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「お嬢いきなりどうしたんです? もしかして、ついに頭がおかしく……」
「違うわよ! 自分の気持ちを隠すのを、もうやめちゃおうって決めたの」
「いや、全く意味が分からないんですけど」
「……確かに」
言われてみれば確かにそうだ。自分では分かっていても、きちんと言葉にしなければ相手には伝わるはずがない。この一言で全てわかってくれといっても到底無理な話だ。
今まで隠していた感情を口にする緊張を、少しでも紛らわせようと深く息を吸い、吐き出す。真っ直ぐにその空色の瞳を見つめると、彼は一体何事だというかのように眉をひそめる。自分が今から告白されるとは微塵も思っていない表情だ。
「あのね。私は、テオのことが、好きなの。……もちろん、恋愛的な意味で」
「えっ。お嬢、本気ですか? だって俺は」
「従者で、私とは身分が違いすぎるって。それに、自分は私のことを妹のようにしか見れないって、言いたいんでしょう? そんなの知ってるわ」
困惑した様子で口を開いたテオの言葉を遮るように、フレイアは続ける。
「だから、そんなこと気にする余裕もなくなるくらいに、私のこと好きになって貰いたいなって、そう思うの」
(なんとか、なんとか言い切ったわ。よくやったわね、私)
少し早口になってしまったが、ちゃんと言えたはずだ。だが、その反動でなのだろうか。さっきので勇気を使い切ってしまったようで、彼の顔をよく見ることもできないどころか、力が抜けてしまいかろうじて立つことが出来ているような状態だ。それに、今になって周りに人の目があることを思い出してしまって、恥ずかしさのあまり顔から火が出そうな程赤くなっていることが自分でもわかる。
「えーっと、その、何て言っていいかわからないんですけど。本音を言うと、申し訳ないんですが、やっぱり俺にはお嬢のことは妹みたいにしか見られないです。身分の差もあるし、そもそも恋愛対象に入りようがない」
分かっていたことではあるが、やはり本人の口から聞くと、深い谷底へと落ちていくような、そんな絶望感を覚えてしまう。けれど、正直に言うことが、テオにとっての優しさなんだろうということは、分かっていて。
「それでもいいわ。……私に、チャンスをくれない? この一年間だけでいい。一年かけても好きになって貰えなかったら、すっぱり諦めるから」
「勿論です。お嬢がそれで良ければ」
「ありがとうテオ! 絶対、絶対振り向かせてみせるから、覚悟してよね」
テオの優しさと、主人であるフレイアの頼みはそう簡単には断らない、いや、断れないと言った方が正しいだろうか。それを分かった上でこう頼んだ自分は、非難されて然るべきなのだろう。
テオに迷惑をかけるのは目に見えているし、どれだけ強気なことを言ったって、この恋が実る可能性は極めて低い。
けれど。そうまでしてでも、諦めたくはないのだ。彼のことが、どうしようもなく好きなのだから。