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「お嬢、やっぱり別に俺が一緒じゃなくてもいいんじゃないですか? ここに入学する年齢は16歳で、最高学年でも18歳なんですよ?そもそも精神的にもお嬢と同級生として入るのは……」


 俺もう今年で22なんですけど、と彼は声音と表情で不満をめいっぱい表す。癖っ毛で少しはねた焦げ茶の髪に、澄んだ空色の瞳。細く見える体は案外筋肉質で、ひょいとフレイアを持ち上げてしまえるくらいには力持ちだ。


「嫌よ、テオがいない学園生活なんてつまらないわ。ていうか、今言ったってしょうがないじゃない、入学式はもうすぐだし、今向かっている途中よ?」


「……なんというか、周りの目が気になるっていうかそういう感じなんですよ。大の大人の男が一人、新入生の中にいるとか悪目立ちするじゃないですか」


 フレイアが抗議すると、彼は目を泳がせてぶうたれる。その姿はなんだか子どもみたいで、笑えてきてしまう。フレイアに仕える彼───テオドールは、元々幼く見える顔立ちなのもあって、文句を言う姿はフレイアと同じくらいの年頃にしか見えない。一回本人にからかうつもりで告げると三日間表情が暗いままだったので、それ以降はテオの前では言わないこととしているが。


「私の従者なんだから、そんなこと気にしないで胸張って悪目立ちしてなさいよ。いい? 私はテオが一緒じゃないと嫌なの」


 そう上目遣いで若草色の瞳を潤ませて言うと、テオは観念したというようにため息をつき、苦笑する。なんだかんだ、テオは昔からフレイアのこの顔に弱い。


「まぁ、お嬢は俺がいないとまともに髪も整えられないんですから、ちゃんとお世話してあげないとですね」


 テオは隣にいるフレイアの頭に手を伸ばし、綺麗に整えられた金色の髪が乱れない程度に頭を優しく撫でる。頭から感じる彼の手は温かく、自然と笑みが浮かぶ。

 そして、自分とは違う角ばった大きな手を意識してしまうと、今テオに頭を撫でられているのだと否応なく実感させられてしまう。


(まぁどうせ、私のことなんて手のかかる妹みたいな存在としか思われていないんだろうけど。……どうやったら、私のことを一人の女の子として見て貰えるのかしら)


 フレイアは、もう何年も前からテオに片思いしている。それは16歳になる今でも続いていて、もう彼のそばに居ることができれば、もうそれでいいのではないかと思い始めている節もあるくらい、この恋はいつまでも実りそうもない不毛な恋だ。


 けれど、どこかぼーっとした様子のフレイアを不思議そうに伺う、その空色の瞳を向けられてしまうと、胸がどうしようもないくらいに高鳴って、どこか心の中で期待してしまう。この瞳がいつの日か、自分のことを一人の女の子として見てもらえる日が来ることを。 

 公爵家の令嬢と、代々この家に仕える家の出の従者なんて、身分が違いすぎる。だが、フレイアには諦める気はさらさらない。テオと一緒に学園生活を送るために、わざわざ父に頼み込み、絶大な権力を持つ、ヘレディウム公爵家の権力を駆使したくらいなのだから。


(どんな手を使ってだって、身分の差なんてどうとでもしてやるわ。テオが私のことを好いてくれたら、な話だけれど)


「お嬢、そんなにぼーっとしてどうしたんです。入学式に遅れちゃいますよ」

 もしかして、緊張してるんですか?お嬢らしくない、と茶化すようにテオは笑いかける。


「あぁ、そうね。少し急ぎましょうか。……って、何よ!私だって緊張くらいするんだからね」

「ははっ、怖い怖い」


 二人は足早に、入学式が行われる講堂へと向かう。講堂で入学式をしてから、各自振り分けられた教室に入るというのが本日の流れとなっている。クラスは式前に既に知らされており、テオとフレイアは同じクラスだ。それを知って内心ガッツポーズをしたのは言うまでもない。

 振り分けといっても各学年2クラスしかないのだが、彼女にとっては同じクラスということは、それはそれはすごく大きなことなのだ。


(テオはこんなにかっこいいのだもの、ほかの女の子が近づいてきてもおかしくないわ)


 フレイアは普段から見慣れているため耐性がついているが、テオはかなり整った顔立ちをしている。従者という身分もあってそこまで目立ってはいないが、気遣いもできるしその上優しい彼のことだ、学園に入れば大なり小なり目立つことになるだろう。本人はそのことに自覚がないのだから、どうしたものだと頭を抱えていると、講堂まではそこまで距離はないせいもあって、入口が見えてきた。


「案外余裕を持って着けたみたいね。まだ人がまばらだわ」


「本当だ、さっき急がなくても余裕で着けたかもしれませんね」


 講堂に入り、知らされた番号が記されている席に座る。年季の入った、それでいてまるで傷んでいない椅子は、肌触りの良い深い赤の布地に、金糸で細かな刺繍が施されており、質の良さが窺える。


 ──この学園、アステラ学園は、ここテラミニエ王国で一番の歴史と伝統を持つ学校だ。貴族から平民、身分を問わず門戸を開いている。

そうと言っても、いくら補助金が出たとしても他校より高い学費のせいで、ここに通う学生の大半は経済的に余裕のある貴族か裕福な家の出の者ばかりなのだが。

 ちなみに、著名な人物や政界の重鎮などを多く輩出しており、ここに入る者はそれに憧れて入る者も多い。フレイアもその一人だ。


「お嬢、そろそろ入学式が始まるみたいですよ」





 

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