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第29話 落差

「また攻めて来ましたの!?南って、こんなに封臣同士で戦うのですか!?」

「いや、流石に南でもこの頻度はちょっとおかしいレベル。この後で、こちらからも侵攻する予定だし戦争は絶えないだろうね」

「……大丈夫ですの?」

「向こうも勝てる算段があるから仕掛けてきたと思うけど……ヨアヒム軍はヴァーグナー軍よりか数段下だよ。楽勝じゃないと、この後が辛いレベル」


ヨアヒム伯爵の軍が攻めて来たことを知ったリンデは、帝国南部の戦争頻度に驚く。カルリング帝国は北と南で、若干文化が違う。というかカルリング帝国成立当初は、北と南で使用する文字すら違った。今は大体、北の文化で統一されているけど、風習とかで違った部分があるのは面白い。


そして北の方が歴史ある貴族が多いから、戦争の頻度が低い。シュルト公爵家みたいに国内の封臣への宣戦布告を禁止されている貴族も多いし、何より皇帝の直轄領や皇子の領土が点在しているから弱小貴族は国内相手だと仕掛け辛いのかもしれない。


一方の南は、基本は平和だけど代替わりが立て続けに起きた時とかは乱世に突入する。兄弟間での争いが終われば、一段落はするんだけど……ここ最近は、野心を持っている人が多いんだと思う。


ヴァーグナー軍と比較すれば、練度も軍規模も劣るヨアヒム伯爵の軍に、負けるイメージは持てない。というか農民兵1600人って本当に見せかけだけの軍だね。それに加えて、常備軍の重装歩兵と騎馬隊が300人ずつ。3つの伯爵領を持つ伯爵の軍の、平均的軍量って感じ。


合計で2200人の軍が攻めて来ると考えれば多く見えるけど、こちらも奴隷兵650人と元傭兵団の人間を含む常備軍550人がいるからなんと1200人も職業軍人がいる。それに加えて、農民兵の規模は600人程度。兵数こそ1800人と相手より少ないけど……ぶっちゃけ農民兵でかさ増しされた軍は全然怖くない。


そもそもつい先日まで田畑を耕していた人間と、人を殺す訓練を受けた人間、どちらが戦力になるかは一目瞭然である。だからうちは農民兵を極力集めないし、集めたとしても志願者兼戦力になると判断した者だけだ。下手に農民兵が大量に死ぬと、領内の経済活動にまで悪影響が出るから困る。


前回のヴァーグナー軍との戦争で死んだ古参奴隷兵23人と新人奴隷69人は、丁重に葬って新しい奴隷を100人買っている。準備期間中、せっせと買い集めた奴隷達は異様に士気が高い。まあこれまでの戦争で、奴隷は50人ほど解放して常備軍の軽装歩兵として雇い直したから解放される期待値が高いのだろう。実際は、奴隷から解放されても俺の手駒であることには変わりないのだが。


「私も戦場に出るのよね?」

「え、要らんけど。

そもそも今回は、初日で敵軍を壊滅させるから夜戦ないし」

「夜戦じゃなくても戦えるのだけど」

「危険度の高い任務が無いから出なくて良いよ」

「……危険度の高い任務しか与えられない側室兼騎士って何よ」


コルネリアは、こういう戦いに出て流れ矢で死んでも困るので出陣させない。コルネリアが出る時は俺も一緒に出る時です。そこまで逼迫した状態でも出せる手札があるのと無いのとでは、かなり違う。


フェンツ伯爵領に侵入し、一直線でフェンツ伯爵領の城塞に迫るヨアヒム軍は道中の落とし穴やら即席の狩猟用の罠で結構な人数が傷を負ったらしく、対面した時には1割ほどが負傷していた。やっと待ち望んでいた無能な相手が来たけど、これに勝っても嬉しくねーな。勝ったところでヨアヒム自身が死なないと旨味無いし。


矢傷などを負った負傷者を後方に下げているお蔭で、2000人ほどしかいないヨアヒム伯爵の軍と、1800人の俺の軍。軍規模はほぼ拮抗。戦場はこちらが地元の分、地の利がある。そして軍の質は、こちらが上。


ようやく、普通の戦争で普通に勝てそうだ。こちらの軍を見て、攻撃を仕掛ける相手の軍は、指揮系統すらまばらで色々と酷い。そしてこちらの投石機の射程範囲内で戦い始めたので、向こうの陣地に大きめの石がどんどん降る。当然、こちらの軍にも落ちるけどその大半は奴隷兵の部隊に落ちているから大丈夫です。


あ、新人奴隷に当たって新人奴隷が気絶した。まあそういうこともある仕方ない。幾ら精度を上げたと言っても、所詮は投石機なので全部狙い通りにはいかないです。まあ石や岩は向こうの軍に9割方降っているし、こちらへの多少の被害は想定の範囲。とりあえず俺に出来ることは、死んでないことを祈るだけだな。


……でもこの世界だと、祈ったところで全部あの糞女神に行きそうなのがなあ。ああ、向こうの指揮官っぽい人が投石で潰れた。大きめの石が当たったぐらいで落馬するとは情けない。後頭部が抉れても戦い続けるうちの古参奴隷や、槍が何本も身体を貫通しているのに指揮を執り続けるうちの隊長たちを見習いなよ。


明らかに旗色が悪くなるヨアヒム軍だけど、なかなか撤退しないのは総大将のヨアヒム自身の判断が遅いからだろう。これは慎重というより、単に判断が遅いだけだな。


ほぼ一方的な殺戮と化した戦場は、向こうの軍が半壊して潰走したことであっさりと決着が着く。残念ながらヨアヒム自身は討ち取れなかったけど、相手の軍2200人の内、1000人以上は殺せたみたいだし、200人ほど捕虜にも出来た。こいつらは奴隷にして、ジェレミアス伯爵との戦いの時に投入しよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >後頭部が抉れても戦い続けるうちの古参奴隷や、槍が何本も身体を貫通しているのに指揮を執り続けるうちの隊長たちを見習いなよ。 見習えるか!そんなもん!www…
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