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7-1 真実と魔法


 思った以上に短かった夏が終われば、あっという間に社交の授業だ。 もう既に社交界に出ている人も多い中、秋の社交の授業はパーティー形式で行われる。一年の間に学んだ仕草、ダンス、話題選びのセンス、挨拶の仕方。先生も交え、学園内にある立派な会場で行われる様子は、本物のパーティーと同じようだ。

 レースとクリスタルをちりばめたシンプルなAラインのドレスは少しくすんだローズダスト。品のあるデザインは妖精姫と呼ばれるオーフィリアが着るドレスより少しだけ大人びている。こういう色のドレスもありね、と一人頷くフィーの胸元にはレオナードから送られたトパーズがさりげなく輝く。レースの手袋で覆われた手を、ラベンダーグレイのタキシードをまとったレオナードに手を引かれながらフィーはパーティー会場に入った。彼もまたフィーの瞳に合わせたターコイズのカフスに襟元のタイピンはフィーが夏に贈ったもので、まるで婚約者みたい、とフィーは一人で微笑む。パーティーで小物をパートナーに会わせるのは婚約者ではなくてもよくあることなので周りはおそらく特に何とも思わないだろうけども、恋を知った今となっては、フィーにとってはどうしようもなく甘く胸が痛む。

 それを隠すように、フィーはおっとりと淑女らしく振る舞う。淑女のふりは、大得意だ。

「御機嫌ようブラッド様、パメラ様。まあ、パメラ様、今日は素敵なアクアマリンの宝石を付けていらっしゃるのね。もしかして、ブラッド様から?」

「御機嫌ようフィー様。ええ、コルケット領で採れたものですの。カットする前のものから、ブラッド様が選んでくださったのよ」

 うふふ、と笑い合う様子に、レオナードの笑顔が引きつる。

「……本物のフィーか?」

「フィーの淑女の演技は凄いからな……」

 小声でレオナードとブラッドが会話していると、ろくなことを言われていない、と淑女らしい笑みを浮かべたままのフィーに睨まれる。

 パーティー参加者のように馴染んでいる教師陣からの採点の視線を感じながらも、最初のワルツが始まるまでの談笑を楽しんでいた時だった。

 不意に人々のざわめきが大きくなる。声につられるように視線を動かせば、愛らしい桃色のふんわりとしたドレスを着たフィオナがこちらに向かっているところだった。

「御機嫌ようブラッド様、パメラ様!」

 見事にフィー、そしてそのパートナーであるレオナードをスルーした挨拶だ。減点だろうなあ、とフィーは考えながらも、頭を抱えたい衝動と戦っていた。引きつった顔でパメラを後ろにかばいながらブラッドが口を開く。

「……御機嫌よう。ローズ嬢、パートナーが見当たらないようだが……」

「ローズ家の執事にお願いしたのですが、今少し席を外してますの。それより、ブラッド様もパメラ様も、ぜひ私のことを名前で呼んでくださいって言ったじゃないですか! 私、実は子供の頃はフィーって呼ばれてたんですよ」

 凄い喧嘩売られている。あまりにも綺麗に喧嘩を売られている。そう思いながらも、今は授業中だ。パーティー形式とは言っても、遠くでどのように対処するのか、教師が見ているのだ。だからこそフィーは柔らかく微笑む。

「まあ、私と同じですわね」

「フィーが二人じゃ混乱してしまうな。ローズ嬢、ひとまずパートナーを探したほうがいいのではないか?」

 ブラッドが相槌を打つ。遠回しの否定だが、しかしその日のフィオナはいつも以上だった。

「……なら、偽物のフィーさんは退場して貰えばいいんです!」

「は?」

 ブラッドが思いっきり素で声を上げる。フィーもパメラも訳が分からず、それでもなにかを感じたのか、レオナードがフィーを背後に庇った。ざわり、と視線が集まるのを肌で感じる。

「ブラッド様。フィー・コルケットはコルケット公爵の隠し子、腹違いの妹なんでしょう」

「は?」

「え、なにそれ」

 フィーまで思わず素で声を上げてしまう。そうなのか? とレオナードが一瞬フィーを振り返るが、明らかに困惑する様子に違うんだなあ、とフィオナに向き直った。

「お義父様……ローズ伯爵が言ってました。私の目の色も、髪の色も。コルケット公爵と全く同じだと。私こそが、本物のコルケットの隠し子で、伯爵は私を保護したんだと! 母の顔は覚えていませんが、コルケットのメイドだったそうですし、」

「口を慎め」

 キン、と鋭い音がひとつ。ブラッドが腰につけた剣を鳴らす。それは威嚇と敵意を示す行動。貴族ならば事の重大さに震えるほどの、怒りだ。しかしフィオナはその意味を知らないのだろう。さらに声を大きくする。

「いいえ! ブラッドお兄様。私こそが、貴方の妹なんです! 家族なんていないと思ってましたが、やっと、やっとちゃんと私は家族に……っ」

 それ以上は聞いていられなかったのだろう。本気の怒りを滲ませたブラッドの表情が完全に消えた。そして一切目の前のフィオナを目に入れることなく視線をさまよわせる。

「……ローズ伯爵からコルケット公爵への侮辱と見做した。至急家と城に馬を」

「お兄様……!」

「黙れ。……先生、彼女を兵に引き渡す許可を」

 どうして、どうして信じてくれないんですか、とフィオナが叫ぶ。周りは困惑するしかない。もうこれでは授業どころじゃないだろう。場を収めようにもフィオナは必死にブラッドにしがみつき、ブラッドはそれを一切見ることなくパメラを連れて教師の下へ向かっていて。


 はあ、と。フィーは溜息をついた。



切りどころになやみます。

明日は書籍発売までもう少しと言うことで朝10時と夕方17時の二回投稿にします。

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