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短いですが、本日はここまでです。予約投稿がうまくいきますように。

 オーフィリア王女としての仮面と、フィー・コルケットとしての仮面。時々一人称をわたくし、と言いかけてしまうこともあるが、フィーは器用にバレることなく渡り歩いた。しかし女性だけの茶会は今後社交に出たときにどう振舞うかも見られる。少しだけ令嬢らしい話し方を心がけて、でもわたくし、と言わないように。それが意外にも難しい。

「私、このような茶会が初めてで、無作法をしたら見逃して下さい」

 そんなことを言いながら微笑んで。コルケットの本家に学園にいる間だけ預けられている、なんて話せばそこから勝手に彼女たちはフィーの背景を想像してくれるだろう。それに、ここにはフィーよりもずっと注目されるべきパメラがいる。

「ブラッド様とパメラ様と言えば、オーフィリア殿下の側近ですわよね」

「幼い頃から一緒に学んでいたと聞きますわ」

 そんな声にパメラがおっとりと微笑む。

「恐れ多くもご一緒させていただくことが多いですわね」

 この反応、勉強になるなあ、と思いながらフィーは自分の話題に素知らぬ顔で紅茶に口を付ける。

「ああ、羨ましいわ。私、オーフィリア殿下を建国祭での顔見せでしか拝見したことがありませんの」

「私は一度だけ、国王陛下の誕生パーティーに、最初の一曲が終わるまでだけ連れて行ってもらったことがありますけど、遠目でしか見たことがありませんわ」

「まだ成人なさっていませんからね。でもそろそろ学園に入学するのではなくて?」

「パメラ様は何かご存じ?」

「残念ながら、私の口から言えることは少ないんですの」

 まるで珍獣扱いだ。フィーは思いっきり笑い転げたい気持ちを抑えて上品な笑みを意識して浮かべるが、心なしか引きつっている気がする。お茶のおかわりを注いでくれたメイドが、とん、とたしなめるようにフィーの腕に軽く触れた。

「フィー様は今コルケットのタウンハウスにお住まいなのですよね? お会いしたことありますの」

 きらきらと期待を込めた目にフィーはごめん、と手を合わせる。

「一度も。王女殿下はいつもお城にいらっしゃって、家に帰るとブラッドとパメラだけで登城しますから。そもそも、建国祭や誕生パーティーも参加していないので、まったく拝見したことがありません」

 半分嘘で、半分本当である。フィー・コルケットが登城することもないし、パーティーに参加することもない。パメラを意識して微笑んで見せた。

「まあ」

「でも、地方だとよくあることですよね。私も領地が遠いので、王太子ご一家を拝見したことはほとんどないわ」

「知ってます? この学園の卒業パーティーには、いつも王太子殿下とご長男のアーノルド殿下がいらっしゃってお言葉を下さるそうよ」

「王太子殿下のご子息と言えば、次男のユリシーズ殿下とダンフォード公爵のドロレス様のお話は聞きまして?」

「卒業式でユリシーズ殿下がドロレス様に熱烈な求愛をして、ドロレス様がお受けになったのですよね⁉」

「私、兄がドロレス様と同じ学年でして、詳しくお話を聞きましたの!」

 少女達の話題はあっという間に移ろって変わっていく。ほっと息をついてそっと紅茶を飲んだ。


「フィー、少し疲れたかしら?」

 テーブルの上の菓子がほとんど無くなった頃。ようやく茶会はお開きになる。そのままフィーはパメラを連れてもう授業のない空き教室に向かうと、思いっきり伸びをした。そんなフィーを見てパメラが小さく笑う。

「こんなに自由なお茶会は初めてで、結構楽しいよ」

「ならよかったわ。卒業したら私がよく参加しているサロンに招きますね」

「貴族社会のありとあらゆるうわさが集まるって言われてるあのサロン? それはちょっと怖いかなあ」

「もう学園に入って二か月も過ぎようとしてるのかあ。なんだかあっという間で、二年しか通えないのが本当に惜しい」

 しかも、もうすぐ夏だ。夏の間、二か月ほど学園では授業が無くなり、貴族は皆避暑地や領地に戻るのだ。二か月。そう、二か月も勉強ができない。

「フィーは今年の夏はどうなさいますの?」

「一番上の兄も、二番目の兄も、どっちもお嫁さんと二人きりで避暑を過ごしたいって言いだしてたからなあ……」

 少し前までは王太子一家で避暑の旅行に行ったりしたのだが、一番上は嫁がいて、二番目は婚約したてほやほや。それに充てられておそらくフィーの両親である王太子夫婦も二人で何かしら避暑に行きそうだ。

「ブラッドとパメラの予定を合わせて一緒に初夏の離宮かな」

「まあ、初夏の離宮は王都内じゃない。そんな近場でいいんですの?」

「晩夏と海の離宮はお兄様に取られた」

 フィーの言葉にパメラがああ、と納得し、悩みだす。

「……一応、コルケットと私の家の別荘の確認もしておきますわね」

「避暑の相談か?」

 がらん、と教室の扉が開く。ぱっと振り返ると、レオナードが立っていた。防音の魔術そういやしていなかったな、と今更ながらに思い出してフィーはそっと冷や汗を流す。

「レオナード様、どうしたの? 今日もう授業ないよ」

「いや、小雨が振り出して、迎えの馬車が遅れるそうだから教室で本を読もうかなと」

「……ブラッド様は今の時間、外で体術訓練のはずだわ……! ケイ、タオルと着替えの手配を!」

「多少濡れたってブラッドが風邪ひくはずないだろうに……」

 慌ててメイドに指示を出すパメラを眺めながら、フィーが聞いてよ、とレオナードを向く。

「うちの兄が新婚でさ。持っている涼しい別荘を占領されてしまうんだよ……もうこうなったら普通に王都で過ごそうかなあ……」

「王都はだいぶ暑いだろう……せっかくの避暑なんだ。どこかの地方に旅行にでも行けばどうだ?」

「うーん、コルケットのおじ様が許してくれれば……いやたぶん無理だな」

 あっさりと否定し、仕方ない、とフィーが笑う。

「それに避暑の先に書庫か図書室が無ければ私は干からびてしまう」

「それはわかるが」

「レオナード様は夏どうするの? 学園は閉ざされてしまうし」

「実家に籠って書庫の本を読みなおす」

「いいなあ…………夏に会えなくなるのは惜しいね。コルケット宛にでも手紙を送っておくれよ。私もマクミラン宛に何かしら送るし。…………マクミランの書庫か……いいなあ………………」

 心の底から羨ましそうにフィーが呟く。彼の家にはまだ見ぬ書籍が大量に眠っているのだろう。それこそ持ち出し禁止の本もあるはずだ。見もせぬそれに思いをはせて、心の底からフィーが羨ましそうに溜息をはいた。それを見てレオナードが少しだけ思案する。

「……ならうちの領地に来るか?」

「まあ⁉」

 パメラが声を上げながら口を押えた。フィーは突然の提案にぽかん、と口を開けるだけだ。しばらくしてようやく意識を戻して、フィーは腕を組んで悩む。

「……うーん…………うちの人を説得できるかな……」

「屋敷は山の上にあるから涼しいし、湖が近くにある。あとうちにしかない歴史的文献が大量にある」

「絶対説得して見せるから私とブラッドとパメラの三人の部屋をお願い」

 フィーは一瞬で落ちた。


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