第36話 公爵
無事にディール公爵になれたところで、皇帝のパウルス四世からカルリング帝国の封臣に対する宣戦布告の権限を剥奪される。まあ、そうなるだろうなとは思っていた。凄まじい勢いで拡張して公爵にまでなったから、反感も多いだろう。
もしカルリング帝国内の封臣に対する宣戦布告の禁止が無ければ、次は隣のエストア公爵領へ仕掛けていただろうし。ぶっちゃけ、公爵になる段階でこうなるのは覚悟していた。シュルト公爵家とかも封臣相手の戦争は禁止されてるし……そもそも、同じ帝国内で封臣同士戦争するとか頭おかしいわな。
その代わりに、皇帝へ払う税金の額が一気に下がる。評議会の席は埋まっているし、言うことを聞かせるには税制面での優遇が妥当だとこちらも思っていたけど、25%→10%って下がり過ぎてない?こちらとしては嬉しいことだから、何も文句言わないけども。
あ、そっか。皇帝のお財布を握る家令ってリンデさんの実家のシュルト公爵家が代々握っているんだった。現公爵のフォンターナさんも皇帝の家令だし、融通を効かせてくれたのかな。それならそれで、税率0%とかにしてくれても良かったんだけど。そっちの方がもっと嬉しいし。
一方で、3公爵領を持つようになったヴァーグナーもカルリング帝国内の封臣への宣戦布告が禁止に。むしろ今まで禁止されてなかったのか。ただもう3公爵領って、他国と真正面から戦争を仕掛けることが出来るレベルの力量だし、次からはボルグハルト王国や南のエストアニ王国へ戦争を吹っ掛けていくのかな。これからは、もっと早く差が広がりそうだ。
さて。宣戦布告は禁止されましたが、同盟者からの参戦要求に答えるのは何の問題もありません。というわけでうちの側室のカーラの、実家であるエニュレ家。その当主であるジェレミアス伯爵がポワチエ公爵領で隣接する第四皇子へ宣戦布告。カルリング帝国ではまれによく見る皇子に対する宣戦布告である。
当然、カルリング帝国の皇帝であり第四皇子の父親であるパウルス陛下は敵側で参戦するけど、敵側の同盟者がパウルス陛下だけなら最大でも常備軍4000人に農民兵4000人ってところか。一方でジェレミアス伯爵の常備軍は1500人に農民兵が1500。ディール公爵となった俺の奴隷兵が1000人で、常備軍が600人で、農民兵が2000人であることを考えると……。
皇帝8000人+第四皇子1500人vsジェレミアス伯爵3000人+俺3600人という構図か。第四皇子軍9500人対ジェレミアス伯爵軍6600人というのは一見不利に見えるが、実際に不利なのでわりとどうしようもないです。
まあ同じような感じで皇帝に喧嘩売ってる戦争が第一皇子が死んでからカルリング帝国のあちこちで起こっているし、帝国軍の8000人全員がこちらへ来ることはないでしょ。万が一来たとしても、軍の質の差と地の利で何とかなる範囲。
そして兵を率いてジェレミアス伯爵の軍の終結地であるエニュレ伯爵領へお邪魔すると、そこには明らかに俺の軍よりも多い軍人が居た。ああ、やっぱりそうなるわな。
「……流石にこれは雇いすぎだよ」
「いや、これで良いんだよ。戦争を起こす側は、戦力過多が望ましいからな」
兵の数の差が、戦力の決定的差だということ教えてやると言わんばかりに、ジェレミアス伯爵は傭兵団を沢山雇っていた。カーラがその数に引いていたけど、戦争は攻め込む側の戦力が過多であればあるほど良い。
今回ジェレミアス伯爵が契約した傭兵団の数は、17傭兵団。合計9000人。流石は金持ち伯爵のジェレミアス伯爵だ。この傭兵団をまとめた軍単独でも、皇帝軍と良い戦いをしそう。金に物を言わせて傭兵団を集めるジェレミアス伯爵の姿を見て、ジェレミアス伯爵と戦う方の選択をしなくて本当に良かったと思った。これだけの人数を相手にする必要があったとか、ちょっと考えたくないわ。
ジェレミアス伯爵軍12000人と俺の軍3600人、合わせて15600人で第四皇子の治める伯爵領へと侵攻すると、第四皇子の軍とパウルス陛下の軍とヴァーグナーの軍、合わせて15000人がこちらへと迫って来る。
まあ皇帝の元帥なら、立場上ヴァーグナーも皇帝側で参戦するわな。ヴァーグナーも封臣相手の戦争を禁止されたということは、何かしらの見返りがあったということで……何か最近、兄達とばかり戦争してる気がするわ。
ぶっちゃけ、ここまで精強な万単位の軍が帝国内で対峙するのは珍しいことだ。そう何度も、帝国内で同士討ちをしているわけじゃないし、本来であれば皇帝に皇帝派の貴族が集まってこちらは一気に叩き潰される。でもそうならないということは、皇帝への求心力は低下しているということだし、今は力を温存というような考え方の貴族も多そうだな。
皇帝の軍は来るけど、皇帝の姿は確認出来ない。まあ、皇帝自身が従軍するなんて滅多にないし、この戦いで崩御するということは無さそう。攻め込まれた第四皇子の方は怒り心頭って感じだけど、もはや祭り上げる存在すらいないのが四番目の悲しいところ。
それでもただの一伯爵領を巡る戦いで、万規模の戦いになるのは第四皇子だからか。ジェレミアス伯爵軍の右軍として、第四皇子の左軍であるヴァーグナー軍と対峙する。こちらは3600人なのに対して、向こうは5500人。……ここでヴァーグナー軍を壊滅させておきたいけど、敵地だとちょっと難しそうかな。




