第3話 不死隊
俺が引き継ぐ予定の伯爵領で小競り合いがあった。規模的には町長VS村長の戦だけど、これに半年間の練兵を積んだ俺の奴隷達を傭兵団として参加させた。
傭兵団のリーダーは、半年間の鞭打ちのお蔭で最近自己再生特性レベルⅠを身に着けたライトさん。苦悶の表情で鞭打ちを続ける俺のことを一番心配していた、善人寄りの人間だけど、この小競り合いで一番活躍したのはライトさんだ。要するにそれだけ、人を殺したということになる。
……まあ一人殺せば悪人だが、100万人殺せば英雄だと言うし、俺の指示で戦っているんだから俺が殺したようなものだ。どうやら川の水の利権で争ったようだけど、こういうのを抑えられない時点でこの伯爵領の統治は上手く行ってないことが分かる。まあ本来の統治者じゃないしな。10年前まで善政を敷いていた伯爵の一家を皆殺しにしてクラウス家が手に入れた伯爵領だし。
およそ60人対50人という規模になった小競り合いで、俺が参戦したのは60人側。俺としては、どっちが勝っても関係ないから勝ち馬に乗るよ。これで80人対50人となり、俺が支援した町長は僅かながら俺に感謝をしている。その上、礼金まで貰えた。まあ村側の人間は全員奴隷になったそうだし、将来的な君主に媚びを売るのは当たり前か。この礼金のお蔭で、奴隷達を30人まで増やすことが出来た。
そしてこの奴隷達の部隊に、名前を付ける。ネーミングセンスが無い中で色々と考えた結果、不死隊を名乗ることにした。1人欠けても1人新たに購入するし、自己再生特性を選別して作った特殊部隊だし、カッコいい名前ぐらいあっても良いだろ。
そう思ってたら長男のヴァーグナーが常備軍として300人の重歩兵連隊を完成させた上、隣国の領土に略奪を仕掛けて大金を得ていた。略奪してその成果を大々的に発表するって蛮族かよ。なお隣国は異教徒のため聖君としてより一層崇め奉られる模様。何かがおかしいけど中世的には何も間違っていないのが腹立つ。
……ヴァーグナーが持っている聖君という特性は、信仰深い上に勇敢な者に付く称号みたいな特性だ。聖君であるというだけで同じく信仰深い者達からの評価は上がるし、信用の証にもなる。まあ前世で模範的な日本人だったために無神論者だった俺には関係のない話だな。泣きたい。
というか300人の常備軍とかいつになったら作れるようになるんだろうなあ。次男のアルフレートの方も騎兵100人の常備軍を雇用したみたいだし、父親は元から1000人の常備軍を持っているから、これでクラウス家の総戦力は1400人ということになる。これに加えて徴兵される兵もいるから、かなり強大な力があることは分かる。
あ、この1000人の常備軍の内200人は俺に引き継がれる予定だから父親が死んだら200人の常備軍は持てるわ。維持費が心配だけど。というかたぶん払えないけど。今のところ軍の中核に奴隷を選んだ最大の理由が、ランニングコストを抑えられるからだし、常備軍って金かかるんだよなあ。
しかしこの小競り合いで、うちの奴隷達が1人も死んでいないというのは僥倖だ。最初から圧勝ムードだったことも影響しているだろうけど、致命傷を受けても中々死なない特性というのは強みでもある。時々真剣で模擬戦闘していたのも良い方向に転んだみたいだし、上手く成長はしているかな。
なおライトさんを奴隷身分から解放し、再度傭兵団団長として契約し直したのでランニングコストは跳ね上がりました。あれだけ活躍しておいて解放されないなら最初の俺の言葉が嘘になるから仕方ないね。奴隷達のモチベーション維持のためにも配慮はする。痛みが無いとはいえ、鞭打ちを受け続けるのは精神的にかなり苦痛だったに違いない。
何せ、背中や腕の肉が飛んでいくのだ。血はダラダラと流れ続けるし、傷跡は残る。俺の方も毎回意識は飛びかけたけど、3ヵ月も経過すれば流石に慣れた。というかたぶん耐性特性を手に入れてると思う。教会行ってないから分からないけど。
あ、奴隷身分が解放されても鞭打ちは続けます。そういう契約にしたし、逃がすつもりはないので解放時に色々と契約で縛っている。優秀な人材を他所に取られるぐらいなら殺した方がマシだしね。でもまあ鞭打ちを受けるのと時々戦闘訓練を受ける以外は、基本的に自由です。基本的に自由だから自分の食い扶持ぐらい自分で稼いでね?戦争の時には真っ先に駆けつけてね?
新しく加入した奴隷達は、古参の奴隷達が鞭打ちを耐え続ける姿に震え上がっていたけど、いざ鞭を打たれ始めると首をこてんと傾けて耐える。男が首をこてんとしても可愛くとも何ともないんだよ糞。1人ぐらい女の奴隷を買った方が良かったかもしれない。女の奴隷って、男の奴隷と比べると数倍の値段はする上に男より格段に戦闘能力は下がるけど。
そういえば、俺の婚約相手が決まったらしい。お相手はちょっと遠方にあるシュルト公爵家の三女。どうやら親父は死ぬ前に大きな戦争を仕掛けたいらしく、その時のための同盟相手としてシュルト公爵を選んだらしい。
上2人の兄の嫁は、皇女と王女なのでここでも差を付けられた感じがする。シュルト公爵は領土こそそんなに大きくないというか、伯爵領3つしか保持していない公爵だけど、軍は精強らしいから悪くはない同盟相手。ただ三女ということは、それほど強いパイプを持てるわけではないから俺が嫁の実家に頼ることは出来なさそうだな。
……出来れば可愛い子が良いなあ。この時代の結婚って、結婚式当日が顔合わせということも珍しくないし、俺もたぶん結婚式当日まで相手の顔を知ることは出来ない。まあとりあえず、野心家が来なければ良いや。野心家だと俺を殺して領地を乗っ取りに来るかもしれないからね。こんな領地を乗っ取ろうとする人なんていないと思いたいけど。