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入学式の翌日。小さく鳥のさえずりが聞こえて、カーテンの隙間から日光が射し込んでくる気持ちの良い朝だ。
大きく伸びをして、ベッドから絨毯へと足を下ろし、立ち上がる。
「おはようございます、フレイア様」
「おはよう、ノエル」
すると、側で控えていた侍女のノエルが近づいてきて、フレイアに朝の挨拶を告げる。もうノエルとの付き合いも長く、彼女のことをなんでも話せるお姉さんのように思っているくらいには、気心の知れた相手だ。
瞳と同色のワインレッドの髪を後ろの方でお団子にして纏め、着崩すことなく衣服を身にまとう姿からは、清潔感と彼女自身の生真面目さが感じられる。耳の近くに付けられたマーガレットをあしらったヘアピンは、いつかノエルへの誕生日プレゼントに贈ったものだ。
髪を結って貰うために、ネグリジェから制服へと着替えた後、ドレッサーへと腰を下ろす。いつ見ても可愛らしい制服だと、鏡を見て思う。ブラウンを基調とした、上品さと可愛らしさを兼ね備えた制服。白いラインでアクセントが加えられており、それがフレイアのお気に入りのところでもある。
「ねぇノエル。今日はいつもと違う、とびきり可愛い髪の毛にしてくれる?」
「ええ。ですが、テオドールにやって貰わなくていいのですか?」
ノエルは首を傾げ、主へと問いかける。普段はフレイアの髪はテオにして貰っているし、その時間をフレイアがとても大事にしているのを知っているのだから、そうなるのも無理はない。
「大丈夫よ。今日はノエルにして貰いたいの」
普段と違う髪型の自分を見て、テオに、少しでも意識して欲しいという期待を込めているのだ、なんて言える筈もなくて。ノエルにして貰いたいのは本当だが、本音とは少し違う言葉を口にする。
「わかりました。では、やらせて貰いますね」
くすりと思わずこぼれてしまったかのような笑みを浮かべ、彼女は少しカサついているように見える肌の白い手にブラシを持つ。
手際良くフレイアの髪を梳かしていくノエルは、フレイアのことにはよく気がつくのに、自分のことに関してはてんで無頓着だ。彼女の肌は乾燥しがちだから、今年の誕生日プレゼントはハンドクリームにしようと決める。
「できましたよ、フレイア様」
その間にも、ノエルの手は休むことなく動いていて、最後の仕上げにと空色のリボンを結び目につけて、満足そうな顔つきでフレイアに声をかけた。いつも、テオには髪を梳かして、最低限の手入れをして貰っているだけだから、こうやって髪を結って貰うのが新鮮で、なんだか変な感じがする。
顔の両脇の髪を編み込みにしてから、髪を全て耳と同じくらいの高さで、後ろで一つに纏めた、普段とは全く違う髪型。リボンの空色が、金髪によく映えていて、とても綺麗だ。
「すごく、すごく可愛いわ! ありがとう、ノエル」
「どういたしまして。これくらいならなんてことないので、いつでも頼んでくださいね」
瞳を輝かせ、満面の笑みで礼を言うフレイアを見て、ノエルは少し照れくさそうに、微笑んだ。