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結局レポートをする時間もなく、レオナードはパメラに連れて行かれてしまった。パメラ怒ると怖いんだよなあ、と思いながら公務があるからとブラッドと共にフィーは馬車に乗り込む。さて、こちらもこちらで叱られるか、と身構えて。
「最近、ほとんどレオナードと一緒だな」
言われた言葉は想像以上に落ち着いていて、フィーは拍子抜けした。
それに関してはブラッドに言われるまでもなく、自覚は充分にある。共同でレポートを制作しているからだけではなく、ランチを共にしたり、お茶を共にしたり。廊下ですれ違ったときに立ち話をして、その後の約束をする仲だ。ただ会話の内容と言えばほとんどが授業であった面白いことや最近読んだ本について等なので、色っぽいことは一切ない。フィーが普段から口調を令嬢らしくしていないこともあって、周りからも研究友達と見なされている、とは思う。
「まあ、話が合うからなあ……何かあった?」
「一緒にいることが多いからな。時々うわさに上がっているぞ」
「うわあ。レオナード様からしたらいい迷惑だろうな」
「まあ、俺とパメラもいることもあって、お前が想像しているよりもずっと色恋で言われてることは無い」
「まあ、これで私とレオナード様が急に離れたほうが何かあったか疑われるだろうね」
そうだな、とブラッドが答える声が少し遠い。どうにも思考に意識が持っていかれる。ぐるぐると最近の動悸について、思い当たる知識はあるものの、どうしてもそれだと認めるには違う気がして。ただ、一緒にいて信頼できる友人。友人としての、好意。
「だとしても、フィー。……フィー?」
「あ、ごめん、何?」
沈みかけた思考に返事が遅れてしまう。はっと顔を上げると、少しだけ真剣な顔をしたブラッドがいた。
「これ以上噂にならないにしろ王太子殿下や陛下にまで話が上がってしまえば少し面倒だぞ」
「……そうだね」
そうだね。わかっているさ。ただ、ただ。思考が邪魔をする。結論を出せない。
「ごめん、ブラッド。噂についてはどうにかして消しておいて。少なくとも学園にいる間は絶対に話を動かすつもりはない」
がたん、と馬車が揺れる。今はそう言うことしか、フィーにはできなかった。
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3章はここまで。