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 そう小声で囁かれ、ステージの方を見ると、頭頂部の毛が薄い中年の男性がステージの上に登り、ちょうど口を開くところだった。最近は品質の良い部分かつらが安価に売っているのになあ、と話を聞きながらぼんやりと思う。この男性は学園長補佐らしく、格式ばった開会の挨拶と、長々とした話を滔々と述べ、早々と壇上から降りる。

 学園長は多忙なため、例年話の場は設けていないようで、次はどうやら生徒会長の話のようだ。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。生徒会長のスヴェンと言います。何かわからないことがあれば、気軽に声をかけてくださいね」


 癖のないサラサラとした黒髪。栗色の瞳は落ち着いた人柄をよく表していて、ぴんと伸びた背筋からは圧倒的な雰囲気を感じさせる。特段大きな声で話してもいないのに、その声はよく通り、すっと耳に入ってきて聞いていて心地がいい。


「これで最後になりますが、様々な同級生達と同じ立場に立ち、生活を共にすることで、君達にとって最高の学園生活が送れるよう、願っています」


 いくつか話をした後に、そう述べてスヴェンは優しげな微笑みと共に壇上を後にした。要点がすっきりとまとめられた話は、先ほどの話とは比べものにならないほど頭に入り、ふわふわとした高揚感が残る。

 その後には新入生代表の挨拶、祝辞、来賓の方の挨拶が続き、あっという間に閉会の儀を迎えた。


「──これにて、第114回入学式を閉会します。各自移動を開始してください」

 

 この後、新入生達は各自教室へと向かい、そこでこれからの学園生活などについてのの詳細を手短に聞くことになる。

 同じ制服を身にまとった沢山の男女が、同じ方向へ向かう姿はなんだか新鮮だ。心が浮き立ち、本当にアステラ学園へと入学したのだと実感する。


「テオ、私ちゃんと新しいお友達できるかしら」


「お嬢のことですから大丈夫ですよ。友人なんて意識しないでも自然とできるものです」


「そう、よね。気楽にいくことにするわ。だって私にはテオがついてるのだもの」


 自然と口が綻び、正面を向いていた顔をテオの方へと向ける。そうすると、いつもと変わらない従者の姿があって。

 彼にそう言われると、なんだか本当に大丈夫なような気がしてきてしまうのだ。我ながら単純だとも思うが、まるで魔法みたいに、フレイアにとってテオの言葉は特別で。


「そうですよ。なんてったってこの俺がついてるんですから」


「調子に乗りすぎよ」


 冗談まじりに歯を見せて笑うテオに、つい見惚れてしまったのを隠すように目を逸らしながら悪態をつく。

 彼の笑顔を見るだけで、こんなにも幸せで、心が暖かく満たされて、耳が熱くなってしまう。


 ──意識しているのは自分だけだというのに。


「……あ、私達の教室はここみたいね」


 胸の奥で感じたほのかな切なさを消し去るように、教室へと一足先に足を踏み入れる。陽の光が程よく差し込む、明るい印象を受ける室内。席順の書かれた紙が教室の正面に貼られているため、多くの生徒達がそこに集まっている。

 1クラス20名程なので、大した人だかりでもないが。


「お嬢、俺達の席はあっちみたいですよ」


 いつの間にか席を確認していたテオの行動の早さに少し驚きながら、テオに示された席へと腰を下ろす。窓際の席なせいか、光が直に射し込むせいで少し眩しくも思えるが、それがまたあたたかく心地いい。

丈夫そうな机は至ってシンプルなもので、機能性は十分そうだ。椅子も机と同じく簡素な作りだが、座り心地が良い。


「とりあえず、テオと席が近くって一安心だわ」

「俺もです。お嬢が俺の前の席で良かった」


 すると、彼はふにゃりと、フレイアと席が近くていかにも安心したかのような笑みを浮かべて。どちらかといえばつり目がちな瞳は、目尻が下がったことで全体的に幼げな雰囲気になって、その顔はフレイアの脈をいとも簡単に早くする。

 

「……ずるい」


(いつもみたいに揶揄われるかと思ったら、何よその笑顔は…!)


 こんなの反則だ。

 思わず声に出てしまうくらいに、あの表情は破壊力がすごい。


「? どうしたんですお嬢」


 顔が赤いですよ、と声を掛ける彼は、自分がその原因だとは微塵も思わないらしく、心配そうにフレイアを見つめる。

 

「な、なんでもないからっ。ね?」


「何かあったらすぐ言ってくださいよ?」


「わかってるわよ。本当、テオったらお節介ね」


 テオはいつもそうやってフレイアのことを必要以上に気にかける。昔からいつだってそうだ。……そんなの、勘違いして好きになっても仕方ないじゃないか。

 というか、これで好きにならない方がおかしいだろう。


「そんなの従者として当たり前ですよ。旦那様や奥方様から、くれぐれもお嬢のことをよろしくと頼まれたんですから」


「ふーん」


(こっちがどう思ってるか知らないで、どうしてそう満面の笑みで言うのかしら)


 小さく溜息をつき、後ろへ向けていた体を正面に向き直ことにしたフレイアだった。

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