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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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真夜中のライトアップ再び


大草原で迎える10日目の深夜。

待ちに待った真夜中のライトアップの時間がやってきた。

しんと静まった草原に、色とりどりの光が灯り始める。


ふわりと風に揺れる色とりどりの光の花達。

朱色のような赤。

上品な紫。

温かみのある白。

ゴールドのような渋い黄。

目立たぬ深緑色の茎の色を意外と引き立たせる青。



ふわんふわん。



いうのまにか、このふわんふわんに鮮やかな緑も参加している。

相変わらずどこからか来たのかわからない、光る蝶達だ。


やがて空を見上げれば、三日月が5つ。

三日月の厚みが随分増してきたようだ。

半月に近い、というより半月だ。

あの形なら・・・・上弦の月といったところか。

10日もかけて半月になるとは、なんとも悠長なことだ。

日本ならあと5日も待たずに満月だろうに、ここではまだ半月。

違う星だなと実感する。

日本のように、月の出る時間も変わってくるのだろうか。


ちなみに男は月の満ち欠けには、わりと詳しい。

バイトしていた山奥の民宿では、月だ星だは格好の話題だった。

当時はスマホもないし。

PCも少ないアナログ時代、さらに電波も届かぬ山奥の里。

夜空を見上げる会話は、皆で自然と盛り上がる。

まわりまわって日本料理や和菓子に関わる話題ととらえた男も、熱心に会話に参加したものだ。



花に顔を近づけ、匂いを確かめる。

意外な事にあまり香りがしなかった。

これだけ神秘的な花ならば、それこそ嗅いだことのないような素晴らしい香りがしそうなものなのに。

草原の爽やかな匂いに同化している。


花単体では、ほとんど香りがないといってもよかった。

香りのうすい花は、レストランにもってこいだ。

ちょうどいい。



「さてどこから始めるかな」



時間はたっぷりあった。

真夜中のイルミネーションはこれから3時間は続く。

マイペースで行こう。

採取するためにナイフを握っていると、不思議と落ち着くのは職業柄だろうか。

落ち着いて物事を考えるには、包丁を手にするべきだと思う。

良いひらめきがあったりするのだ。



「イタリア人が閃いたと騒いでるんで、素材は一緒で次のメインのメニュー変えてもいいすか?」



手ぶらで近づいてきた若い給仕の男性を思い出す。

テレビにも出たイタリア人がオーナーシェフだというレストラン。

シェフも給仕も自由だった。

今となっては、もうちょっと他に言い方があるだろうにと苦笑ものだ。

しかし当時は高校生。

有名シェフの言動を、困った友達であるかのように伝えてくる給仕のフランクさに、ワクワクした。


「さすがイタリア、さすがは関西」


見知らぬイタリアと、初上陸の関西を代表する大都市のイメージが勝手に固まった瞬間だ。

飾られたオーナーシェフの白黒写真をみながら、料理を待つ時間が楽しかった。

その店はこじんまりとした、お財布にやさしいカジュアルイタリアン。

ピザ窯のある1階が厨房、急な階段をのぼった2階3階が客席。

厨房の全くうかがえない3階席だからこそ、想像は膨らみ、妹との話も弾んだ。

あれは隣の都道府県まで父が車を走らせてくれた、男の誕生日のランチだったか。

抜群にピザの旨い店だった。


男は遠き日の思い出にもひたりつつ、光の花の採取方法を考えた。

考えついたのは3つ。

結果予想は全てが微妙。

そもそも夜が明けても、花が残っているかがわからない。

毎晩、地上の花々は跡形もなく散っていくからだ。

だができる事は全てやってみようと思う。



1つは土ごと掘り起こす方法。


根がどうなっているかわからないが、とりあえず掘り起こす予定。

球根タイプなのかもしれない。

今は植木鉢もプランターもないが、植え替えを考える方向だ。

ウサギのツノがある今、土を掘るのは大得意。


2つ目、切り花。


水なら今や、いくらでもある。

花瓶はビールの空き缶を使うつもりだ。


3つ目。

これが一番自信がない。

というより無理だと思う。

やりようもない。

でも一応ダメ元の3つ目、挿し木。

茎を切り少し給水させた後、土に埋める方法だ。



「桜だって挿し木で増やすって言うしな・・・・」



桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿。


こんなことわざがあるほど切っちゃいけない桜だって、挿し木ができるのだ。

思いつく方法ならば、全て試してみるしかない。

ダメで元々・・・・と考えていると、ほかの2つの方法だってダメ元と気付いた。

深緑色の茎すら残さず、存在自体が幻のように一晩で姿を消す花だ。

種すら残さない。

これが辛い。

一晩で枯れるというより、その生きた証拠までを消し去る花。

儚いにもほどがある。

それをどうやって店に飾ろうというのか。



「ま、やってみるかね」



男はとりあえず、一つ目の作業から取り掛かる事にした。


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