第48話 王国
公爵から王になったところで、本質的な問題は何も解決していない。ディール王国の領土となったポワチエ公爵領だが、現在レナート帝国軍8400人に攻められており、それに対抗するべくジェレミアス公爵の軍が先陣を切って対応している。
なお、アニエス君がエストアニ王国からディール王国に鞍替えしたことでエストアニ王国はこちらの思惑を全て察してしまい、エストアニ王国の王様からエストア公爵領の請求権の行使という開戦事由で宣戦布告を受ける。まあヴァーグナー軍が撤退しているから何とかなるな。ちょっとまだアニエス君を配置換えするわけにはいかないのでアニエス公爵には死守命令。
まずはヴァーグナー軍と戦っていた農民兵と奴隷兵をそのまま引き連れ、あらかじめハンスに預けていた奴隷兵と常備軍を合流させる。合計6000人を率いて、ジェレミアス公爵の軍とも合流。ジェレミアス公爵の軍が5500人のため、これでレナート帝国軍の数は上回った。なので、退路を断つために奴隷兵に後ろへ回り込むよう指示。
そして敵軍の総大将であると伝わっている敵方の第三皇子の身柄を何としてでも確保しにいく。貴重なエルフの実験材料であり、なおかつ皇族だから『神聖なる血統』の1人だ。叩けばボロボロと情報が出るだろう。
敵軍はアラン公爵領で地味に消耗もしているため、こちらに負ける要素はない。というか練度の差で楽に勝てそう。負ける気せぇへん地元やし。
問題はエストアニ王国軍の方だけど、ヨアヒム伯爵にアニエス公爵へ援軍を出せと指示をしたら無事に援軍は出したので、レナート帝国軍が潰走するまでは2人で粘れるでしょ。本来、封臣契約というのは義務さえ守っていたら主君の参戦要請なんて無視しても構わないのだけど、王になって最初に行ったのは王の権力を強めることで、刑を実行する奴隷が各地に沢山いるのでもはや領内にいる全員が俺の駒です。全員、俺のために働いて戦って死ね。
国家総動員法と全権委任法みたいな決まりも作ったし、良い感じに思考も赤くなってきました。とりあえずレナート帝国軍とエストアニ王国軍を潰すことさえ出来れば、しばらくは統治が安定するかな。
ジェレミアス公爵の傭兵部隊が功績を稼ごうとガンガン攻めているけど、本当にこの世界は傭兵が強い。彼らも全員、雇いたいぐらいだ。というか戦争が終わったらスカウトするか。食料で釣れるかは微妙だけど、どっちにしろ常備軍の数は増やしていく予定だし。
戦いは両軍の衝突から3日後。こちらの奴隷兵が退路から襲い始めた時点で勝負がついた。元々、こちらの方が質も数も上だった。そりゃ勝てるわな。しかしまあ、局地的に奴隷兵が苦戦していたというか、もう死なないだろうと思っていたレベルの奴隷が数人死んだ上、農民兵の部隊の幾つかが壊滅したことを考えるとエルフには一騎当千のえげつない存在が何人かいるのだろう。
というか途中で雷が落ちたり竜巻が襲ってきたり暴風雨がこちらの陣地を破壊して行ったからな。エルフの魔法使いヤバイわ。なお最終的には、爆弾を大量に搭載した簡易的な自転車に乗る奴隷が突っ込むことで敵の精鋭部隊を処理した模様。この手に限る。
……コスパを考えると飛行機を使う神風特攻は割に合わないけど、自転車レベルなら割に合うわな。爆心地で奴隷が生き残る前提だけど。ついでに言うと、敵が密集していないと自爆特攻の効果が薄いから、敵が密集している前提だな。近代以降は通用しねえ。
あとは敵の補給部隊の真似をし、火薬をいっぱい詰んだ荷台を敵陣近くまで持って行って、爆破。これが有効打だったのか、その後は敵兵の組織だった反抗は一切なく、第三皇子の捕縛にまで至る。これまで散々レナート帝国の補給部隊を襲ったからこそ、上手く補給部隊に擬態出来たという皮肉。善意が最大の裏目になったパターンである。
そうして捕らえた第三皇子だけど、どうやらレナート帝国でも女神は消えているらしい。女神にそそのかされてこっちに来たわけじゃなく、神託で補給部隊を襲っているのを誰か占ったら、俺の名前が出たとか何とか。
「女神にそう言えと伝えられていたか?はいかいいえで答えろ」
「いいえ」
「今回の戦争に女神の意図は介在していると思うか?はいかいいえで答えろ」
「いいえ」
方向性を変えて何度確認の質問をしても、嘘は言ってなかったのであの女神はマジで黙って消えたのか。しかしまあ、嘘を言っていたら光るアーティファクトは便利だな。独裁者には必須のアイテムかもしれない。個人的には、一番渡してはいけない独裁者の手に渡ったと俺でも思う。
これが小麦10トンで買えるなら、誰だって買うと思う。あくまで嘘を言っていたら光るアーティファクトなので、普段は隠しておかないといけない。時々冗談めかして言う言葉が、全て冗談じゃないことがバレてしまうし。
「……女神は自分の意思で消えた?」
ボソっと言った呟きに対して、アーティファクトは光らない。いやまあ不確定事項がこのアーティファクトで判別できるならもはや誰も手放さないレベルの国宝なんだけど、残念ながら嘘になるか言った本人が分からない場合は反応しない。
どういう仕組みで出来ているのか気になるけど……こういうアーティファクトもあるということは、この世界で文明は一度か二度、滅んでいるだろうな。もうちょっとその辺については、調べておくか。




