小さな世界
ふわり、とカーテンが舞う。
光の帯が、部屋の半分まで伸びて、また戻る。
日差しは暖かいけれど、風はまだ肌寒く感じる。
「はっくしゅんっ! 」
私が、家の中を駆け回っても、この部屋の中で遊んでいても、日向ぼっこの特等席を占領していても、部屋の隅から動かないご主人様が大声を出した。
ちら、と見やると目が合った。
また泣いている。
ご主人様は優しい人だ。その分、傷つきやすい。
向けられた言葉は、全てナイフに変換してしまう。冗談だと笑い合えば、プラスチックで作られたナイフのようにぱきりと折ってしまえるだろうに。律儀にその心に傷を作る。
そのくせ、誰かを守ろうとしたがるから、自ら何かの矢面に立つ、馬鹿で優しい人なのだ。
そうして傷を作る度、私はご主人様の腕に抱かれてやって、共に一夜を過ごす。
「どうして争うんだろうね、しんどいよ。順位だとか成績だとか、何もかもが出来ていないと……、いい子じゃないと、生きてちゃいけないのかな」
ご主人様の言葉は理解できないけれど。背中に当たる熱い滴は、彼を苦しめているのだと思う。
……十分に暖まった。
私はご主人様から目を逸らして、窓辺から床へ降り立つ。
白いふんわりした尻尾を揺らしながら、私専用の潜戸を抜ける。
ご飯をくれるご主人様のところへ行こう、それからご主人様へのご飯もお願いするんだ。ご主人様達は扉を潜れないから、特別に私の扉を使わせてあげる。
そしたら、ご主人様は少しでも元気になるかな。
読んでくださって、ありがとうございます。
春の暖かさが伝わっていれば、嬉しく思います。