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第10話 開幕

腕の良い医者のお蔭で症状がかなりマシになっていたはずの父バイヤーが唐突に死に、とうとう11歳という年でフェンツ伯爵領の伯爵となる。いや唐突ではないか。もう先は長くない感じだったし。


フェンツ伯爵領はディール公爵領の中ではディール伯爵領に次ぐ人口の多さだけど、豊かとは言い切れない。そもそもクラウス公爵が保有する伯爵領の中なら一番下のレベルの伯爵領だ。


……父親に対する尊敬の念とかは、大して無い。まあ前世の親の方が親としての役割をしっかりと果たしてくれていたし、バイヤーは長男のヴァーグナー以外に冷たく当たっていたからね仕方ないね。でもせめてあと4年は生きて欲しかった。俺のために。


お金が三等分されるのは、唯一の救いだな。日本円にして1億円に近い財産が転がり込んで来た。ただこれはヴァーグナーもアルフレートも手にするものだし、ここで差は出来ない。


差が出るとしたら、常備軍の分割でだね。1000人の常備軍の内、俺が相続出来たのは新兵ばかりの200人。内訳は100人の騎兵と100人の長弓兵だ。これに奴隷兵100人を足した300人が、初期の軍備みたいなものだね。なおヴァーグナーは既に常備軍が1000人近い規模の模様。バイヤーの常備軍の中で歴戦の400人を回収しているから、この差は辛い。


そして父親の葬儀から僅か1か月。ヴァーグナーはアルフレートに宣戦布告をした。正確にはアルフレートが宣戦布告をしているけど、ヴァーグナーから喧嘩を売っているようなものだ。開戦理由は「ヴァーグナーの暴政に対する反乱」かな。


ヴァーグナーはアルフレートに、領地の受け渡しを迫った。アルフレートにとっては快諾して伯爵領を喪失し、伯爵じゃなくなるか、反乱を起こすかの2択をだね。これはアルフレートとの戦争が終わったら、こちらにも矛先が向くだろう。真っ先に矛先がこっちに向かなかったのは、理由がある。


次男のアルフレート。こちらも父親の常備軍1000人の内、400人を相続している。その上、領内に金山が見つかり、日に日に戦力は増しているような状況だ。そんな中、俺の持つフェンツ伯爵領に攻め入ったりしたら、アルフレートから背中を刺されるのは目に見えている。


要するに、アルフレートが優秀かつ運が良かったから真っ先に狙われたということだ。これは俺にとって幸運だし、年明けにシュルト公爵家へ行く時間は確保出来そう。なんせ、アルフレートは父親から相続したお金と金山から湧き出る金のお蔭で、複数の傭兵団と契約。傭兵団だけで2000人以上の戦力を確保した。


その上、前々から要塞の建築に着工しており、城壁の増築も行っている。ヴァーグナーとアルフレートの戦争は、そう簡単に決着が着かないだろう。複数の伯爵領持ち同士、互いに優秀という条件なら、3年ぐらい戦争が続くこともあり得る。折衷案のない戦争だしなこれ。貴族の後継者争いなんて基本はオールオアナッシングな話です。


……だからと言って、安心できるわけではない。フェンツ伯爵領が属するディール公爵領。その中の3つの伯爵領を持つダーヴィト・ロイターは皇帝に、2つの伯爵領を持つヨアヒム・ハースはクヌート教の教皇に対してフェンツ伯爵領への侵攻の正当化を始めている。


暴政を働いていないとはいえ、俺がまだ未成人ということで、簡単に正当化は出来るだろうし、正当化が終わり次第攻めて来るだろう。猶予が本当にない。


もって半年。早ければ3ヵ月後には宣戦布告が飛んでくるなというタイミングで、シュルト公爵領に向けて出発。馬車で片道10日ほどの長旅です。……一日で50キロぐらいは進んでいると思うんだけど、それでも10日かかるってことは相当離れているよなあ。


どうせならど真ん中にある帝都エアハルトにも寄りたかったけど、そんな時間は無さそう。道中は魔物やら盗賊やらが襲ってこなかったので、特筆すべきことはない。奴隷兵も15人ほど連れて来たし、自己再生特性のレベルが高くて戦闘能力のある強い奴隷を選別していたので護衛の方はバッチリ。たぶん盗賊団が襲って来ても返り討ちだった。


そもそも、カルリング帝国の治安はそれほど悪くはない。封臣の公爵や伯爵が代替わりした時なんかは荒れるけど、最終的には優秀な人が父の旧領を回復させるし、その結果帝国内では戦力が拮抗してあまり戦争が起きない。


ただまあ皇帝が代替わりした時なんか、遠方の領主はこれ幸いと独立したりして戦乱の世になるけど。というか数百年のスパンで見たら戦乱の世だな。現皇帝のパウルス4世の治世が長い上、安定しているから今は治安良いけど、そのうちまた乱世が来る可能性は高い。


馬車で移動するだけだと暇なので、この時間でシュルト公爵に渡す知識とその内容の吟味をする。今回、現公爵であるリンデさんのお父さんとも会うことになるけど、この時の対応次第で縁談が破談するか、貰い手がいない者同士の単なる結婚に終わるか、俺がシュルト公爵家と同盟を結べるか変わるから重要だ。


……リンデさん、見た目が悪くなかったら良いな。

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