3-1 二人きりのお忍び
しばらく17時投稿を続けていきます
夏の暑さも遠くなり、木の葉が色付き始めた頃。もうすっかり学園生活にも慣れ、ブラッドとパメラが側にいなくてもメイドなどに扮した護衛がいれば自由に過ごしていい、という時間が増えた。
その日もフィーは空き時間を見つけてレオナードと中庭の東屋で待ち合わせをしていた。今月末にまた例の授業のレポート提出があるのだ。今回は自然とレオナードとパメラの三人で組むことになり、そのための資料を読み込むのだ。
「……ああ、少し肩が凝ったな」
パメラは別の授業で遅れるということで、ひとまずレオナードと二人、本と論文を広げ、古代魔術の再現をしながらのんびりとお茶を飲む。
ううん、と伸びをする。もうローブを着ていなくちゃ寒いと感じる季節だ。冬は大雪が降るような気候ではないものの、寒いものは寒い。風が冷たさを運んできていた。
「夏からなんだかあっという間に時間が過ぎたなあ」
「夏終わりはテストの嵐だったからなあ」
レオナードとフィーはそろって遠い目をする。抜き打ちテストという名目のそれは、夏に気を抜きすぎた生徒を引き締めるのには確かに持ってこいかもしれない。一応はテストの一週間前には試験を行う、という知らせを貰ったものの、範囲も形式も分からない。過去問などの譲渡も禁じられていると来た。完全に己の実力のみで勝負しなければならず、その時ばかりは他の生徒達も延々と勉強をしていた。
「正直、レオナード様なら総合点一位になれると思っていた」
「それは俺もだ。……とんだ伏兵だったな……」
「一位取った本人は普段そんな勉強していないのがちょっと腹立つよね」
総合点でぶっちぎりの一位を取った子爵子息の顔を思い出し、二人そろってうなだれる。正直もう少し一位に近づけると思ったのだが、想像以上の大差だった。フィーもレオナードも順位は一桁ではあるが、二位と一位の差があまりにも大きい。フィーは思わず勉強法を聞きに一位を取った青年のもとに伺ったのだが、特に……と言われてしまい、途方に暮れた。
「思い出したらなんかこう……ちょっとむかむかしてきた……いや誰が悪いとかじゃないけど」
「フィーは妙なところで負けず嫌いになるよなあ」
やめやめ、やってられないよ、とフィーがペンを投げ出す。おや珍しい、と言いながらレオナードが温かい紅茶を二つメイドにお願いしようとして。あっ、とフィーが突然目を輝かせた。
「レオナード様。ちょっと息抜きにさ」
この自由にできる時間の希少さを、フィーはきちんと知っている。王女として生を受け、その命は国のためにあらねばならないという責任がある。けれども、ここは学園で、今ここにいるのはフィーで。
「町にお茶しに行かない?」
フィー付きのメイドがのちに言うには、確実に一瞬意識を失ったそうだ。