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第30話 急変

ヨアヒム軍が潰走するのに合わせて、うちの奴隷達が首狩り族になってヨアヒム軍を追いかけまわしたために相手の軍は崩壊した。まあ軍の半数近くが死んだとか再起不能なレベルの打撃だし、それとは別に200人の、元常備軍の奴隷が手に入った。戦果としては、これ以上ない結果だ。


……そして糞女神へのお布施と罵倒が足りたようで、13歳にして『敬虔』の特性を得たことにより教会勢力との取引はしやすくなった。日々腹黒女神に対して罵倒を繰り返した甲斐があったというわけだ。決して安くはなかったけど、これで正統な領主ではない領主に対する請求権の取得スピードは上がる。


ヨアヒムが保持している領土の中で、ダーヴィトの三男が保有していたロイター伯爵領だけはヨアヒムが長年支配していない領土だ。まあそんなこと言い始めたら俺の持つトリオレ伯爵領だって、何ならフェンツ伯爵領だって長年支配はしていない状態だけど……まあ、相手が長年支配していない領土に対する要求というのはこれで通りやすくなったはず。


しかしこれでも、ロイター伯爵領への請求権にはあと一か月以上の時間がかかりそうだからそれまでは戦争状態を継続です。ジェレミアス伯爵の動きも読めないし、身動きが取れない状況が続く。そんな中、急報がカルリング帝国中を駆け巡る。パウルス陛下の、長男が死んだのだ。


皇帝のパウルス陛下の長男とは、それ即ちこの帝国の第一皇子であり、次期皇帝だったということ。そんな存在が死んだことにより、にわかに帝国内外が騒がしくなってきた。ちなみに死因は急性アルコール中毒。……急性アルコール中毒なんて言葉はないけど、酒を一気に飲み過ぎたせいで死亡ということになっている。これ絶対暗殺された奴でしょ。


流石に30代後半の第一皇子が、自身の立場を弁えずに酒の一気飲みで即死したとは考えづらい。というか第一皇子にもなるとお付きの人とかが、必ず死ぬ前に止めるだろう。まあ、9割方は暗殺だな。問題は、誰が殺したか。


……ヴァーグナーは第六皇女が嫁だし、皇帝派の貴族だから犯人捜しに躍起になるだろう。言いがかりをつける最大のチャンスでもある。しかし犯人が見つかったところで、次期皇帝がいなくなったことに変わりはない。


確か第一皇子の息子は、まだ6歳と5歳のはず。そして分割相続制の最大の弊害が、ここで出て来る。


もしも第一皇子に子供がいなければ、第二皇子にそのまま皇帝の座が受け継がれただろう。しかし第一皇子に息子がいるとなると、話は別。皇帝の座は、長男の長男。つまりはまだ6歳の、第一皇子の長男の物となる。


一方で皇帝の直轄領は、皇帝の長男から八男までほぼ公平に分割される。もちろん、皇帝の座を引き継ぐ長男が一番有利な分割となるのだが……これが更に第一皇子の長男と次男とで、分割される。既に第一皇子は居ないから、すぐに2人へ分割されるわけだ。


つまりは、パウルス陛下が死んだその瞬間に皇帝の持つ力は激減する。子供が多いため、分割相続に対する対策というのはしていたようだけど……その対策方法が、次男以降に遠方の土地を先に与えるという方法だったのも災いした。第二皇子以降は、仕掛けるための準備期間が出来てしまった。


まあ強欲な皇帝の一封臣としては一伯爵領の伯爵が一気に野に放たれるということでもあるし、領土を自力で増やした第二皇子第三皇子以外は苦労しそうだけど。現段階で第一皇子の持っていた領土は、4伯爵領。それが2等分されるんだから、パウルス陛下の持っている直轄地が入って来るとは言っても、次期皇帝は3伯爵領程度しか直轄地が無いな。


これに帝都が加わって、4伯爵領だと考えても俺1人で勝てそうである。実際には封臣契約による税と父から引き継ぐ精強な常備軍があるからそう簡単には行かないんだろうけど……代替わりが起これば、動員兵力は一気に半減して1万人を割る可能性すらある。これは長年支配に耐え続けていた公爵達が挙って独立しそう。


……長年、パウルス陛下の治世が続いて安定していたことも裏目に出そうだな。もはや火種のバーゲンセール状態。しかしその時が来るまでに、最低でも公爵になっていないと波には乗れないだろう。早くロイター伯爵領の請求権を得て、この戦争をヨアヒム・ハースのフェンツ伯爵領に対する請求戦争からパルマー・クラウスによるロイター伯爵領の請求戦争に置き換えないと。


「パウルス陛下って、今年で御年幾つだっけ?」

「今年で61歳のはずですわ。

………この先、長くはないでしょうね」

「となると、皇帝に即位するのは子供になる。皇帝に子供が即位した時、どういうことが起こるのかは、歴史が証明しているな」


別に、皇帝に子供が即位することは珍しいことではない。数百年も続くカルリング帝国だから、何度かそういうことはあった。その度に、公爵や王の独立は相次ぎ、膨張しては縮むということを繰り返していた。


俄然やる気が出て来たのでジェレミアス伯爵との戦いも想定して奴隷兵を800人、常備軍を700人まで拡張しようとした時、ジェレミアス伯爵の方から手紙が届く。封臣同士での手紙のやり取りというのは基本行われないのだけど、あるとしたら縁談の話か共闘の話か宣戦布告の話だ。


……何だか、封を開けるのが怖いな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フランク人(風味)って恋も戦争も野蛮ね! [一言] 暗殺でアル中でしたは…某モンゴルマン帝国ならアル中カラカラで脳みそバーンとなってもおかしくないな!(偏見)
[良い点] 今話もありがとうございます! >糞女神へのお布施と罵倒が足りたようで、13歳にして『敬虔』の特性を得たことにより教会勢力との取引はしやすくなった。 >日々腹黒女神に対して罵倒を繰り返した…
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