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 今回の事件は ローズ伯爵は近年借金が嵩み、コルケットの娘を保護したことによる謝礼を狙っての犯行だったそうだ。最後の誘拐もフィオナの口封じをするためのものだった。ローズ伯爵の指示により、男爵家のタウンハウスへ極秘にフィオナを運び入れ、男爵家に嫁がざるを得ない状態を作りあげ、ほとぼりが冷めたら結婚させ、ローズ家からフィオナの存在を消すつもりだったそうだ。

 ほとんどがローズ伯爵の策略で、煙のないところに火は立たないと、フィーの隠し子説について徹底的に調べていたらしい。その結果、フィオナの両親はどちらも幼い頃に亡くなって、フィオナは叔母の家に預けられていたが、その叔母の夫の姉が元々コルケットでメイドをしていた、という情報を掴んだ。そのこととフィオナの持つ色がコルケットと似ていることから、ローズ伯爵のフィオナ保護による謝礼を狙った一連の事件が始まった。

 フィオナの叔母の夫の姉がコルケット家でメイドをしていた話に関しては、それは確かに本当の話だったのだが、そのメイドは結婚を機に職を辞し、コルケット領で穏やかに暮らしている。さらにはフィオナの両親でもない。さらにさらに、それはコルケット公爵夫人が身籠るよりも数年前の話で、明らかに無関係だった。

 コルケット侯爵の怒りは凄まじく、ローズ伯爵家とそれに追従していた男爵家は爵位を剥奪され、罪人として牢獄へ連れて行かれた。

 その後、フィオナはローズ伯からの籍を抜かれて、クィンラン分家に嫁いだパメラの姉の家に身を寄せることになった。しばらくはそこでパメラの姪の相手をしながら授業を受けるらしい。その後の道行はまだ決まってないものの、貴族の娘という仮面を外せ、穏やかに過ごしているそうだ。


 ブラッドもまた、オーフィリアが捕らわれている間に目を覚ました。そして襲ってきた男の一人が男爵家の家紋を持っていたことを告げて、その言葉を頼りに男爵家のタウンハウスにいけば、レオナードが見たという馬車が止まっていて。これが一連の救出劇の流れだ。


「ああ、本当に迷惑をかけて申し訳ない。ブラッド、後遺症などは残っていないか?」

「全く。擦り傷とたんこぶだけだ。ちょっと意識が飛んでいただけで、怪我自体は大したことない」

「フィーが悪いのではないわ。謝罪はもう充分過ぎるほど頂いたもの」

 ここは王家が持つ離宮の中にある客間だ。この離宮はオーフィリアが幼い頃住んでいた場所で、今回の事件でオーフィリアは自主的に三か月ほどこの離宮で謹慎をするらしい。王家の関係者以外はほとんど入ることのできない場所で、唯一この客間だけが一週間に一度だけ門が開かれ、外からの客を招くことが許されている。

「三か月も謹慎だなんて、あっという間に春になってしまうわ」

「謹慎している間はまじめに仕事でもするさ。それにパメラが学園に戻ってしまったら、わたくしの話し相手がいなくなるし。ちょうどいいよ」

「あら、たくさん手紙を書くわ。おやすみの日には許される限り会いに来るもの。フィーはそれじゃあ不満?」

「まさか、嬉しいよ」

「フィー、俺の存在忘れてないか?」

「おやブラッド、まだいたの?」

 ころころと笑うオーフィリアを、そっと二人は窺うが、美しい仕草で紅茶を飲む姿に異変はない。

 事件が終わって落ち着いてから。彼女は一度も彼の話をしない。騎士から救出時、泣きながら抱き合っていたとの報告は入っているものの、その詳細をオーフィリアは一切口にしなかった。

「ああ、そう言えば。今度夜会を開くんだ。謹慎終わりの三ヶ月後の話なんだけど。他国の王族筋も招く予定だよ」

「……オーフィリア殿下主催?」

「と言うよりお父様主催。まあわたくしの婚約者探し、第一弾だね。謹慎が終わったら、本格的にわたくしの嫁ぎ先を探すと陛下が宣言なされた」

「そ、う……」

 パメラがそっとオーフィリアの手を掴み、包み込む。オーフィリアはにこりと笑った。

「もちろん忙しければ出なくて問題はないけど、今度の休みにデザイナーを呼んで一緒にドレスを作ろう、パメラ」

「……はい、是非ご一緒させて頂きますわ」


 パメラもブラッドも分かっている。オーフィリアはこの国の王族であり、この世代唯一の姫君だ。国内の情勢が安定しているとは言え、彼女はきっと自分が嫁ぐことにより国に益が出る結婚を望むだろう。

