第5話 結婚相手
兄であるヴァーグナーの戦争で、シュルト公爵の力を父が借りたいと思ったために成立した今回の婚約は、本来ならばあり得ないことだった。下手すれば家長(父)から生涯独身でいろと言われる可能性すらあるからね。それでも庶民とならば結婚は出来たと思うけど……。
で、肝心な俺の結婚相手のお名前はブルクリンデ・シュルトさんです。ブルクリンデって呼び辛い名前だな。年齢は8歳で、俺より2歳年下。噂によると貴族なのにとても痩せていて、眼が真っ赤で、白髪らしい。アルビノかよ。両目の色が違うことから、悪魔憑きとも言われているらしい。そりゃ帝国内で軍事力トップクラスのシュルト公爵家の娘なのに結婚相手が決まらないわけだよ。
現代の日本人の感覚だとアルビノということで忌避はしないだろうけど、この世界だとアルビノは忌避対象です。そりゃ珍しいし見た目が違うからね仕方ないね。そして側室の子だったという。いや俺も側室の子だから分かるけど、側室の子というだけで色々と不利です。法に従って分割相続する時は本妻の子も側室の子も関係ないんだけど、初対面の人の心象が勝手に悪くなるから辛い。
あ、この帝国と周辺諸国はクヌート教という女神クヌートを信仰する宗教の信仰者が多いけど、このクヌート教だと正妻の他に側室が3人まで認められる。これは平民でも同じで、貴族庶民関係なく嫁が4人いる奴は4人いる。分割相続の相続先は男子優先の思考なので、娘が何人居ようが息子が1人でもいれば娘達の方に相続はされない。TS転生しなくて良かった。
とりあえずブルクリンデさん、略してリンデさんと文通を始めたけど向こうもこちらもかしこまった文面の文章しか書かないから内面なんてあまり分からない。いや、8歳でこの文面の手紙を書けるということはそこそこ頭は良い可能性があるのか。代筆している可能性は十分にあるだろうけど。
とにもかくにも、結婚出来る年齢である15歳になるまではただの婚約だし、今すぐ婚約先の実家とのコネが出来るわけではない。シュルト公爵家がヴァーグナーの戦争に参加するのも、報奨金目当てだろうしな。
それ以降はちまちま領内の男爵同士の争いに首を突っ込み、報奨金を貰ったり略奪をして奴隷を50人にまで増やした頃。長男のヴァーグナー伯爵がオーブリー王国の国王に対して宣戦布告。宣戦布告内容は不当に占領しているディスモア公爵領の奪還。シュルト公爵と父のクラウス公爵も参戦し、カルリング帝国の皇帝、パウルス4世も参戦の意思を示した。
こちらの総兵力は、パウルス陛下の軍勢を抜いても8000人を超えており、5000人が動員限界のオーブリー王国にとってはこれだけでも負け戦であるのに、オーブリー王国内にいる複数の伯爵家と戦争をしている内戦状態なので完全にこちらの勝ち戦です。乗らない手はない。
というわけで俺も奴隷兵50人を引き連れて参戦。当然、次男のアルフレートも手勢を引き連れて参戦。こうしてヴァーグナーの軍の数は膨れ上がり、戦う前から浮かれまくっている兵も多い。なお普通に野戦で勝つ模様。
数と質でこちらが勝っている上、ヴァーグナーの軍の指揮官が実家から引き抜いた例の老執事であり、超優秀。こちら側の死者が16人なのに対し、向こう側の死者は712人というえげつないキルレシオを叩き出している。
……いやもうこれ兄上の一封臣として平穏に暮らせないかなあ。向こうから攻めて来るから無理なんだろうけど。
略奪を出来る限り行い、間接的にヴァーグナーの将来的な統治を難しくしようと思ったけど思っていたよりも略奪が出来ない。そりゃ本隊がいるなら略奪はそっちが行いますよね。かといって本隊とは違うルートで侵攻するのも50人だと難しいという。
というか既にヴァーグナーが一度略奪をしているから、今回はみんな荷物を纏めて逃げてしまっているという。従軍することによって得られる経験というものはあったけど、金銭的な報酬はさほどなかった。まあマジで勝手について行って勝手に略奪していただけだしな。
しかしその甲斐あって、村娘を3人奴隷に出来ました。上玉もいたので合計で200万円なり。……やっていることが完全に盗賊や強盗のそれである。あとは元盗賊の奴隷が勘を働かしてくれたので、直接的な略奪報酬が200万円ほど。従軍したことによる報酬が100万円ほど。……50人で100万だから、1人当たり2万円である。2か月ほど従軍して2万って少ないな。まあ三食キチンと出たし文句はないけど。
とにもかくにも、長男のヴァーグナーが3つ目の伯爵領を手に入れている間に、俺も奴隷を100人揃えることが出来た。……どう見ても兄の進んでいる歩幅の方が大きいけど、それを気にしたら負けである。出来ることはやった。毎日コツコツ鞭を使い続けた。その結果、鞭術レベルⅡの特性も手に入れた。
……メインウェポンが鞭って何か斬新な気がするけど、人力で一番簡単にソニックブームを出せるのが鞭だし、殺傷能力も比較的高い。戦場では共感(痛み)を持つアーティファクトじゃなくて普通の鞭を握ったけど、後ろにしならせてから前へ鞭先を飛ばせば人を簡単に仰け反らせることが出来る。顔面に当たれば、気絶させることも可能だ。
増えた奴隷達に向かってまた鞭を振るい続けているけど、これをずっと続けていればいつの日か鞭使いの達人になることも可能なのだろうか。そんなことを考えながら、今日もひたすら痛みを感じつつ、奴隷達に鞭を振るい続ける。