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第53話 地崩れ

誰かが俺の腕を掴んでいる。そう知覚した瞬間、凄い力で腕を引っ張られて俺の視界は明るくなった。


……ああ、ヴァーグナーが敵味方関係ない地崩れを起こして埋まってたのか。どうやら生き埋めになった後、しばらくの間気絶していたようで、俺が救出されたのは夕方頃だった。さっきまで昼だったから、大体5時間ぐらいは経過しているな。


気絶耐性なんてとっくの昔にカンストしているのに、それでも気絶したということは本来なら死んでいて当然の出来事だったということで……。周囲を見渡すと、頂上の城付近にいた精鋭奴隷が大半だ。今回の地崩れで、どれだけの被害が出たんだ。


「報告します。

精鋭部隊1000人のうち18人が死亡。193人が未だに行方不明です。また奴隷兵2000人の内、237人が死亡。498人が行方不明です。重傷者も多く、死者は増える見込みです」

「そうか。完全に大敗だな。

ヴァーグナーの守備兵は、どれだけの被害が出てそうなんだ?」

「全滅です」

「……は?」

「一時山の麓まで撤退していた騎兵中心の常備軍1500人が、地崩れと同時に逃げようとするヴァーグナーの兵を観測しましたが、ほぼ全員が巻き込まれています。生き残った僅かな兵も、こちらの兵の追撃に会い全滅。おそらく城の守兵2000人、全員が死亡しました」


古参で、俺も顔を覚えている精鋭奴隷の小隊長が死者数について教えてくれたけど、あれだけ鍛えて不死身になったのに死ぬ時は一瞬かと思ってしまった。なお行方不明だった精鋭奴隷はこの後ほとんどが生きた状態で発見されたし、重傷者も全員全快した模様。頂上付近に居て、城の崩壊にも巻き込まれたのに1000人中死亡19人ならまあ許容範囲内。本当なら1人でも死んで欲しくはなかったけど。


それよりも、効率的な育成をしていた新人奴隷で500人近い死者を出したことの方が辛いわ。流石に土砂での生き埋めは想定してなかったし、圧死した奴隷も多かった。土砂崩れって、基本は埋まったら死ぬからな。ヴァーグナーの取った手段は、不死隊に対して非常に合理的な手段だったと言える。


そして肝心の常備軍だけど、大砲の射程から外れた位置にいる常備軍を指揮していたグラミリアンが、山全体に違和感を覚えたので更に麓まで撤退していたらしく、ギリギリ地崩れからは逃れた模様。臆病で保身的な指揮官にしておいて良かったわ。なお後退を伝える伝令役は死んだ模様。騎乗してたし仕方ない。


累計で、500人以上の人が死んだクラウス伯爵領の城塞。ここまで俺の軍に大きなダメージが入ったのは、初めてか。常備軍が後退してなかったら、更なる被害が出ていたしこの部分は素直にグラミリアンを褒めておこう。違和感を覚えるならもっと早くに覚えて欲しかったけど、贅沢は言わない。


……さて。肝心のヴァーグナーの領土を守る兵はこれでほぼ居なくなった。こちらの軍は壊滅的な打撃を受けたし、本来なら撤退するべき損害だが、まだ戦果は得られていない。


これだけ大掛かりな仕掛けだ。当然向こうは起爆したことを把握しているだろうし、俺が死んだかもしれないと喜んでいるかもしれない。浮かれていてもおかしくはないだろう。


「……大怪我を負った者は常備軍が背負って領内まで戻れ。帰還する軍の指揮はグラミリアンに任せる。精鋭部隊は全員俺に続け。ヴァーグナーの屋敷へ向かうぞ」


精鋭奴隷だけ軍から切り離し、俺が率いてヴァーグナーの屋敷まで向かう。元々ここは、生まれ故郷だ。夜でも何とか行軍することは出来る。……こんな真夜中の行軍をするならコルネリアを連れて来たら良かったと思うけど、そもそもコルネリア連れてきていたら土砂崩れで死んでいた可能性が高いから連れて来なくて良かった。


一夜ずっと精鋭奴隷だけで行軍した結果、ヴァーグナーの屋敷が見えたので朝方に急襲。蓄えた財はそんなに無さそうだけど、無事にヴァーグナーの息子、長男のベーレンス君を確保しました。こんな重要な人物は、即人質確定です。


後はヴァーグナーの正妻である第六皇女も捕らえようとしたけど、ここでカルリング帝国とヴァーグナーの縁を切ってしまうと後々厄介そうだから回避。最後に領内の綺麗な女性達を連れ去って戦果を回収。まだヴァーグナー軍は間に合わないから、好き放題出来るな。まあ土砂崩れで自軍ごと葬り去ろうとしたのが悪い。


というかあれ、山の中に大量の火薬を仕込んで人為的に地崩れを起こしたんだと思うけど、たぶん土砂とかも山の上へ運び込んでいたんだと思う。結果的に自軍も巻き込んだのは、こんな大規模な実験を何度もするわけにいかないから、ほぼぶっつけ本番で起爆したんだろうな。


何なら自軍に対して、何の説明もしていない切り札だった可能性は多いにある。こんなことになると向こうが知っていたなら察知していたし、あいつ俺より性格悪いんじゃね?いや俺もあいつの精鋭部隊を500人ほど溺死させたけど、あれは自軍に被害らしい被害はなかったからなあ。


何はともあれ、俺が生き残って戦果を獲得したなら勝ちだろう。いやでも奴隷兵が一気に死んだのは堪える。500人規模だと、再建するのに半年はかかるぞ。


時々檻の中で泣きわめくヴァーグナーの長男のベーレンス君(1歳)を荷台に積んで、一先ずは撤退を行う。これで戻って来るヴァーグナーの軍と鉢合わせたら最悪だし、深入りはしないでおこう。最後に館へ火を放ったら、駆け足でフェンツ伯爵領まで戻る。さらば実家よ。次にここへ来るときは、ヴァーグナー軍を完全に粉砕した時だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうチートお兄ちゃんが直接首を飛ばすしかないんじゃないか? この作品を読んでるとデスノートを思い出しますね……黒幕系主人公だからかな?
[良い点] 今話もありがとうございます! >グラミリアンが、山全体に違和感を覚えたので更に麓まで撤退していたらしく、ギリギリ地崩れからは逃れた模様。臆病で保身的な指揮官にしておいて良かったわ。 (中…
[良い点] さらば実家よって燃やして言うのは笑うわ。 スカッとしただろうなー
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