇する。このザルすら通れない人がいるのかよ。
クヌート教だと判明した瞬間、警邏の人間に突き飛ばされる女性。この世界の人間って、適応力が高いというか、上がこうだと決めたものには従う習性があるのか、既にクヌート教信者は国民じゃないという意識の者もいるようで、こういう光景はよく見かける光景らしい。
その女性の影からは、子供が出て来る。まだ5歳ぐらいの子供で、恐らくはこの女性の息子だろう。彼は素直なのか、女神像を踏めと言われると素直に女神像を踏む。
その瞬間、女性は子供に対して殺意を向け、護身用なのか小さなナイフを取り出したので、警邏のお兄さんが即座に捕まえる。あれ?この子供、女性の息子じゃなかったのかなと思って確認をすると、子供は女性を指で指し「お母さん」と言う。……子供はすぐ洗脳出来る理由と、大人はすぐには洗脳出来ない理由を垣間見た気がした。




