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みちくさ

フェイクマナーについて

作者: 斎木伯彦

 「失礼クリエイター」という言葉があります。

 また「迷惑製造機」とも言われるそうです。

 何かと問われれば、自分勝手なマナーや作法を創造して流布する方を指す呼称です。


 私も調べて知ったのですが、世の中にはとんでもない嘘や、勘違いによる混同をまるで真実かのように語る方がいらっしゃるそうです。


◎嘘マナー

・訪問先では三度勧められるまで着席しない

 迷惑ですので、勧められたら「ありがとうございます」と礼を述べて着席しましょう。

 この「三度勧められるまで○○しない」は、朝鮮半島の礼儀作法で、年上の方から酒席で飲酒を勧められた時の作法です。

 今時、このようなまだるっこしい行動は相手を不快にさせる可能性がありますから、我が国では不適切な行動です。


・目上に対する「了解しました」は失礼

 これも嘘マナーです。

 上下関係の厳しい軍隊では「了解」が日常的に使用されています。

 取り敢えずレンジャー部隊の何事にも「レンジャー」と返事する作法を一般化させると良いでしょう。

 それにしても「了解」を否定するマナーサイトが多いのも気になります。国語表現が乱れている影響なのでしょうか。


・判子は傾けて押印

 これも嘘マナーです。

 判子の捺し方で吉凶や心理状態を占う方法(印相学)がありますが、傾けて捺印されている判子は凶です。

 知らずに運気を下げる捺印をされていた方は、キチンと真っ直ぐに押すよう改めて下さい。そうでないと社運(経営)も傾きますよ。官公庁で多い風習とも言われていますが、そうであれば我が国の経済が傾いているのも納得ですね。


・お辞儀の角度

 一般的なお辞儀の角度は十五~四十五度とされています。

 神前での深揖でも六十度ですから、一般的な人同士の挨拶では四十五度までが無難です。それ以上を求めるのは慇懃無礼です。

 立礼の場合

 会釈(小揖)十五度 一般的な礼

 敬礼    三十度 丁寧な礼

 最敬礼  四十五度 人に対する最大級の礼、神仏に対する一般的な礼

 深揖    六十度 神仏に対する丁寧な礼

 拝     九十度 神仏に対する最大級の礼

 座礼は省略します。

 この立礼に関してはNHKの「サラリーマンNEO」という番組でのサラリーマン体操が参考になりませんのでご注意下さい。

 それから、女性で立礼の時に肘を曲げておへそ辺りで手を重ねる方がいらっしゃるようですが、あれは朝鮮半島で行われている礼ですから我が国の伝統とは違います。

 我が国では肘を伸ばしたまま、足の付け根辺りを押さえて頭を下げます。

 和装をすると分かりますが、こうしてお辞儀をすると裾が乱れません。

 前掛けを装着している時などは身体の前で手を重ね、頭を下げる角度に合わせてそのまま重ねた手も下へ滑らせます。最敬礼を行うと太腿まで手が下がりますね。

 明治時代に軍隊教練で現在の体側に手を添える礼が一般化したようですね。男女平等が推奨される世の中ですから、男女共に体側に手を付けて行うお辞儀が正しいとなる日も近いかもしれません。


・マスクの色柄指定

 封建制の時代であれば、身分に応じて衣服に使用してもよい色柄の指定がありましたが、民主主義時代にそのような制限はありません。

 時代錯誤の最たるものですので、一笑に付す嘘マナーです。


・リモート会議の画面分割に上座と下座

 もう笑うしかありませんね。

 仮に上座と下座があるなら、そのように割り振るソフトを開発するしかありません。

 対応するだけの時間や労力を、業務に向けましょう。


・リモート会議の入室時間と退室方法

 五分前入室はまだ理解できますが、深々と頭を下げながら退室は、不要でしょう。

 これを言い出した方は通常の会議でも頭を下げたまま退室なさるのでしょうか?

 常識を備えていれば思い付かない、嘘マナーです。


・上座と下座

 嘘マナーに騙されないようにするには正しい知見が求められます。

 通常、上座は室内であれば奥になります。ですので主賓を部屋の奥の中央へ案内するのが作法です。

 次に主賓の左手側が上座になります。これは皇帝が南面して座した時、日の出の方角(東)が左側に来ることが根拠となります。

 以下、主賓から遠離るほど下座となります。

 乗り物の場合は、普通乗用車で運転手付きであれば運転席の後部座席が上座になります。

 世の中が物騒な時代、主賓を先に乗せることで安全を確保するという面がありました。

 助手席は運転手への伝達などを担う下座になります。

 但し、もてなす側自らが運転手を務める場合は、助手席が上座になり、後部座席の運転席側、助手席側、中央の順で席次が決まります。

 エレベーターも操作する人がいる場合は主賓を先に乗せ、自らが最後に乗ります。

 操作する人がいない場合は自らが先に乗って操作盤を扱い、主賓を乗せて奥に案内します。

 乗り物は状況によって上座が変わったり、乗り降りする順序も先後しますので注意が必要ですね。

 かつて週刊誌の編集部へ怒鳴り込みに行った芸能人団体が、大きな騒ぎにしたくなかった本人を最後にエレベーターに乗せましたが、編集部へその本人が真っ先に乗り込む形になり、やる気満々だった最初に乗った人物が最後尾で降りるというコントみたいな状況になった事件もあります。

 乗り物の乗降には気を付けましょう。


・手紙やメールにて「取り急ぎ」を使うと失礼

 私の用いている国語辞典の手紙の書き方にも、末文の主文要約の書き出しとして「取り急ぎご通知まで」云々と記載されています。

 この嘘マナーを言い出した方は、辞典の編纂に携わった東大教授に喧嘩をお売り遊ばしていらっしゃるのでしょうか?


