第6話 文通
将来的な結婚相手を知りたいというのは当然の欲求だし、そう簡単に会える距離でもないので、婚約者同士で文通を始めるのは貴族だとよくあること。というわけで文通を始めてみれば、軟禁気味だということが分かった。そりゃシュルト公爵家にとってはあまり世間に出したくないような娘だしねえ。
病弱気味とも聞いたけど、単純に運動不足なんじゃないかな。いやアルビノって先天的に身体弱いっけ。とにかく屋敷の離れにポツンと建てられた小屋に住んでいるようで、基本的に外出は許されていないようだ。
……8歳なのにとてもしっかりとした文なのは文章校正係とかいるからかな。もしリンデさん自身が書いているなら頭の方は期待できるけど。
病弱&身体が弱いということから、下手したら結婚する前に身体を壊して死ぬ恐れもあるから、それとなく運動はするように言っておこう。運動嫌いならもう色々とアウトだけど、この文面を見る限りだと現状彼女がとても暇だということがよく分かる。
『食事は身体を動かせないのであまり喉を通らないですわ。病気になりがちですし、外へは滅多に出して貰えないですし、屋敷の本は粗方読み尽くしたので今は貴方様との文通だけが生きる楽しみですわ』
「身体を動かしていっぱい食べて欲しい。自分の部屋があるなら、筋トレすることをオススメするよ」
『筋トレ?部屋でも身体を動かせますの?』
「基本の腕立て伏せ、腹筋、スクワットでも毎日やれば身体を鍛えられるし、身体を鍛えると病気になりにくくなるよ」
とりあえずリンデさんと文通で、筋トレを教える。いやだって部屋で出来る運動って簡単な筋トレぐらいじゃない?時間は有り余っているようだし、身体を鍛えれば病気になり辛くなると吹き込んで、可能な限り毎日筋トレを行わせる。アルビノでも、身体を鍛えることは可能じゃない?よく知らないけど。
あ、俺は筋トレしてません。前世はただの一般オタクだった人間が、筋トレなんて面倒なこと毎日継続できるわけないじゃないか。一時は剣を振るう冒険者になるために続けていたけど、2ヵ月ぐらいで飽きたし剣の才能ないって言われたし……。今はもうやらなくても良いかなって。
逆に鞭打ちはよく続けられるなと思ったけど、考えてみたら自分の身体は傷つけてないわけだし、痛みにも耐性が出来たからかな。耐性が出来ても痛いものは痛いし、ずっと鞭を振るい続けて、得られた耐性は痛覚軽減レベルⅠだけだからこっち方面の期待はしないけど。
そして文通を続けていると、こちらからの手紙1通に対して向こうからの手紙が2通以上来るという意味の分からない状態に突入した。この子暇過ぎない?いや軟禁されているお嬢様ってだけで暇そうなのは分かるけど、こちとら奴隷に鞭打つ作業や将来的に領土となる伯爵領にいる男爵の懐柔とか色々と仕事あるんですけど。
『V字クランチで1時間キープ出来るようになりましたわ!』
『最近、よくお肉を食べるようになりましたわ。汗を流した後に食べるステーキは最高ですわ』
『特性で「怪力」を取得していましたわ。筋トレは正義、ですわね。教会の方々も私を見てびっくりされてましたわ』
『片腕だけで懸垂ですか。なるほど。腕一本だけで身体を持ち上げるのは良い筋トレになりそうですわね』
『昨日は片腕懸垂を100回、右腕と左腕でやりましたわ。終わった後は腕がパンパンになりますわね。ですが昨日よりも今日、今日よりも明日の身体作りのため、私は頑張り続けますわ』
そんなこちらの事情を無視して、どんどんと向こうから来る手紙。さて、どこから突っ込もうか。まず特性の怪力だけど、貴重で珍しい特性です。それが筋トレ1ヵ月だけで手に入るなら世の中の大半の人は怪力だよ!これが才能かあと思っていると、どんどん筋トレのレベルが上がる。そろそろ漫画の知識を導入しないといけなくなるよこれ。というか片腕懸垂とか半分漫画の世界入ってるよ。
……怪力持ちの時点で、俺より力があることは確定です。ごく一部の力自慢でも中々持ってない特性だからね。これは将来的に、尻に敷かれそうだ。物理的に。というかそのレアな特性を文面だけで伝えた筋トレで会得しているんだから世の中不公平だな。俺もそういうの欲しかったです。
こちらの手紙の返事は間に合ってないけど、それは向こうも気にしていないみたい。まだ会ってないけど、向こうはこちらに好感を持ってくれたようだし、色んな意味で会うのが楽しみ&怖くなってきた。……アルビノでゴリマッチョって、どんな感じなんだろ。
あまりにも不細工じゃなければ良いなあと思いながらも、今日も将来の結婚相手の筋トレメニューを考える。そろそろベンチプレスの概念を教えておこうか。上手く『超重』の特性を持つアーティファクトを組み合わせれば、ベンチプレスの真似事ぐらい出来るんじゃない?俺は絶対やらないけど。危ないし。
……これ、将来的にはリンデさん戦場に出るのかな。戦狂のシュルト公爵家の娘だし不自然ではないけど、アルビノの女性が軍を率いるって、凄く注目を集めそうだ。