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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
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魔女からの手紙



ようやく興奮も落ち着いてきた。

男は指輪を握りしめ、改めて紙を手に取った。

ようやく続きが読める。



『 初めまして 』



こちらこそ初めまして。



声にこそ出さないが、まだ見ぬ誰かに挨拶を返す。

椅子に座ったまま、律儀に頭を下げた。



『 この家の持ち主、ラーシャです。


冒険者の憧れ、幻の楽園を目指し、到着された貴方様に敬意を表しこの家をお贈りします。


ここも楽園の一部です。ぜひお使いください。』



男は首をひねった。

過大評価を受けているような、落ち着かない気分だ。

こんな良い家、もらえるというなら有難いが、楽園には心当たりがない。



楽園?どこだそれ?



疑問は疑問として、とりあえず読み進めた。



『 堅苦しいのは得意じゃないから、ここからは普通にお話させて下さいね。


楽園として語られる草原には、歩いて半日もあれば到着するわ。

身体強化を使えるなら、1時間もかからない。

あと少しよ。

ここまでと同じように、全ての灯り花を身につけて進んでね。


そうしたら、惑わしの森の番人と対になる木が迎えてくれるわ。

楽園の番人と呼んだらいいかしら。

赤と青、黄色の実がなる立派な木よ。

そこからは灯り花を手放しても、危険な魔獣にも会うことはない。

会うのはせいぜい一角ウサギぐらい。

1時間もあれば到着、身体強化を使えば10分ね。



だからおめでとう。

先にお祝いを言っておくわね。



草原に着いたらびっくりするわよ。

5番月が昇った後、本当に全ての灯り花が一斉に咲くの。

あの苦労はなんだったのかって悔しくなるぐらい、たくさん咲く。

全ての大陸の危険な秘境で季節を選んで何日も粘って、やっと1輪手にできるかどうかっていう花なのに。

有難みがなくなるぐらい、たくさん見れるわ。

さすがは楽園。

眼福ってああいうことを言うのね。


夫にも見せてあげたかった。

研究が何より好きな夫と穏やかに暮らせるよう、頑張ってこの場所を用意したの。

私も冒険には飽きたしね。

300年ほど年下の夫はハーフだけど、私達エルフはあと500年は生きるはずだったから、家は丈夫に建てたわ。

S級冒険者のプライドをかけて、劣化防止の魔法を念入りに施したの。

何百年かほったらかしにしたところで、びくともしないように。

理想の家よ。

貴方が何年後に来るかわからないけれど、100年経ったらホコリぐらいはたまっているかしら。

悪いけど、掃除してね。



せっかく頑張ったんだけど、夫は来れなくなってしまった。

私も夫もこの家には住めなくなったの。

家財道具も結構良いモノを揃えたのだけど、何もいらなくなってしまった。

全部残して行くから、良かったら使ってね。

アイテムバッグだってあるから、一財産よ。

お揃いの服を縫ってもらったんだけど、着ていないから新品なの。

汚れない魔法がかかっているから、畑で収穫するにはちょうどいいはず。


そうそう、畑と言えば。

ここも楽園の一部のようで、ちゃんとすごいの。

持ち込んだどんな野菜の種もあっという間に育つ。

早いモノで一晩、遅いものでも3日もあれば実がなるわ。

しかもいつでも採り放題。

収獲したって、すぐにまた実がなって枯れる事がない。

楽園の名に恥じない、不思議な土だわ。


白いパンがお腹いっぱい食べたくて、小麦を植えたんだけど。

パン焼き窯をつくってないのよね。

粉を引くより、ベッドに寝藁で使うほうが現実的かしら。



貴方がどれぐらいこの家にいられるかわからないけれど、よかったらゆっくりしてほしい。

薬草辞典もあるし、冒険者にぴったりの本もたくさんあるわ。

魔法の本も書いたし。

もしも興味があったら、夫の研究成果も読んでほしい。

いろんな才能があった夫が、一生をかけて挑んだ研究なの。

本当に頑張っていたわ。


将来、自分の研究がどんな言葉で書き写されても誰もが読めるようにって。

夫は、錬金術で指輪までつくったのよ。

言語習得の魔道具ですって。

知らない言語でも指輪を使えば話せるし、読み書きだってできる。

何か月か使い続けたら、指輪がなくてもちゃんとその言葉が使えるようになるとか。

こんな魔道具を片手間で作れちゃうから、夫はすごいのよ。

本職顔負けよね。

でもイロイロ嫉妬されちゃって、めんどくさいことになってしまって。

夫は静かに研究が出来れば、それでよかったのに。

たくさん作って売るはずだった指輪が、これ1個で打ち止めになっちゃった。

この指輪もたぶん、一財産よ。


なんだか愚痴っぽくなってきちゃった。

ごめんなさい。

このあたりの情報を次の紙にまとめておくから、使ってね。

それでは。

会うことはないだろうけど、楽しい冒険生活を願っています。


貴方の栄光を祝して。

健康を祈って。

幸せに。


ラーシャ。』


1枚目の紙を読み終わった男は、大きく息を吐いた。

気付かないうちに、息をつめていたようだ。



「魔女ってホントにいるんだな・・・・」



小さく呟いた。


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