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第26話 地下通路

ヴァーグナーの軍は、俺の想定よりも早い進軍速度だった。罠を見破られていたとは言え、ここまで早かったのにはそれなりの理由がある。恐らく、軍の体力よりも進軍速度を優先したのだろう。こちらの軍が集結する前に辿り着いてしまえば、戦闘すら起きずにフェンツ伯爵領の城塞は陥落する。


もしも俺が常備軍の数が少ない、一般的な伯爵なら農民兵の集結が間に合わず、あっという間に陥落していただろう。まあ実際には、奴隷兵と常備軍がいるから普通に持ちこたえられたわけだが。日が暮れ、向こうは陣を構築して野営に入る。城塞の上から見た感じ、ほぼ全員がテントの中だな。うちとは大違いです。流石は聖君。


この異世界、野営は天幕すら張らないことも多い。まあ戦国時代の日本も基本は地面にムシロを敷くだけの、野ざらし状態だったし仕方のないことなんだけど……ヴァーグナーの軍は、流石にこういうところできっちりしている。


さて、これからこちらは夜中に攻撃をする部隊と早朝に攻撃する部隊で、相手に寝かさない戦術を採用する。しかしこの世界において夜襲は、極めて難しいことだとされている。というか地球でも夜襲は基本失敗するものだし、同士討ちのリスクが極めて高いから部下からも嫌われやすい。


というか戦国時代の夜襲って、基本は早朝の明け方に行われるものだから朝駆けなんだよね。本当の意味での夜襲……夜討ちがどれほど難しいか、理解が出来ない人は夜に部屋にある光源を全て切り、カーテンを閉じて欲しい。部屋が真っ暗闇になり、どこに何があるのかさえ理解できないだろう。その状態で殺し合うとか、わりと正気の沙汰じゃない。


もしも松明なんかを持って移動したりすれば、敵から袋叩きに会うのは必然。だから俺はコルネリアに先導を任せて、移動を行う。暗視持ちってすげえ。真っ暗闇の中でも、普通に道を直進してるよこの人。


ある程度敵に近づいた後は、火炎放射器を上向きに設置して帰る。……大砲のような、火薬を使わない武器の開発で、一番最初に思いついたのは火炎放射器だった。筒状のもので、その先端からは炎が噴出される。


そのスイッチを押し込み、紐を引っかけて、退散。スプリングを仕込み、スイッチが元の位置に戻った時、初めて着火する仕様にしたので時限式にすることが可能となる。前にテストしたけど、一時間後に紐を切れるようにしておけば、ちゃんと一時間後に火柱が昇る。これが目印になるわけだな。


この目印という名の火炎放射器を幾つか設置して、城塞に戻ると投石機の準備は完了していた。リンデの手伝いはこっちの方だね。投石機の威力は凄まじいものだけど、石と重りの設置に苦労するし時間がかかるから、そこが短縮されるのはありがたい。


「……なーにが『2人が危険な目に合うことは避けるから』よ。私、どれだけ緊張してたか分かる!?」

「地下通路使ったし、ほとんど危険は無かっただろ」


コルネリアは作戦実行後に文句を言ってきたけど、道中のほとんどは地下通路を使っていたので危険だった時間はわりと少ない。この地下通路は、奴隷達が掘ったものもあるのでヴァーグナーも全容は把握していないはず。一部、地下通路が存在していることぐらいはヴァーグナーも知っているだろうけど、その出入口の地点とかまでは知らないんじゃないかな。


地下通路を使ってから、多少の移動はしたけど警戒線の内側に入っていたから危険は無かったと言っても良い。そして最後の火炎放射器の設置後、1時間で3つの火柱が上がる。そこから数分遅れて、残りの2つも火柱を上げた。おお、明るい。よく見える。


「これなら相手の被害も見えるし、相手は火柱を消そうと集まって来る。そこを狙って、削っていきたいな」

「あの、火事になったりはしないのですか?随分と大きな炎ですが……」

「水属性魔法を使える人はいるだろうし、何ならヴァーグナー自身が水属性魔法の使い手だから火災にはつながらないかな。そもそも、今の時期は森が乾燥していないから大火災には繋がらないと思う」


リンデが森林火災について心配していたけど、まあ今の時期は大丈夫じゃない?それに向こうが炎を消そうと躍起になるだろうし、大火災には繋がらないはず。俺自身も、森という領内の貴重な財産を全部吹き飛ばすわけにはいかないし、そこら辺は考えてある。


でも万が一大火災になったら、その時はヴァーグナー軍が全員焼け死ぬのでそれはそれで好都合です。後は純粋に、眠れなくするためのものなので実害がそれほどなくても良いです。


この策の駄目な所は、火炎放射器を回収されたら向こうで生産されることだな。あとは恐らく、地下通路の存在に感付かれる。でも投石機の活躍によって、悲鳴があちこちから聞こえて来るから費用対効果は良い感じ。


大砲と違って壊れにくいし、弾のコストが全然違う。一部、森に火が付いたから消火活動も大変そう。これは狙い通り、向こうの兵は寝られないんじゃないかな。


「……何でこの3門の投石機、昼間に使わなかったの?」

「ああ、この投石機は長距離特化だから手前は狙い辛いんだ。城壁に近づいて来る兵よりも、遠くで休んでいる兵の方が攻撃しやすいし。あと弾がほぼ無限とは言っても、石ころを集めるのにもそれなりに人手と時間はかかるからな」


今回使用している投石機は、地球ではトレビュシェットと呼ばれる型のもの。大砲が活躍し出すまでは実際に使用されていた投石機で、巨大な重りを乗せた台が下がる時のエネルギーを利用して石を遠くまで投げ飛ばす。


……ぶっちゃけ現段階では、大砲よりも信用できる兵器かも。防衛時だけじゃなくて、攻撃時にも使えそうだから可動式にしたいなあ。あ、やべえ。一門壊れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] さて、火炎放射器と投石機でヴァーグナー軍をどこまで疲弊させられるか……? [一言] 続きも楽しみにしています!
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