第20話 二者択一
今回の戦争で、破城槌を使って城壁に風穴を開けた方の奴隷兵の隊長ティエリーを元奴隷の男爵にする。元奴隷兵だから、可愛らしい名前だけど当然おっさんです。腕とか脚とか毛むくじゃらで、中々に体格が良いおっさんです。
なんか俺のやっていた情報操作を一番詳しく理解していたから、密偵頭の地位も渡しました。孤児達の中で、優秀な成績を得ている者は全員密偵として雇ってティエリーに任せよう。当面の間は他領からのスパイの防止を仕事にさせる予定だけど、そのうち帝都にも潜り込ませる予定です。
さて、今回の戦争で地味に敵軍総大将であるアルトーを捕縛するという活躍をしたパーシモ傭兵団。その団長であるハンス・シュミーダーとその妹コルネリア・シュミーダーを呼び出して二択を迫る。これは今後、俺に仕えるか否かの二択だな。
「お兄様お兄様五月蠅いわ。どんなに言い繕っても、アルフレートの戦場からパーシモ傭兵団が逃げたという事実は変わらないんだよ。だから信用最底辺だし、仕事も来ない。こうして妹を人質に差し出して、ようやく他の傭兵団と対等の信用度だ」
本陣で妹のコルネリアと会話をした時、コルネリアは如何に団長が素晴らしいかを語っていたけど、戦場から逃げたという事実は変わらない。
「仕方ないじゃない。パーシモ団長がヴァーグナーに討ち取られたんだから……」
「ああ、なるほど。ヴァーグナー本人に討ち取られたのか。
で、当時副団長を務めていたハンスは傭兵団が全滅すると思って撤退を判断。結局のところ、逃げたのでは?」
「……ヴァーグナー1人で団が半壊したのよ。お兄様の判断は、間違ってなかったわ」
「あっそ。
……あいつら、特性は予想以上に低い状態で公開してやがったな」
拳を握りしめながら、プルプルしているコルネリアはひたすらにお兄様は間違ってなかった、お兄様は正しかったと戦場では言い続けていたけど、コルネリアにとっての身内はハンスしかいないんだろうなあ。じゃあこの状態でコルネリアが唯一の身内であり尊敬するお兄様ハンスに売られたらどうなるのか、ちょっと気になる。
というわけで、ハンスに選ばせよう。俺から男爵位を授けられ、俺の封臣となり、傭兵団改め騎士団として活躍をするか、俺の手元を去り、まだまだ信用回復は成ってない、傭兵団の団長を続けるのか。
この二択は、普通であれば俺に仕える一択だ。そもそも貴族のお抱えの騎士になれないから傭兵をやっているのであって、騎士になれるなら傭兵を続ける必要はない。ここでハンスが迷っている最大の理由は、妹のコルネリアを俺に差し出すことが条件だからだ。
まあ妹を側室として差し出せと言われたら、誰だって迷うと思う。しかもハンスの場合、双子の妹だし、幼い頃から2人で困難を乗り切って来たのだろう。それを貴族とはいえ、年下の男に差し出す。その理由も、自身の出世のため。
「……あの、少し考える時間を貰っても」
「いや、今すぐに決めろ。別にこの話を断って、俺の領土から出ていってもらっても構わない。その場合、俺からのお前らパーシモ傭兵団に対する評価は『期待外れ』になるがな」
この2人も、何となく俺が情報操作をしていることは感じ取っているだろう。そんな俺が傭兵団に対して『期待外れ』という評価を吹聴すれば、もう二度と他貴族から雇われない可能性すらある。今回ですら、超が付く格安だったしな。だから雇ったし。
兄であるハンスは、妹のことを考えたのか時間を求めたけど、即答で断らなかった時点で妹の瞳からハイライトは消えたんだよなあ。そして俺が今すぐに決めろと言ったのに、恐らくハンス自身の中では絶対に引き受けたい話なのに、ここで即答出来ない時点で武人ではあっても団長としての器はない。
改めてコルネリアを見ると、まあ美人さんだ。スレンダーではあるけど、金髪ショートヘアなのに可愛く見える顔の時点でAPPは高いし、剣の修行をしているからかスタイルは良い。ちゃんと婚活したら貰い手が、すぐに決まりそうな見た目ではある。
こう見えて兄と同じく頑丈の特性を保有しており、珍しい暗視の特性も保有している。暗視はそこまで凄い特性ではないけど、夜目が効くとか、リンデさんと組ませたい欲もある。なお既に半分精神崩壊している模様。あ、結局ハンスが話を引き受けてくれたのでコルネリアは俺の側室確定です。
……このまま放置しておくと、自殺してしまいそうなので後でケアはしないといけないか。一方のハンスは話を引き受けた後、後ろにいたコルネリアを見て固まる。男爵になった兄を祝福することも、怒ることもせずに、魂が抜けたように棒立ちしているから仕方ない。
ハンスへの説明は先輩男爵であるライトがするので任せて、俺はコルネリアを自室へと運ぶ。死体のように動かないので、凄く重たいけど運べない重さじゃない。……これ、ちゃんと回復するのかな。この状態になった8割ぐらいは俺のせいなんだけど、ここまで酷くなるとは思わなかったわ。




