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3-3

 本屋を出てゆっくりと町を歩く。整備された道は歩きやすく、それでもレオナードはフィーの手を引いてエスコートしてくれる。ちらちらと店を覗いて、言葉を交わして。そうするうちにあ、とフィーは小さく声を上げた。

「ブローチ売っているよ」

「フィー、お忍びは必ずブローチを見なくちゃいけないというわけではないと思うぞ」

 レオナードのツッコミにわかってるって、と言いながらもフィーはレオナードの手を引っ張って店の中に入っていく。ブローチ、と言うよりも宝石店だ。貴族も訪れる店なのだろうか、店内の調度品は美しく、床には柔らかなカーペットが敷かれていた。そして何より、明らかに貴族であるフィーとレオナードが店に入っても、店員は一切の動揺を見せずいらっしゃいませ、と微笑む。

「これ、イミテーションジュエリーだよね? 思ったより品質がいいなあ……灯りにかざさないと気付かないや」

「その割には一見でよく気付いたな。……だめだ、俺にはわからない」

「光の反射の仕方が違うんだよ。でも、これは本当によくできているな。値段も本物よりうんと安いし」

「そちらは、庶民の方のちょっとしたプレゼント用でございますね。奥にきちんとした宝石もありますよ」

 店主の言葉になるほど、と頷いてフィーとレオナードは奥に入っていく。

「……フィーはどんな宝石が好きなんだ?」

「びっくりした。まるで婚約者みたいなこと言うね」

 驚きに一瞬心臓が跳ねる。思わず目を丸くしながら、フィーはううん、と考える。

「花を飾ることが多くて、宝石はパールとかささやかなものが多いんだよな……」

「意外だな。髪や目に合わせるならシルバーやアクアマリンとかも似合うと思うんだが」

 その言葉にはそう? と曖昧に笑っておく。今はブラッドと同じセピア色の髪にスカイブルーの瞳なのだが、実際はプラチナブロンドに淡いライラックの瞳なのだ。

「オパールとかはたまにつけるよ。後はドレスの色と合わせるかな」

「女性は大変だよなあ……。俺は何も考えずにゴールドとトパーズを付けることが多いな。カフスとかも全部金だから、やけにぎらぎらしてる気がして正直嫌なんだよな」

「そう? 似合うと思うけど」

 そんなことを話しながら並べられたブローチを手に取る。

「これとかレオナード様の瞳の色っぽい」

「そうか?」

 そう言いながらもレオナードが店主の方を向く。

「支払いは一括だろうか? あとで家の者に持ってこさせても?」

「家名を控えさせていただければ、こちらからタウンハウスまで取りに伺います」

「わかった。……さすがに花は学園に持って帰れないからな。記念だ、一つ好きなもの選べ」

 レオナードの言葉に、フィーは慌てた。

「ええっ、ちょっと、花と比べ物にならないじゃん」

「このぐらいのサイズなら正直大差ない。うちの領地ではブローチは買わなかったからな」

 そういえばパメラも買ってもらってたなあ、と考え、ええっと、とフィーは視線をさまよわせる。悩んだのは一瞬で、結局手に持っていた小さなトパーズのブローチをそのまま店主に渡す。

「……これでいいのか?」

「うん、これでいい。サンダーソニアみたいだし」

 花の代わりにちょうどいい、とフィーが笑う。フィーがいいならいいんだが、とレオナードは店主の差し出した紙にサインをして、そして丁寧に包まれた箱をフィーに渡した。

「今つけるか?」

「さすがに付けたら婚約したのかって噂が流れると思う」

「そのぐらい考える頭はあったか」

 軽口を言いながら、頭を下げる店主と店員に見送られて店を出る。秋の空はまだまだ高く、もう少し遊べそうだ。

「そうだね、そういえば町遊びなのに何も食べていないや」

「フィー、たぶんうちでやったことが町遊びの流儀ではないぞ」

 それでも結局、二人は町歩きの初心者である。町で何か食べるとき、屋台が無いならどうするべきかと顔を寄せ合った。

「レストランがあるのは知っているんだけど、前触れ出さなくていいのか?」

「酒場は前触れもださずにふらふら行けるのは知っているが……」

 あまりにも初心者ぶりに哀れんだのだろうか、ついてきたメイドがそこの角にあるカフェは城に仕えていたパティシエがいるのでおすすめだと教えてくれる。

「カフェ……! 私カフェは初めてだ」

「そういえば、昔母に連れられて行ったことがある。自分でメニューを注文するんだろう」

「つまり選択できるってこと? なるほど」

 初心者二人、よし、と妙に緊張感を漂わせて歩き出した姿に、メイドは胃の痛みを覚えたのであった。


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