プロローグ
普通の異世界転生小説を書きたくなったので書きました。
中世ヨーロッパ風の公爵家の三男として転生をし、そういう小説をよく読んでいた身としてはまさか俺がという気持ちでいっぱいだったし、正直に言って嬉しかったが、その喜びは長くは続かなかった。
カルリング帝国。その中でもそれなりの規模の領土を持つ父親のバイヤー・クラウス公爵は、現在伯爵領を5つ持っていた。さて、ここでこの国独特のシステムを紹介しておこう。
まず母体として、カルリング帝国という国がある。同時にこれはカルリング帝国という称号でもあり、それは代々受け継がれる。そのカルリング帝国に仕えているのが父バイヤーであり、クラウス公爵という称号を保持している。
このクラウス公爵としての称号を受け継ぐのは長男であり兄でもあるヴァーグナー・クラウスだが、直轄領は別の話だ。このクラウス公爵は本来クラウス公爵領の中にある5つの伯爵級領土を統べる者の称号だったが、そのうちの一つは分家が持って行っており、支配下にはない。
代わりに隣のディール公爵領に1つ、伯爵級の領土を保有しており、クラウス公爵領にある伯爵領4つ、ディール公爵領にある領土の1つで合計5つ。この父親の直轄領は、3人の子供に分配される。
……本来中世ヨーロッパというのは、分割相続制が基本だったという話は知っている。長子相続に切り替わった辺りで、近代だという見方をする人もいる。
幸い、父は兄弟がいなかったために祖父からクラウス公爵領内にある4つの伯爵領全てを引き継いでいる。そして父の代に隣の伯爵領へと侵攻し、その伯爵としての称号を奪い取った。そのため、直轄領が5つあるという状態。
これが分割相続制のお蔭で、三男である俺にも分配はされるが問題なのは伯爵領が5つということだ。流石に割り切れないものを無理やり割り切って分配するのは不可能なため、長男のヴァーグナーに伯爵領が2つ、次男のアルフレートに伯爵領2つ、三男の俺に伯爵領1つということになる。
で、長男のヴァーグナーがクラウス公爵を引き継ぎ、アルフレートと俺はヴァーグナーの封臣となる。契約で主従関係を結ぶということだね。他領から攻め込まれたりした時は主君が配下を守る代わりに、配下は主君へ税金や兵を納める。
なおヴァーグナーはカルリング帝国に直接仕えるが、アルフレートと俺はヴァーグナーに仕えるということになるので直接的にアルフレートと俺はカルリング帝国に仕えてない。そして配下の防衛戦争時に主君は配下を助ける義務があるが、主君の戦争に配下は付き従う必要がないという。何だこの社会。
ちなみに簡単に戦争戦争言ってるけど、大義名分がなければ戦争は出来ない。そして一番戦争をしやすい相手は、兄弟の持つ領土だ。親が持っていた領土を、子供が受け継ぐことは立派な大義名分だ。問題はその相手が血を分けた兄弟ということだけだな。
あ、伯爵領というのは基本的に中核となる都市と、その周囲の街を含む感じだし日本で言うと各都道府県レベルの領土だね。となると関東や近畿や四国という地方の単位が公爵級領土という認識で良いかも。公爵級領土が複数あるのが王国だけど、その範囲が極めて大きくなると帝国になる、みたいな感じ。上を見るとキリがない。
逆に伯爵の下には男爵があって、日本で言うと各市町村の長だ。伯爵領での伯爵の直轄地は、県庁所在地だけになる。それ以外は全部男爵達の領土だし、伯爵はその領内に手出しできない。この伯爵と男爵も封臣契約で主従関係が結ばれていて、基本的には帝国と公爵や伯爵との関係と一緒。
……ここまで説明すると、大体俺の境遇も分かると思う。俺が受け継ぐのは、ディール公爵領の中にある伯爵領1つ。クラウス公爵領と当然接しており、長男次男が引き継ぐ予定の領土、両方と接している。
その上、ディール公爵領には2人の伯爵がしのぎを削っており、片方は伯爵領を3つ、もう片方は伯爵領を2つ持っている。当然、俺が引き継ぐ予定の領土はこの2人にとっても格好の餌である。
ここで注意が必要なのは、ディール公爵領という領土はあるけどディール公爵という存在はいないこと。誰も称号を得ていないという状態だ。2人の伯爵はカルリング帝国に直接封臣契約で主従関係を結んでいる封臣であり、対する俺は封臣の封臣。めっちゃ狙われそう。
最後に悲惨なのは、年の差だ。俺は現在8歳なのに対し、長男のヴァーグナーは17歳、次男のアルフレートは15歳。つい先日、アルフレートが成人式を迎え、父から伯爵領を1つ与えられていた。既にヴァーグナーは2つ受け継いでいて、領地経営もしっかりとやっている模様。
2人の兄が愚兄なら俺にもチャンスはあったかもだけど、2人とも勤勉な野心家なんだよなあ。内政も滞りなく、むしろ与えられている領地をかなりの速度で発展させているし、非常に辛い。
こういう異世界ものの小説でよく出て来そうな優秀な爺やは長男ヴァーグナーの元へ行きました。次男のアルフレートは優秀そうな家の若いメイド達を全員連れて出て行ったので、うちの領内に残っているのは文字も書けないおばさんだらけです。仕えてくれる人?こんな負け組に乗ろうとする人なんて誰もいないよ。
あ、流石に異世界だけあって、魔法というのは使えるみたい。5歳の時の特性検査で、ヴァーグナーは火と水と風の3属性がレベルⅢだったようだし、アルフレートは雷属性がレベルⅣで火と風属性魔法がレベルⅡ。一方の俺は火属性魔法がレベルⅡだけというのも哀愁が漂う。特殊スキルや特殊な能力?そんなものもありません。
今はまだ親父が生きているから成人になってない俺は領土を引き継いでいないけど、もう51歳だしいつ死んでもおかしくないぐらいには痩せている。それまでに何か手を打たないと、何も出来ないまま兄達かその他の公爵伯爵に攻め入られてあっさりと死んでしまいそうだ。