第41話 売国奴
隣国のエストアニ王国は、元々ディール公爵のお隣であるエストア公爵領を支配していた。しかし現在はカルリング帝国が支配しており、エストア公爵領はカルリング帝国の封臣の伯爵達が群雄割拠している。
残念ながら、俺はカルリング帝国内の皇帝の封臣達へ宣戦布告が出来ない。しかしながら、他国への宣戦布告は出来る。
そしてここに、伯爵として返り咲きたい人物がいる。名はアニエス・ロイター。親は俺に殺され、分割相続でディール伯爵になったものの、ジェレミアス公爵にディール伯爵領を奪われた後は根無し草になっていた者だ。こういうので、殺されてないのは珍しい。単純に、ジェレミアス公爵にとって脅威じゃなかったから放逐されたんだと思うけど、コイツは活用出来る。
まずはこのアニエス君に、エストアニ王国へ亡命をして貰い、支援金で男爵になって貰う。男爵程度なら、金で買える爵位。まあ国や地域によっては村長クラスだからね。後は彼の持つエストア公爵領のザイール伯爵領に攻め入って貰って、カルリング帝国相手に領土を切り取って貰う。
後は俺がやったようにエストア公爵領をエストアニ王国側で統一して貰って、最後に俺からの宣戦布告に負けてもらう形。この作戦の唯一の懸念はエストア公爵になった時点でアニエス君が裏切る可能性があるということだけど、軍の中核を担うのは俺から貸与する奴隷兵なので裏切った瞬間に死んで貰う。
そしてアニエスが死んだ場合は、人質として俺の屋敷に住まわすアニエスの息子に全請求権が引き継がれるから都合が良い。この子はまだ2歳なので、人質になったとかそういうのは分からない感じです。
最終的に、兄のアニエスには家名の地であるディール公爵領のロイター伯爵領を与える約束をして計画を実行するけど、成熟には数年かかりそう。なのでそれまでは内政をするしかないかな。
マヨネーズ、千歯扱き、水車、蒸気機関、電気、ガラス、公共事業……。思い付く候補は沢山あるけど、ディール公爵になったこの状況で、やるべきことは一択かな。
「畑の収穫量を定めるぞ。検地と徴税人の雇用を行う。税の抜け漏れは許すな」
それは、税を正しく取り立てること。ぶっちゃけ、これがきちんと出来ている国は現代の地球でも少ない。何なら現代の日本でも余裕で抜け漏れは発生するし、一度でも自分で確定申告をしたことがある人なら分かると思うけど、自分の収入というものを正しく把握している人は少ない。
なのできちんとこれを取り立てるのと、可能なら税での収入を一定にしたい。と言っても、この時代に100%の徴税なんて不可能だからある程度は妥協するしかないけど。
そしてもう一つは、関所を設けること。通行人から金を毟り取り、商人からはもっと搾り取る。この国はわりと流動的というか、人の行き来が多い。これは、内政を推し進める上でかなり鬱陶しいことだ。
何故なら情報が、あっという間に拡散してしまう。そのことを防ぐため、領内から領外へ出る時には厳しく取り締まるし、荷物の検査などもしてもらう。他にもうちに来た重要人物や犯罪者とかを取り逃さないようにする理由がある。あとは、スパイの防止にも役立つね。たぶんヴァーグナーのところからいっぱい来てるし。
既に関所は、あるところにはある状態だし、これを増やして完全に経済圏をブロックしてしまおう。これが後々、効いて来るんだ。何故ならカルリング帝国はこの後、不況が来るはずだし。というか不況にする。インフレさせる。好景気にはさせません。
ジェレミアス公爵に策略を伝えたところ、ポワチエ公爵領も同じように関所を増やして経済圏を守るような動きになったので賛同して貰えたということだろう。シュルト公爵家は……まあ放置でも何とかなるでしょ。今リンデさんが必死になって手紙書いてるし。
「通貨の偽造を企むなんて、絶対に不味いことが起きるに決まってますわ!」
「分かってるじゃん。あ、偽造じゃないよ。金や銀の含有率を下げるだけだし、そのことを国中に伝えるだけだよ」
「そんなことをすれば、ここも滅茶苦茶になりますわよ!」
「ならない。既に対策済みのハイパーインフレなんて、お祭りみたいなものだよ。最悪の場合でも、食糧庫の貯蔵は十分だから飢えることはない」
リンデさんが滅茶苦茶怒ってるけど、これからすることをちょっと伝えただけで、これからどうなるかまで予測できるのは結構凄いことだ。前知識なしにハイパーインフレが起こると、何となく分かっているだけでリンデさんの頭の良さが伺える。隔離されてて本の虫だっただけはあるわ。
他領から食料を高値で買って集めているけど、後で百倍にして売るから問題はない。特にヴァーグナーの領土から買い漁っているけど、他意はない。……いやこれ普通に収穫の時期の後に買い漁ってこっちの領内に食料を持ってきたら、それだけでダメージ受けるんじゃね?
やれる嫌がらせは、最大限にしてやっておくか。上手く行かなくても、今後起こすインフレの保険にはなるし、無駄にはならないだろう。




