表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
96/169

続きが読みたい



『初めまして』



文字が読めた。

紙を手に取り、しっかり読もうとした男は、指輪を落としてしまう。

高い所から落とされ、勢いづいた指輪はテーブルから床に転がり落ちた。

だが、もう指輪に用はない。

後で拾おう。

落とした指輪を気にすることなく、数枚重ねた紙をまとめて手に取った。



「あれ・・・・・?」



文字が読めない。

さっきは確かに「初めまして」と読めたのに。



「読めねー・・・・・」



紙を手に取り、パラパラと全てに目を通した。

横書きで何か書かれているものの、全ての文字が知らない言語。

象形文字っぽい部分もある。



「・・・・・」



納得がいかない。

さっきは読めたのだ。

しかも「初めまして」と来た。

続きが気になるじゃないか。



「気のせいだったのか・・・・・」



しばらく見知らぬ文字を睨みつけてみるものの、全く読めなかった。

人が恋しすぎて幻を見たのだろうか。

それなら文字ではなくて、人の姿を見たかった。

釈然としなかった。

しかし読めないものは仕方ない。


男は渋々ながらも紙を置き、革手袋を外して雑巾を握った。

紙を大事によけつつ、大きなテーブルをふきあげる。

すぐに一面を拭き終わり、テーブルの脚に取り掛かった。

次は椅子。

背もたれを拭き、座面を拭く。

手際よく拭きあげつつも、頭は読めない文字から離れなかった。

初めましての続きが知りたい。

考えれば考えるほど、気のせいとは思えなくなった。



椅子を拭いたら、腰を据えて読んでみよう。



椅子に座って、机に向かって紙に書かれた文字を読む。

なんだか文明人っぽい。

ソレ、魅力。

草原で寝起きした野生児な過ごし方から一転、手ごたえを感じた。

文明開化の音がするとはこの事か。

椅子の足を拭き上げる手の動きも自然と速くなる。

早く早く。



「よし終わりっ!」



一旦、雑巾をたらいに戻しに行く。

たらいの水はホコリですぐに真っ黒になった。

掃除は中断だ。

後で片付けようとテーブルに戻った。

ついでに床に落ちた指輪も、テーブルの上に戻そうと拾っておく。

素手で触ることには、もう抵抗を感じなかった。



さて、もう一度読んでみるか。



テーブルの上の紙を見た。



「おぉっ・・・・・?」



また読めた。



『 初めまして 』



今度は見間違いじゃなかった。

ちゃんと読める。

指輪を置き、椅子に座る。

紙をまとめて引き寄せた。



「・・・・読めねーじゃねーか」



唸るように声が出る。

何だコレ。

触ったら読めなくなる特殊な紙なのか。

特殊な暗号でも使っているのだろうか。



「スパイ映画みたいだな・・・・」



ヤバい事が書かれていなけりゃいいけれど。



つぶやきつつも、テーブルに紙を置いた。

手はお膝の上。

姿勢を正す。

一つ深呼吸。

万全の状態で紙を見た。



「・・・・・違うんかい」



読めない。

思わずツッコんでしまった。



「なんだよー・・・期待させんじゃねーよ・・・・」



紙は手で払って横にどけ、グダグダと言いつつテーブルに突っ伏した。



「初めましての続きを教えてくれよー・・・・」



めんどくさくなってきた。

このまま寝てしまおうか。

寝て起きたら読めるようになっているかもしれない。

特に何をするでもなく、うだうだすること数分間。



「!」



ガバっと身を起こした。



ひょっとして

ひょっとすると。



ぐりんっ。



音がしそうな勢いで首を動かし、ソレを見た。

無造作にテーブルに置かれた指輪。



「・・・・・」



怪しい。

じっと見つめる。



「読めた時、コレ手に持ってたよな・・・・」



今度こそ正解と思いたい。

おそるおそる手を伸ばした。

ちょっと手が震えているのは緊張なのか。

正解であってほしい。

指輪を握り、改めて紙を見た。



『 初めまして 』



読めた。

今度こそ幻じゃない。



「ぃよっしゃーっ!」



両手でガッツポーズをつくりつつ、天に向かって雄叫びを上げる。



「キターーーっ!」



嬉しかった。

とてもとても、嬉しかった。

男はしばらく続きも読まず、雄たけびを上げ続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