・オンラインで顔出ししないのはマナー違反

 意味不明です。

 これを言い出してしまうと、ラジオでの匿名希望や、放送での音声加工とモザイク処理もマナー違反となります。

 関西でこうした個人情報の保護が杜撰だった為に、殺人未遂事件が発生しているのですが、無知は怖いですね。


・伏せドン

 壁ドンとは違います。

 ラーメン屋で食べ終えたら、スープまで飲み干したことを示すのに、丼を伏せて帰るそうです。

 これも嘘マナーですね。

 恐らく、中世ヨーロッパで行われていた、乾杯した後でジョッキを逆さにして飲み干したことを示すという所作を、現代風に改変したジョークでしょう。

 卓上に丼を伏せると分かりますが、片付けの手間が増えますので、店に対する悪質な嫌がらせになります。


・名刺交換は相手より低い位置で行う

 お互いに対等の関係でいいでしょう?

 低い位置を取り合いして、地面に這いつくばって名刺交換する方が頭がおかしいと思います。

 名刺もかつては「モノトーン(白黒)でなければ失礼」などと言われておりましたが、技術の発展と共に色彩豊かで個性ある仕上がりになっていますね。



 と、羅列して来ましたが、時代により作法が変わることはあります。


・麺類を啜る

 これも江戸時代中頃までは行儀の悪い食べ方で無作法でしたが、落語家が寄席などで披露することで一部の江戸っ子が粋な食べ方として広めました。

 本来は蕎麦に限ったのですが、今ではウドンやラーメンも啜るのが当たり前になってしまいましたね。


・目上に「ご苦労様」は失礼

 これも戦後しばらくは、全く問題ない言い回しでした。

 無責任男が「ハイ、ゴクローサン」なんて軽妙洒脱に多用した影響で、いつしか失礼な印象に変化しました。


・座り方

 戦国時代辺りまでは正座をする必要はありませんでした。

 正座は江戸時代に広まった作法です。

 これを正座として一般化したのは明治時代以降で、実は軍国主義の名残です。

 と書いたら、平和主義者が発狂しそうですね。

 軍事用語や軍需品が現代社会にも溢れていますけど。

 なお正座の時に手を足の付け根辺りにおきますが、立つ時にそのまま手を動かさないと美しい所作になりますので、立っている時も手の位置を変えないでいれば、先述の立礼の姿勢となります。


・食事作法のあれこれ

 人類が最も変化させて来たのが、食事作法です。

 中世ヨーロッパではフォークを使うのが嘲弄の対象でしたが、いつしか手掴みは野蛮という風潮に変化しました。

 十九世紀のイギリス王室晩餐会では手掴みが正式作法でしたのに。

 なおナイフを右手、フォークを左手に持つのは、フォークを食事に使わなかった時代に左手で料理を押さえて利き手のナイフで切り分ける習慣から来ています。フォークの背に御飯などを乗せるのは日本独自の作法ですから控えましょう。

 面倒だからと、最初に料理を一口大に全て切り分けてしまうのは無作法です。

 食べやすい大きさに切り分けながら、食事を進めましょう。

 かつて、フォークを使用しない時代にはナイフで刺して食べても良かったのですが、フォークを使う現代はナイフで刺すのは無作法になりました。

 スープの飲み方もフランス式とイギリス式があります。

 スプーンを奥から手前へ動かすのがフランス式、手前から奥に動かすのがイギリス式です。

 格式高いフランス料理店でなければ、イギリス式の飲み方が無難でしょう。

 細かいことを気にして料理の味が分からないのは不粋の極みですので、肩肘張らずに食事を楽しむのが最良の食事作法です。


 結論として、作法は時代や場所で変化します。けれども、その根底には相手に不快な思いをさせないという気遣いがあるはずですから、そうした不快な行動を慎むのが最善の行動となるでしょう。

 くれぐれも謎マナーや嘘マナーを他人に押し付けるマナー違反をしないよう、気を付けたいものです。

 そうした謎マナーや嘘マナーを実践している方が身近にいらっしゃる場合は、衆目を集める場で指摘するのは無作法ですので、こっそりと正しい作法を伝えるのが適切でしょう。

 ネット時代、嘘を嘘と見抜けないようでは、この先生きのこることは難しいと思います。

 最大の問題は、失礼クリエイターの存在ですけどね。それとは別に「嘘マナー大喜利」という遊びがありますので、そちらも参照して下さい。

 「私のマナーの型は百八まであるぞ」とか、「私のマナーパワーは五十三万です」という胡散臭いマナー講師が出ないことを望みます。

 それでは私もフェイクマナーを創造しましょう。


「小説家になろう」では読み専の方が小説を読んだら、作者の方に感謝を込めて星5を贈るのがマナーです。


 このようなマナーは運営を困らせますので、「ダメ、絶対」です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、リモートにもそんな謎ルール持ちだす人いるんですね…… 偏見かもしれませんが、年配の管理職が考えそうなんて思ってしまいました。 マナーとは違いますが、スパゲティを食べるときにスプーン…
[良い点] 色々とくすりとさせて頂きましたが、リモートの『上座』『下座』には声が出ました。 「リモートのどこに入口あんだよ!」って一人ツッコミ入れちゃいましたよw [気になる点] ちょいちょい朝鮮マナ…
2022/08/02 20:30 退会済み
管理
[一言]  マナーは相手に失礼にならない範囲でまもるものであればいいと思うのですが(手が不自由なひとに箸強要とかはだめですもんね)、「ごくろうさまは目上には失礼」派のひと達は任侠映画の 「お勤めご苦労…
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