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第1話 始動

何かしないといけないと思いながらも、館を出ることすら出来ずに領地経営の基礎の学習や剣の特訓ばかりをして2年の時が経過し、10歳になった俺はこの世界の10歳になった人全員が行う儀式のため、教会へと赴く。これはもう一度、特性の確認を行うためだ。既に5歳の時に火属性魔法レベルⅡの特性を持ち合わせていることが分かっている俺だけど、平民は10歳でこれを行うそうだし、より詳しいことが本人にだけ分かるとのこと。


律儀に順番を待つこと30分。他の貴族の息子娘の特性の確認が終わったみたいで、教会内にある個室に招かれて入るよう促される。……これ、兄達が放った刺客とかが潜んでいないよなと警戒しつつ入ると、そこにあったのはこの世界の女神を模した女神像だった。


前回の時と同じように、片膝を着いて両手を握り合わせて瞳を閉じる。すると、ハッキリとしたステータス画面のような物が頭の中に浮かんだ。ついでに、声も聞こえた。


『ハロー、ハロー。聞こえているかな?パルマー・クラウス君。ねえねえ。もうすぐ兄達や強大な伯爵達から領土を守らないといけないってどんな気持ち?』

(……え?女神様?)

『そうだよー。君を転生させた女神様だ。あ、声をかけられたからって自身は特別な存在だー、なんて思わないでね?転生者には一応全員に話しかけているんだからさ』

(……あああぁぁぁ……俺の他にも転生者がいるのか。もう詰んだなこれ)

『いやいや、君の世界には君しか転生者はいないよ。そう何人も同じ世界に転生者を放り込むと凄まじい勢いで技術競争を始めて絶滅戦争おっぱじめるから』


どうやら俺を転生させた女神様は、随分とフランクな人のようだ。姿形は見えないけど、非常に若い女性の声がする。そしてからかうような声から察するに、苦境に立たされる俺を観察して楽しむ性悪な女神。


『性悪じゃないよー。せっかく公爵家の息子に生まれたのに何が不満なのさ。もしかして奴隷から始めたかった?この国の制度だと、君は一生奴隷のままだよ?』

(いや、それなら気楽に過ごせる皇帝の跡取り息子とかに生まれさせてくれよ……。それか辺境の伯爵領でのんびりとスローライ)

『私そういうの嫌い。自分で何もしないのに、ただ惰性を貪るような人間なんて滅びるべきだし、そんな人間を許容する社会は滅びて当然だよ』

(……)

『あと皇帝の跡取り息子が気楽とか本当に思ってるの?分割相続制な以上、兄弟が多い時の長男なんて立ち位置は最悪だよ?』

(…………そうか)

『あ、そろそろ時間が終わるから一言だけ。本当に詰んでいるなら、相続放棄という手もあったはずだよ。それを選択しなかったのは、詰んでいないと思っているからだよね。それなら夢の皇帝目指して頑張って』


その女神様に、激励だけされて一方的に話を打ち切られる。今回の儀式というか、特性確認の間で得られた情報は火属性魔法レベルⅡに加えて、剣術レベルⅠの特性を得ていたこと。兄達みたいに、特殊な特性は何一つ得られてないことだけだった。


長男ヴァーグナー:聖君、強心臓、剣術レベルⅣ、矛術レベルⅢ、火属性魔法レベルⅢ、水属性魔法レベルⅢ、風属性魔法レベルⅢ

次男アルフレート:威圧感、鉄仮面、回避レベルⅡ、槍術レベルⅢ、剣術レベルⅡ、盾術レベルⅡ、雷属性魔法レベルⅣ、火属性魔法レベルⅡ、風属性魔法レベルⅡ

三男パルマー(俺):剣術レベルⅠ、火属性魔法レベルⅡ


うわ、並べてみるとこの差は酷いな。個人の戦闘能力では逆立ちしても勝てない。しかも兄の2人は、他の兄弟に切り札を隠してこの特性の量だ。全部で2つしかない俺とは雲泥の差です。


……相続放棄の件、真面目に検討しようかな。


しかし特性の圧倒的な差でくよくよしていても仕方ないので、コツコツと貯めたお小遣いで奴隷を買いに行く。買うのは女の奴隷ではなく、男の奴隷です。女の奴隷を買っても将来的に奪われるだけだから仕方ないね。というか戦える女奴隷なんて異世界でもいねえよ。


こういう時、訳アリ高性能奴隷を格安で買えるのが物語の主人公なんだろうけど、あいにくそんな都合の良い存在もいないので20人ほど普通の男の奴隷を購入。全員特性で、自己修復レベルⅠを保有している奴隷だ。


この自己修復、そんなに珍しい特性ではなく、平民の2割から3割程度は保有している特性だ。というか日常生活で普通に手に入る人もいるぐらいにはありふれた特性。しかしながら効果は極めて少なく、止血までの時間が短くなるだけ。


それでも奴隷達の育成をして強靭な軍隊を作るという方針であれば、この自己修復に賭けるしかなかった。クソゲー感あふれるこの世界で、特に取柄もない俺がのし上がるには、軍か金かのどちらかが必要だ。


……幼い頃から魔力トレーニングはやった。でも最大魔力量なんてものは最初から決まっていて、何も変わらなかった。剣の特訓もした。実戦で役に立たない素振りを何万回と繰り返し、多少なりとも筋力は増えたが、教師役にはずっと兄達よりも出来が悪いと言われ続けた。


そして内政手腕すら、恐らく兄達の方が上手だ。ただ単に指示を出すだけなら俺でも出来るだろうが、実際に重要なのは配下となる男爵達や教会領を納める司祭との人間関係だ。ここが上手く行ってないと、納められる税が少なくなったり、下手したら命令無視もされる。


前世でコミュニケーションは、一番苦手だったと言っても良い。だから俺は、奴隷に頼った。俺の言うことを確実に聞いてくれる存在。契約で縛られたこの世で最も哀れな存在に頼るしかなかった。


パルマー・クラウス、10歳。ここから一発逆転なんて夢は見ないし、見れない。でもここから最善を尽くして、生きるための努力はしていこう。与えられた境遇に対してただ嘆いているだけなら、あの性悪女神の言う通り、滅びるべきだろうしな。

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[良い点] >>『私そういうの嫌い。自分で何もしないのに、ただ惰性を貪るような人間なんて滅びるべきだし、そんな人間を許容する社会は滅びて当然だよ』 なろうの女神を始めて尊敬した
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