「パーティー、楽しみだね」

 そう笑う彼女の笑みには、確かに嘘はないのだ。





 一連の事件については、全てが解決した後に公開された。ただしオーフィリアが誘拐されていたという事実はかき消され、フィオナが誘拐されたことになっている。だからこそ真実を知るレオナードは、オーフィリアが謹慎されている間に城に呼ばれた。

「殿下は一連の事件に胸を痛め、自主的に謹慎されています。よって変わりまして、私の方からレオナード・マクミラン様にお礼を。後ほど陛下、並びに王太子との謁見にて、褒賞の話が出るでしょう。今のうちにある程度の希望を聞きます」

 マクミラン辺境伯と共に控室で待機しているレオナードに説明をするのは、パメラだ。

「……殿下は、謹慎されているのですか? 殿下が原因ではないでしょう」

「レオナード。王族と言うのは、行動一つ一つに責任が発生する。例え直接的な原因がなくても、そのきっかけを作ったのがご自身だと殿下がお思いになるのならば、その謹慎もきっと意味のあるものだ」

 父であるマクミラン辺境伯がたしなめる言葉にも納得はできない。

「レオナード様。これは公にできない内密な話ですが、よろしいでしょうか」

 少しだけくだけた雰囲気に、レオナードがなんだ、と返す。

「私とブラッド様はそれこそ生まれてすぐに将来的に婚約をさせようと親同士の話し合いで決まったんですけど、一度それが立ち消えかけて、代わりにブラッド様とフィー様の婚約の話が持ち上がったんですの」

 それは全く聞いたことのない話だ。ブラッドとの婚約に関して、オーフィリア王女はそれはもう昔から否定し続けていて、今更蒸し返すようなことでもないぐらいに、ありえないというのが貴族間での常識だった。

「そのころ、私とブラッド様はお手紙を交換しては時々顔を会わせる、という仲なんですけど、それがぱったり途絶えてしまって。そのきっかけの一つが、フィーが友人が欲しいと茶会でブラッドと会話をしたことですの」

「……それだけで婚約にまで話が行くんだな」

「ええ。それが王族と言うものですから」

 困ったように微笑みながらもパメラが言葉を続ける。

「その時、フィーは私とブラッド様の仲を引き裂くのはダメだと、……直接、コルケット侯爵を説得しに行ったんです。自身の、言葉で」

 あ、と。パメラの曖昧な言い方に、察してしまう。

「その結果婚約は無くなりましたが、その時もフィーは自身の行動の浅はかさに憂いて、一か月ほど謹慎をなさいました」

 将来的にフィーの側近になるものとしてブラッドとパメラは、謹慎の間に王家に伝わる魔法についての話を聞いた。それを聞いてもなお、ちゃんと友人になろう、と心からの言葉を交わした。幼いあの頃の時間は、フィーにとっても、ブラッドにとっても、そしてパメラにとっても大切な思い出だ。

「オーフィリア殿下は、誰よりも自分に厳しい方です。学園を卒業して大人と認められた今、子供としての甘さを全て捨て去るつもりでしょう。だからこそあの事件を、殿下は心から悔やみます。そういうお方ですから」

 ここから先は、独り言ですが、と。パメラが目を伏せる。

「レオナード様と楽しげに話されるフィーを見るのが、私は大好きでしたわ」

 ああ。これは激励なのだ。レオナードはようやくそれを理解した。目を閉じれば、今もなおぼろぼろになり、泣きながらもレオナードの名前を呼んでくれたフィーの姿が脳裏に浮かぶ。

 フィーの笑顔が、驚いた顔が、悔しげな顔が、一緒に過ごした時間が。その一つ一つがかけがえのないもので。それらを全て過去にして一人で立とうとするフィーのことを考えると、レオナードの胸はひどく苦しくなる。

 学園にいる間は、婚約について考えたくないと彼女は言った。なら、なら。今ならば。

 誰が王女と辺境伯の息子の繋がりなど薄いと決めたのだ。そんなことはない。今のレオナードには、最大限に利用できる繋がりがある。

「……パメラ嬢。王女殿下の救出に貢献した褒美を頂けると、伺いました」

「はい」

 レオナードが柔らかく笑う。

「是非とも、頂きたい褒賞がございます」

「なんでしょう」

 少しだけ、口を閉ざして。そして覚悟を決めると、レオナードは口を開いた。

「             」

 その言葉にマクミラン辺境伯は頭を抱え、パメラはまあ、と頬を緩めたのだった。


書籍発売中です。よろしくお願いします。

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