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第4話 戦力差

この世界の奴隷の生活というのは、悲惨なものだ。鞭を打たれ続け、それでもなお働き続ける。炭鉱夫として、漁師として、農家として。しかしそれでも、使い潰されることはない。死なない程度のギリギリの状態でコントロールしようとする者が多いからだ。


下手に優しくすれば、付け上がり要求の量が増える。逆に厳しくすれば、発狂したりストレスで死ぬ。教養がなく、力もそれほどない奴隷達は、安くない値段とは言っても、男の奴隷は日本円にして1人10万円ほどで売られている。なお女の奴隷は1人60万円ほどで売っている。


ランニングコストがかからないとは言っても、健康的に生活させるためには衣食住に少なからずお金は必要だ。そんな中、将来的な解放を約束したパルマーは異端とまでは行かないが、珍しい方だった。奴隷を解放した途端、寝首を掻かれることもよくある時代。戦争で大活躍をしたライトが主君であるパルマーを裏切らなかったのは、パルマーがひたすら自身を削って奴隷達に肩入れしたからだった。


僅か20人の奴隷達。例え全員が自己再生特性を保有していたとしても、百人の部隊には勝てない。それでも毎日奴隷達と向き合い、ひたすら奴隷に尽くしたパルマーは、奴隷から一定の信用を得ていた。


しかし一方で、長男のヴァーグナーは隣国であるオーブリー王国に常備軍と徴兵した兵の軍を派遣し、日本円にして3000万円ほどの儲けとなる略奪を行った。十数年前、カルリング帝国の代替わりの隙を狙って独立を果たしたオーブリー王国の封臣の軍を蹴散らし、略奪を果たしたヴァーグナーの評価は高い。


奴隷20人を使い、男爵同士の争いに首を突っ込み、最終的には100万円に相当するお金を得たパルマー。一方のヴァーグナーは、常備軍の300人を中核とする部隊で、王国を相手に略奪をし3000万円に相当するお金を得た。この略奪した3000万円という金額というのは、ヴァーグナーの懐に入る分だけで3000万円相当である。ヴァーグナーとパルマー、どちらが優秀そうかは一目瞭然である。


そして今になってパルマーの父であるバイヤー・クラウスはパルマーに政略結婚をさせたが、バイヤー自身が領土を拡張するためではない。もしもパルマーの父であるバイヤーが拡張戦争を仕掛け、伯爵領が増えれば、将来的に次男アルフレートや三男パルマーに相続させないといけない土地が増える。


……今回、領土拡張の戦争を仕掛けるのは既に伯爵領を引き継ぎ、統治も行っているヴァーグナー自身だ。ヴァーグナーの侵略戦争を、バイヤーが手伝うという形であれば戦勝時に領土を受け取るのはヴァーグナーただ1人だ。世間からもヴァーグナー自身が勝ち取った領土と見られ、弟達への分け前は一切ない。弟達との勢力の差は、更に圧倒的になる。


例え、どんなに自己再生特性を極めた部隊が居ても強力な魔法が使える騎馬隊が相手であれば蹴散らされる。自己再生特性を持つ奴隷の部隊でも、下手すれば2倍の兵数差で押し込められる。それが分かっていてもパルマーは、奴隷に鞭を打つことを止めなかった。どんどん傷の治りが早くなる奴隷達を見て、いずれは強大な軍になると信じた。


やがて、クラウス公爵領の人の出入りが激しくなる。クラウス公爵領に隣接するオーブリー王国のディスモア公爵領。4つの伯爵領で構成されており、非常に肥沃な土地としても知られているそこへ、ヴァーグナーが戦争を仕掛けようとしているからだ。


カルリング帝国の国教であるクヌート教。その教皇から、ディスモア公爵領の正式な請求権を購入をしたヴァーグナーは軍備を推し進めているため、誰の目からも戦争を仕掛けることは明白だ。その上、ヴァーグナーはカルリング帝国の皇帝にディスモア公爵の称号の献上も確約しており、カルリング帝国から援軍が出ることも確定している。


今回の戦争で、ヴァーグナーが勝っても得られるのはディスモア公爵領の中核であるディスモア伯爵領だけ。しかしそれだけでも恩恵は十分に大きく、他の伯爵領の2倍の税収が見込めるディスモア伯爵領をヴァーグナーが得れば、実質伯爵領を4つ支配下に置いているのと同じになる。


オーブリー王国の軍勢は、約5000人ほど。一方のヴァーグナー伯爵は常備軍300人と徴兵した1000人を合わせて1300人しかいない。しかし援軍を必ず出す父親のバイヤー公爵が常備軍だけで1000人を保有しており、さらには総兵力1万5000人を超えるカルリング帝国がバックにいる以上、負けるはずがない。


そして更なる保険を作るために、バイヤーはシュルト公爵と同盟を結ぶ。三男と三女。互いに余分な存在を相手に押し付けるかのような、ついでのような婚約同盟は、本人達にとって大きな影響をもたらした。

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面白くなりそうな予感をずっと感じさせられている。これがランキングに埋もれるってんだから見つけられて良かった。
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