第13話 大義名分
リンデさんとまた会う約束をし、領地であるフェンツ伯爵領に戻り、数日後。教会へ行って、性悪女神と駄弁る。何だかんだ言って、ただの人間の会話に付き合ってくれる辺りは女神だと思うよ。それ以外は屑だと思うけど。
(うちの家臣になった奴が本当に使えないんだが。何であの中から評議会のメンバーを選ばないといけないんだ)
『いっひっ、人望無さ過ぎてウケるんだけど。あの宰相候補、全能力値が3ぐらいのゴミだね。というか仮にも外交官候補が文字すら書けないとか何のギャグ?』
(頼むから女神様信仰特典とか信仰する度に貯まるポイントとかで神の使徒みたいな便利な奴くれよ)
『ログインボーナスなんてないし、神の使徒はチートなのであなたのような人間にはあげません』
伯爵以上の人間は、自分の評議会というものを持っている。宰相、外交官、法官、家令、徴税官、元帥、密偵頭の7人で構成されることが一般的であり、基本的には下位の封臣に任せる仕事だ。伯爵の下だから、この場合は男爵達だね。
ちなみに我が兄ヴァーグナーは皇帝パウルス4世の次期元帥候補です。何なんだあいつは。元帥になればカルリング帝国の兵もある程度動員出来るようになるし、最早独立戦争で勝ち目はないです。
ヴァーグナー自身の評議会は、父から受け継いだ人材もいるから一分の隙もない。アルフレートの方も優秀なメイド達が沢山いるので、評議会を任せられる人員はいる。
しかしながら、俺の評議会。今のフェンツ伯爵領にいる男爵は大体が無能である。というか現代人の感覚だと例えどんな教育を受けていようが中世の人間なんて……。唯一、ハルティング男爵が軍事面で優秀だから元帥の地位を渡したけど、兼任させられないのがなあ。
『というか、ここで私が神の使徒を配下として渡すような女神に見える?』
(いや全く。精神が汚濁しきっている性悪腹黒女神様がそんな優しいことするわけないじゃないか)
『……ねえ。何か1つ、望みを言ってみなよ。叶えてあげるからさ』
そうこうしていると、女神に何か望みを言えと言われたので言葉に詰まる。万が一は無いだろうけど……うん、ここは素直に言おう。
(領地開発の資金として5000万円ほど欲しい)
『そう……。分かったわ。
アンケート調査の協力、感謝します。それではまた来週』
(ああくそ、分かってたわ糞女神。地獄へ落ちろ)
そして素直に言ったら逃げる女神。叶えてあげると言ったのにその素振りすら一切見せずに裏切る様はもはや邪神か何かじゃねーの。他に娯楽がないし教会勢力と仲良くしたいからここに来ているけど、娯楽を作る余裕が出来て教会勢力と仲良くなる必要もなくなったらたぶん二度と来ねえ。
とりあえず教会へのお布施は済んで、情報収集も終えたので今日の収穫は女神との会話以外それなりにあった。教会に対して大義名分を買おうとしている、2つの伯爵領を持つヨアヒム・ハースさんは何故か蜂起した農民達の鎮圧に忙しく、先に3つの伯爵領を持つダーヴィト・ロイターが攻め入って来るのはほぼ確定したらしい。
17歳の時、戦争で活躍しロイター伯爵領を受領したダーヴィト・ロイター。その後も着々と領地を広げ、今ではディール公爵に最も近い男となっている。彼には息子が4人いるため、もしも彼が死んだ場合、三男までの息子が1つずつ伯爵領を引き継ぎ、領地はバラバラに分かれるということだな。
このまま行けば、ほぼ確実にダーヴィト・ロイターがフェンツ伯爵領を支配する正当な大義名分を得るだろう。大義名分を買うのに、幾らかかるのかは今の俺ではまだ分からない。
将来的に、ダーヴィトがフェンツ伯爵領を支配する大義名分を持った形で戦争が始まるが、俺は『ダーヴィトが支配する領地』を支配する大義名分を持っていないため、例え戦争で勝っても相手側の領地を得ることは出来ない。賠償金を払わせることは可能だけど、戦争で流した血を回復させるのも難しい額しか得られないだろうな。
しかしながら、ダーヴィトがこちらに攻め入った瞬間に、こちらがダーヴィトを殺す大義名分は手に入る。戦争中にダーヴィトを殺せば、自動的に領土は分割相続される。伯爵の下に伯爵は仕えられないため、長男に仕える形ではなく、次男三男は独立した伯爵になる。伯爵領が3つ纏まっていたロイター家は、完全にバラバラになる。後はまあ、刈り取り放題だろう。三男は俺と同じく成人してないし。
後は、ダーヴィトを殺せるかという問題だけだね。相手は伯爵領3つ持ち。動員兵力では逆立ちしても勝てないし、こちらの家臣団は無能ばかりなのに対して、ダーヴィトの下に集まっているのは優秀な人が多いと聞く。お願いだから、1人ぐらいその優秀な人材を分けてくれないかなあ。
常備軍の数でも当然向こうの方が多いし、こちらに有利な点は、地元のフェンツ伯爵領内での戦争になるという点しかない。……だけどそれだけでたぶん、普通に優秀な貴族程度は捻れるんだよなあ。負ける気せぇへん地元やし。




