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セピア色のゴミ屋敷

作者: 黒猫

お題

・干からびたみかんの皮

・開運初夢袋

・アイロン

・色あせた写真

俺は28歳、独身、男性。職業は遺品整理士をやっている。

本日もご依頼を受けましたので今から向かうところだ。


今日の現場は閑静な住宅街にある至って普通の一軒家。


依頼主様の義理の父親にあたる方が住んでいらっしゃったが、

息子の家で孫たちと過ごしていたときに突然倒れられそのまま帰らぬ人となってしまわれたそうだ。

亡くなられた義父とご依頼主の仲はあまりよろしくなかったのだろうか、

金目のもの以外は全て処分して構わないとのこと。


軽トラを転がして小一時間、現場に到着。


御宅の駐車場も使えたし、庭もそれなりに整えられていたので、

今回の作業は比較的楽な方かと思ったが、家の中はひどい有様だった。

このゴミ屋敷状態では4人がかりで2日はかかるだろう。

既に亡くなられた人に文句を言ってもどうしようもない。


別の軽トラを転がして、同僚2人が遅れてやってきた。

幅も狭くいりくんだ道で迷ってしまったようだ。

このような昔からの住宅街ではよくあることなので仕方あるまい。


マスクや手袋を装着して作業を開始する。

遺品整理士になりたての頃は、白い手袋をする度に

「俺、警察の鑑識みてぇだな」と思ってテンションが上がったものだが今ではもう慣れてしまった。




目の前にあるものから片付けていくしか手段はない。

とりあえず玄関からやっていく。

今回の場合、注意すべきことはゴミの分別。それだけだ。


新人の女性スタッフが靴の中からゴキブリが出たと騒いでいるが、

現場の状態を問わずよくあるので次第に慣れていって欲しいものだ。


ちなみにそのゴキブリは、彼女とペアを組んで作業する、俺と同期の同僚がゴキジェットを噴射して処理していた。

あいつ、アレはどこから取り出したんだ? というかなんでそんなもの持ってるんだ?


次に取り掛かるのは居間だ。

もっぱらこの部屋で一日を過ごすので当たり前だが、居間が1番厄介なことになる。

ちゃぶ台の上には何本もビールの空き缶が積み上げられてトランプタワーのようになっている。

1人暮らしのお爺さんには、酒ばかり飲んでいる場合が少なからずあるがココもその例に漏れない。

タバコを吸っていた形跡はないのでまだマシな方だ。


居間の隅にはみかんの箱があった。

中を確認すると、まだ大半が残っているし、おまけに腐っている。

床には干からびたみかんの皮が散らばっていて、年末すら掃除を全くせずに出かけたことがうかがえる。

これではご依頼主様に嫌われるのは必然だっただろう。


居間そのものも相当荒れていたが、押し入れが酷かった。

なかなか押し入れが開かないから思いっきりやったら、扉が外れて頭上から物が降ってきた。

こんなことになるのはサザエさんだけだと思っていたが、どうやら実在したようだ。


押し入れの中を片付けて驚いた。

アイロンが2個あったのだ。そう、2個。

しかも同じアイロンが2個。さらに両方とも未開封。

製品名をググったら、人気で品薄の高性能アイロンだった。

謎。とにかく謎。マジで謎。


あまりの謎さにペアを組んで作業する若手の同僚に聞いた。

同僚曰く、「これ!うちの嫁が欲しがってたやつだ!持って帰りたい!」とのこと。

何故か2個あるのかは分からずじまいだ。




作業は2日目に入った。

昨日で1階が終わったので今日は2階をやって、作業を完了することができるだろう。


俺が今やっているのは、寝室であったと思われる部屋だ。

万年床の下から出てきたのは『開運初夢袋2021』と書かれた福袋。

どうやらこの近くにある古本屋の福袋らしい。

落ちていたレシートの日付を見ると『2020年12月30日』とある。

今年は新型コロナウイルス対策で福袋も年末から売っていたのを思い出した。


ご依頼主様のお義父(とう)様は読書が趣味だったのかと思って紙袋の中を見た。

女性スタッフが別の部屋で作業していて安心した。これは見ない方が良いだろう。

再び紙袋の中に入れて、袋ごと処分することにした。


枕元のサイドテーブルにはしゃれた写真立てが置いてある。

写真立てには色あせた家族写真が飾られていた。

写真には夫婦と小さな男の子が1人。

亡くなったお義父(とう)さんとその奥様、小さな男の子はご依頼主様の旦那様にもあたるお義父様の息子だろう。

この家はゴミ屋敷だったが、心なしか写真立ての周りだけは少し片付いていたような気がする。


お仏壇には数年前に亡くなられていたであろう奥様の遺影が飾られていた。

老夫婦は向こうで仲良くやれているだろうか。

「ゴミは分別してゴミの日に出しなさいって言ったでしょ!」と怒られている気もするが。


そんなこんなで作業は完了した。

謎のアイロン2つはご依頼主様のところに持っていってどうするかお伺いすることになった。


新人の女性スタッフは初めての仕事を終えて疲れ果てている。

ペアを組んでいた同僚は、高性能アイロンを来月の嫁さんの誕生日にプレゼントすることにしたらしい。

俺は、有休が取れたら温泉にでも行こうと思う。理由はとくにない。ふと思いついただけだ。


え、1人足りない?

あぁ同期のあいつか、あいつは粗大ごみを軽トラに載せてゴミ処理場へ行ったので今ココにはいない。

別に面倒だからと押し付けたわけではない。男気じゃんけんで行く人を決めたら、誠に残念なことに俺が負けてしまっただけだ。


願わくは、亡くなられた方が安らかに眠られんことを。

個人的にはアイロンが1番面白くなったと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜアイロンは2個あったのか?永遠の謎ですね。例えば通販サイトで、一個買うともう一個もらえるとかのやつだったりして。 [一言] シュールなお話ですが、読み応えがありました。
[良い点] 開運初夢袋、そうきたかー(笑) [一言] その周りだけきれいだった写真立て。 ちょっと考えさせられますね。
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