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第53.5話 地鳴り

パルマーに大砲の射程についての進言をしたところ、そんなに大砲が怖いなら常備軍を引き連れて下がっていろと言われ、素直に後ろへ下がっていたグラミリアンは山の異変に気付く。


一部の木が、地面から垂直に生えているのだ。本来であれば、根が地面から露出していてもおかしくない大木。それらを見て、何かが地面に埋まっていると判断したグラミリアンの行動は早かった。


「全軍直ちに山を降りて下さい!とてつもない策略の匂いがします!

パルマー様にも伝達を!」


グラミリアンが地面に何か埋まっていると直感した理由は、一定の土砂が地表にばら撒かれていることを理解したからだった。本来、見えるはずの木の根が見えないということは、地盤が緩くて木が沈んだか木の根が見えなくなるぐらいに土砂を上から撒いたということ。


土砂が大量に出る理由など、地面を奥深くまで掘った以外にグラミリアンは考えられなかった。豹変するグラミリアンを見て、パルマーの常備軍は怪訝そうな表情をしつつも素直に山を降りる。こういう時のグラミリアンの指示というのは、大体の場合で的確だからだ。それと同時に、グラミリアン以外にも山の異変に気付いた者が居たのも大きかった。


直前に、グラミリアンがエストア公爵領のエストア伯爵に昇格していたことも功を奏した。一部の伝令兵を除き、1500人の部隊は事が起きる前の下山に成功する。もしもこの下山があと十数分遅ければ、パルマーの軍の被害は甚大なものになっていた。


そして常備軍の下山直後に、山が揺れた。地中の奥深くにヴァーグナーが仕掛けていた火薬は、一斉に大爆発を起こし、同時に幾つかの水蒸気爆発も誘発させる。城も崩れ、奴隷兵が下敷きとなり逃げ遅れる。ここまではヴァーグナーの計算通りだったが、ミスもあった。


本来であれば山の片面だけを崩すつもりが、あまりの威力に山の至る所で土砂崩れが起きたのだ。事前に準備していた火薬の量が多すぎたこと、パルマーの奴隷達の不死性を恐れて過剰に崩落の準備をしていたこと。前日に雨が降り地盤が緩んでいたこと。様々な要因があるが、この山の崩落に巻き込まれ、パルマーと近くにいた奴隷兵の部隊は完全に土砂の中に埋まる。


それと同時に、ヴァーグナーの城を守護していた兵達も土砂崩れに巻き込まれて沈んで行った。ほとんどの兵は山が崩れることすら知らず、何が起こっているのかさえ知覚出来ずに死んでいった。


「ああ、私がもっと早く気付いていれば……。

……っ、各隊の隊長はすぐに被害の確認!その後、直ちに奴隷兵の救出活動を!

特に本陣周囲の捜索は念入りに行って下さい。例え土砂崩れの直撃を受けて地中奥深くに埋まっていても、どうせパルマー様は生きています」


グラミリアンの指示により、呆然と山が崩れるのを見届けていた常備軍はすぐさま救助活動を行う。山の麓まで流れ着いた人や、地中の奥深くから助けを呼ぶ声を出す人。周囲の人と即座に手を繋いだ人は早々に助け出されるが、中々パルマーが見つからない。


しかし奴隷兵達は、常備軍は、パルマーの捜索を辞めなかった。何故なら奴隷の首にある所有者を示す名前は、未だにパルマーの文字を表示し続けている。これは奴隷の所有者を明確にするものであるのと同時に、所有者の存命を示すものにもなっていた。


そもそも軍の人間はパルマーの不死性を全員が認識しており、これでパルマーが死んだと喜ぶ者は誰一人としていなかった。むしろ捜索に時間がかかり、パルマーが自力で這い出てきた後に、勘違いされ罰を受けることの方がよっぽど恐ろしかった。


そして捜索している最中に、生き残っているヴァーグナーの軍を見つけ、グラミリアンは掃討の指示を出す。ヴァーグナーの軍の指揮官は「パルマーは死んだに違いないのに何故戦う!?」と必死に止めようとするが、それを好機と見たパルマーの軍はヴァーグナーの軍が全滅するまで追撃戦を行った。


およそ5時間の間、不休で本陣のあった場所周辺を捜索し続けるパルマーの軍は、ようやくパルマーの腕を見つけて地面から引っこ抜く。杭のようなものが手の甲から手のひらまで貫通しているのは、目印としてはあまりにも分かり易かった。救出されたパルマーはすぐに現状確認を行った後、手ぶらで帰ることを避けるためにヴァーグナーの屋敷までの強行軍を決意する。


その後は夜まで残りの奴隷の捜索を続けた後、精鋭奴隷だけ引き連れて出立するパルマーを見送り、グラミリアンは残りの行方不明者を念入りに探す。明け方、ヴァーグナーの息子を捕らえて帰って来たパルマーを見て、当初の目的を達成したことに対しては素直に軍全員が喜んだ。


一方で軍の訓練として圧迫耐性や窒息耐性を得られるような訓練を組み込むとパルマーが告げた時、軍全員の目が死んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] > ヴァーグナーの軍の指揮官は「パルマーは死んだに違いないのに何故戦う!?」と必死に止めようとするが、 あまりにも真っ当な反応で草 奴隷を痛めつけて不死隊をつくるところまでは理解できても、パ…
[一言] 部下から化物扱いされてて草。まぁ実際、化物みたいなもんだが。
[良い点] 今話もありがとうございます! >パルマーの奴隷達の不死性を恐れて過剰に崩落の準備をしていた パルマーの不死兵を警戒する事自体は決して間違っちゃいないけど…… 恐れるあまり過剰な準備をし…
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