第47話 学習
レナート帝国に対抗するべく軍をポワチエ公爵領へ派遣したところで、教皇より破門の通達と皇帝から封臣契約の解除の通達とヴァーグナーからの宣戦布告を受ける。何だこの一連の流れ。やばいけど、まだ何とかなるか?
長男のヴァーグナーの宣戦布告は、レナート帝国からの援軍要請に応じた形か。ヴァーグナーの側室に、レナート帝国の人間がいるのかよ。
そしてヴァーグナーがこちらに宣戦布告した瞬間、次男のアルフレートが支配するボルグハルト王国がヴァーグナーに対して宣戦布告した。内容は、上テレンス公爵領とクラウス公爵領の要求。ついでのようにクラウス公爵領をベットされるのか。これだから兄弟全員が請求権持っているのは厄介なんだ。
あっという間に、カルリング帝国周辺が戦火に包まれる。当面の間、矢面に立つのは俺だろうね。しかしこのタイミングで、パウルス陛下の体調がかなり芳しくないという情報を手に入れた。まあ孫が沢山出来ている年齢だし、厄介な封臣のせいで心労が溜まってそうだから仕方ない。
一旦、ポワチエ公爵領へ向かう軍を対ヴァーグナーに当てたいけど、レナート帝国の軍をジェレミアス公爵の軍だけで持ちこたえられるかは不安。ここは少数の兵でヴァーグナーの軍を退けつつ、先にレナート帝国の軍を叩かないといけないか。
そもそもボルグハルト王国に尻を掘られている状態でこっちに軍を送れるのかという疑問もある。とりあえずディール公爵の領内に農民兵の徴兵をかけると、集まる農民兵の数は3000人。こう見えても、領内では人気のある領主です。他領が飢饉なのに、毎日のように食料を配る祝宴を開いていたらそりゃ人気は出る。食料の出どころは気にしない、大らかな気質の領民で助かった。
これだけの人数がいれば、対ヴァーグナー用の城塞や砦を活用すればヴァーグナー軍が全軍の5500人で来ても数週間は耐えられる。問題は、皇帝がどう動くかだけど……やっぱりエストアニ王国軍に負けたのは痛手だったのか、皇帝が物理的に動けないのか、この絶好のタイミングで攻めて来ない。そうこうしているうちに、アニエス君が伯爵領を奪い取り3つ目の伯爵領を確保する。
その後すぐにエストア公爵の地位をエストアニ王国に請求をしたので、公爵になるのも確定だ。貸与していた精鋭の奴隷兵500人の内、400人を回収して対ヴァーグナー戦線に投入する。率いるのは、俺と元帥のグラミリアン。あとついでにコルネリア。
「間に合ったか。地味に領外へのインフラを破壊しておいて良かったな」
「向こうは2000人ですか。ボルグハルト王国に攻められている最中に、兵を捻出してこちらを狙うとは……」
グラミリアンは、男爵領を既に3つ持っているので俺の配下の中では2番目に支配領域が大きい。1番は伯爵領持ちのヨアヒム伯爵。次いでライトとハンスも男爵領を3つ持っているけど、規模の違いでグラミリアンの方が上だ。俺の封臣の中で、ヨアヒム伯爵以外の支配領域の差は、単純な能力の差と言ってしまっても良い。
要するにそれだけ、このグラミリアンは有能なのだ。だから今回、グラミリアンが相手の敵兵が少ないのを見て、嫌な予感がするからこちらの前線の兵も少なくしようと言い出した時、俺はそれを疑わなかった。
……前線の農民兵が接敵した直後、戦場に響く轟音。倒れ伏す農民兵。グラミリアンの嫌な予感とは、大砲を見たヴァーグナー軍が、それを真似することだったか。既に一度ヴァーグナー軍とは会戦をした以上、大砲をパクられるのは想定済みだったので、大した驚きはない。むしろこれだけのために兵を下げさせたのかよ。直撃でも耐え得る奴隷兵を並べておけば効果的な反撃が出来たのに。
普通の軍師としては有能なのかもしれないけど、元奴隷なのに奴隷兵の使い方はイマイチか。向こうの大砲は数発こちらへ撃ち込んだ後、普通に壊れたようなので、こちらは数で押し切る。改良した弩は、農民兵でも扱える簡単なものだし、矢の量産化には成功しているから、農民兵でも最低限戦える戦力にはなります。この弩と矢を大量に保有しているうちの城塞は、そう簡単には落ちない。
というかボルグハルト王国に攻められているのに、こっちに来るな。これ以上ボルグハルト王国が拡張したら、それはそれで困るんだが。案の定、大砲をこちらに撃ち込んだ後は撤退していくヴァーグナー軍。結局大砲を見せびらかしたかったのか、こちらの兵を少しでも削りたかったのかはよく分からないな。
ボルグハルト王国相手に負けられたら困るから、ここで追撃をするのも憚られる。あれ、地味にボルグハルト王国は停戦期間を破ってヴァーグナーに宣戦布告しているのか。まあ既に周囲全てが敵だし、今更取り繕う相手もいないか。そしてそれは、俺も同じだ。
皇帝からの封臣契約を打ち切られた以上、俺は完全に独立した領主となった。まあ昨年から税すら納めてなかったから仕方あるまい。すぐにジェレミアス公爵とアニエス公爵へ臣従の提案を行い、相手方が了承したためにそれぞれの公爵領を支配下へ治める。これで3つの公爵領を持つ、王になったわけだ。
こういう時に国名は、最初に保有していた公爵領の名前が使われるので、王国の名はディール王国。ついでに改名も行い、パルマー・クラウス・ディールという名前に。これからの名前の表記としてはパルマー・K・ディールかな。いずれクラウス公爵領は奪いに行くし、今はこれで良い。




