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第64.5話 寸劇

パルマーが獲得したミラー公爵領では、パルパル教に鞍替えした者によるクヌート教への迫害が始まっていた。地球だと古来より人は、他宗教の人間への迫害を繰り返している。特に宗教と政治が密接に結びついていた中世後期までは、異教徒の人間というだけで敵だった。


クヌート教の人間が未だに多いミラー公爵領。その一男爵領を任されたパルマーの元奴隷は、まず教会の破壊を行った。パルマーが元奴隷の男爵達には自書である『初めてでも分かる男爵領統治方法』というマニュアル本を配っており、その中の最初の一ページ目に書かれているのはクヌート教の教会の破壊だった。


ちなみにこの本は88ページまであり、元奴隷は文字を読めることが男爵になることの条件となっているため、パルマーの元奴隷で男爵の地位を狙っている者は全員がこの本を読み込んでいる。


当然、教会の破壊などをしていては領民の反感を買う。元々、クヌート教信者の男爵がその地位を没収されていたことも影響した。中には武力を持って、新たな権力者を取り除こうとする者もいた。しかしながらパルマーの奴隷の中でも特に優れた者であるこの男爵は、反抗して来た者を全員捕らえて宙吊りにする。


十数名の屈強な男達は、全員この元奴隷に気絶させられた。街の中央で宙吊りにされた男達は目を覚ますと、元奴隷の男爵に問われる。


「お前はクヌート教の信者か?」

「ああ!そうだ!とっとと解きやがれ!」

「じゃあ殉教しろ」


そして自身がクヌート教だと言った者は、殉教させられた。男爵の持っている剣が、その男の心臓を貫き、血が噴き出る。見物していた街の住民からは悲鳴のような声が聞こえるが、檀上にいる男爵は意に介さない。中には檀上にいる男爵を殴ろうとして、街の住民達に必死に止められる者もいたが、それすら意に介していなかった。


「クヌート教は、殉教すれば天の国に行けるそうだな?パルパル教は、そんなクヌート教の信者達を殉教させるのが使命であり、殉教させた者には褒美が与えられる」


ここでパルパル教の教義を話す男爵だが、その教義を知らない者はさほど多くない。既にパルパル教はミラー公爵領全域に教義が伝わっており、そして大半が毛嫌いしている。他の宗教の信徒を殉教させることが使命など、あまりにも馬鹿げた宗教だからだ。


男爵がこの教義を話した意図が見えない街の住民達は、次の発言で半数以上が意図を理解する


「さて。この中にパルパル教の同志はいるかな?いればこのクヌート教信者を殉教させる手伝いをして欲しい。教皇様から与えられる褒美は、前払いで私から全額手渡そう」


既に宙吊りにされている男達は全員が自身をクヌート教信者だと言っており、その後に口枷を付けられたので反論することも訂正することも出来ない。やがて、見物している街の住民の中から1人の少年が現れ、自身をパルパル教信者だと言う。もちろん仕込みであり、この少年は本来この街の住民ではないが、それを気に留める者はいない。彼は他に名乗り出る者が居なかった場合にだけ登場する、男爵の助っ人だ。


そしてその少年は、宙吊りにされている男性の喉を渡された剣で突き刺す。多量の血が出てしばらくの間もがいていた男は、やがて身体の動きを止め、その生命活動を停止させた。返り血に塗れた少年は、若干肩が震えているが、それは演技である。その肩を男爵は叩き、少年に告げる。


「素晴らしい信徒だ。一番最初に殉教させた勇気ある君には私からも褒美を渡そう」


完全にクヌート教信者の男性が死んだと男爵が確認すると、少年に対して小袋を渡す。その袋をその場で少年は見せつけるように開けると、中には複数枚の銀貨が入っていることを確認し、少年は大喜びした。10歳にも満たなさそうな少年が大人を殺し、大金を得る姿を見て一部の住民は悲壮感を強めるが、逆に一部の住民は少年を羨ましがった。


「さて。まだ12人ものクヌート教信者がいるが……他にパルパル教の信者はいるか?」


改めて男爵が呼びかけをすると、数人の街の住民が手を上げる。全員、金に釣られたのは間違いないが、パルパル教信者になろうと思ったことに違いはない。こうなれば、負の連鎖は止まらない。やがてパルパル教信者がクヌート教信者を殺す流れを作られ、この日生まれた12人のパルパル教信者は、12人のクヌート教信者を殺し、数百人のパルパル教信者を生み出した。


こういった光景はパルマーが元奴隷の男爵を派遣する度に繰り広げられ、自然とクヌート教信者は淘汰されていく。どの男爵領でも、演劇のように同じことが繰り返されるが、2回見る者は少なかった上、2回も見た者は大半がパルパル教に鞍替えをしていたから関係がなかった。


次第にミラー公爵領は全員がパルパル教に染まっていき、クヌート教信者を殺せる機会である聖戦を待ち望むようになる。集団心理を利用した寸劇は、男爵の統治をスムーズに始めさせると共に、多大なメリットをパルマーに提供した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 余りに邪悪過ぎて笑った [一言] でも日本人って倫理抜けたらというか、一皮向けたらこうなりかねない闇の深さでは世界トップクラスな気はするんだよねぇ
[気になる点] よく考えたら今反映している宗教のほとんどがこういう一面を時代のどこかでもっている気がする >倫理観がおかしいだけで 非常にシステマチックで健全な組織の拡大方法ですね 共犯関係による連…
2021/07/13 04:14 退会済み
管理
[一言] まあこう言われると殺されたくないは通らない教義だよな
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