第14話 独立
ダーヴィト・ロイター伯爵がフェンツ伯爵領の正当な請求権を得たという情報が入った直後、ヴァーグナーからフェンツ伯爵領を明け渡せとの指示が飛んできたので当然拒否。次男アルフレートと同じく、独立戦争に突入して、次男アルフレートとは違いその場で独立を認められる。
……ヴァーグナーの封臣である俺に対してダーヴィトが宣戦布告を行えば、ヴァーグナーは契約により俺を守らないといけない。それを回避するための行動だろうけど、本当にダーヴィトが宣戦布告する直前に一連の騒動が起きたから、ヴァーグナーの嫁である皇帝の娘ルートでヴァーグナーには情報が入って来ていたんだろうな。
あ、独立は出来たけど長男ヴァーグナーは今でもフェンツ伯爵領の請求権を持っているので、今後いつでも俺に対し、宣戦布告してくる可能性はあります。今はアルフレートとの戦争中だから、後回しということだろう。今二正面作戦をするほど、ヴァーグナーは馬鹿じゃない。ダーヴィトとアルフレートの軍勢を足したら、ヴァーグナーの軍勢とほぼ同じぐらいだろうし。
しかしヴァーグナーにとって計算違いだったのは、アルフレートがかなり善戦していることだ。ヴァーグナーとアルフレートの戦争が始まった後、領地の要塞に籠ったアルフレートを放置し、ヴァーグナーは真っ先にアルフレートの領内にある金山を確保しに行った。
戦争が長期化するなら、そこを確保してしまえばヴァーグナーの勝利は揺るがないし、当然の一手だ。それを読んでいたアルフレートは、金山の坑道の至る所に火薬を配置。どうやら時限爆弾のようなものを仕込んでいたようで、坑道は全て崩れ落ち、金山に入っていったヴァーグナーの幾つかの部隊が生き埋めになったとか。
しかも雇った傭兵たちが強いのか、局地戦ではアルフレートの方に分がある始末。継続的な収入が無くなったアルフレートだけど、まだ父の遺産はあるだろうから何とかなる範疇。ここで負けたら全てが終わりのアルフレートは、持っているもの全てを注ぎ込めるから強いなあ。
さて。独立したは良いけど現状ではほとんど何も好転してない。唯一、封臣契約でヴァーグナーに金や兵を送り込んでいたのが無くなったのは良いことだけど、代わりに皇帝へ直接納めるようになっただけだし、何なら負担額はほとんど変わってないという。まあこれはカルリング帝国に所属している以上、仕方のないことなんだけど。
そしてダーヴィトは同じくパウルス4世の封臣なので、封臣契約を結んだ上司が守ってくれるという展開はない。元から無かったような気もするが、ヴァーグナーの元から独立したことで完全にその可能性が無くなった。シュルト公爵家との口約束が無意味になった瞬間でもある。ちくしょう。
……もちろん、独立した次の日にはダーヴィトに宣戦布告された。戦力を比較すると、およそ3倍ぐらいかな?今ある情報を元に推測すると、向こうは3000人近いのに対し、こちらは1100人。普通に野戦で戦えば敗北は確定的だろう。
ダーヴィト・ロイター 戦力:常備軍(重歩兵600人、長弓兵300人)、農民1600人、傭兵300人 合計2800人
パルマー・クラウス 戦力:常備軍(騎兵100人、長弓兵100人、奴隷兵100人+300人)、農民500人 合計1100人
奴隷兵は新たに300人を購入したけど、こちらの方は鍛えてないので本当にただの戦闘用奴隷です。こいつら揃えるために父の遺産から結構な額のお金を使いました。父の常備軍の中では新兵とはいえ、騎兵と長弓兵は、まあまあ戦えるはずだけど向こうの常備軍の方が質も量も上です。
徴兵される農民は、伯爵領の数×500人ぐらいが目安。大体そのぐらいが動員される。中には人が多くて豊かだから1000人近く動員出来る伯爵領もあるだろうけど、そんなのは稀です。ダーヴィトの1600人は、伯爵領3つ持ちだと平均値ぐらいじゃない?
傭兵団は多いところだと2000人近いところもあるけど、小さいところだと100人や200人の傭兵団も珍しくない。今回ダーヴィトが雇った傭兵団は、たぶん質重視で数が少ないところだと思う。300人なのに結構な額のお金を出しているようだし。
宣戦布告されたということは、13日後にはダーヴィトの軍勢がフェンツ伯爵領に侵攻してくる。軍の集結に大体6日、そこから進軍でここまでに7日という計算だ。それまでにこちらも軍を集めて、フェンツ伯爵領の北西にある砦に集結。こちらは一伯爵領から集めるだけだから、3日ほどで軍の集結が終わった。地味にうちの元帥が優秀で助かった形です。
……ここでこのまま籠城しても、包囲用の部隊だけ残されて残りの部隊で略奪とかされるんだろうな。辛い。ついでに言うと向こうは戦争慣れしているのに対し、俺は1000人規模の大軍を動かしての戦争経験がない。辛い。
でも武闘派で拡張に余念がないダーヴィトが攻めて来ることなんて領地を引き継ぐ前から分かっていたことだし、その対策を練る時間は十分にあった。この戦争は、普通に勝っても意味がない。確実にダーヴィトを殺し、息子達に領土を分配させなければ、苦しい状況がずっと続いてしまう。
あとは、アルフレートがヴァーグナー相手に粘るのを祈るだけです。流石にないと思うけど、ここからアルフレートがあっさりと負けてヴァーグナーがすぐ次の行動を起こせるようになると、ほぼ確定的な死が俺には待っているからね。
斥候からの報告で、向こうの軍が到着するまであと5日ほどという報告が入る。ありがたいことに、軍を率いているのはダーヴィト本人だ。こいつだけは、絶対に生かしてフェンツ伯爵領から出さん。そう決意して、こちらも準備に入る。




