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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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目指すは高級店一択


大草原10日目。

時間はわからないが、太陽はとっくに高い位置に昇っていた。

自らの影や木陰の面積も、かなり小さい。

影のできる位置から考えると、昼を過ぎているのだろう。



「ごちそうさまでした」



体の痛みに奇声をあげつつ、なんとか肉を焼き、食事をすませることが出来た。

辛うじて食べられたのは、骨付きもも肉が1本と背肉が1つ。

筋肉痛に阻まれて、それ以上の肉を焼くことはできなかった。

腹はまだまだ空いているが、とりあえずはこれでいい。

食えただけでも十分だ。

ちなみに赤身はまだ硬直中だった。

そんな長くかかるものだろうか。

若干の疑問を残しつつ、火を消して、氷袋を残りの肉にセットする。


腹がふくれると急に眠気がやってきた。

やはりまだ疲れているのだろう。

男は抗うことをせず、素直に寝床についた。


数時間後に目が覚めて気が付くと、太陽はだいぶ傾いている。

筋肉痛は随分マシになった。

起き上がる前の入念なストレッチで体を温めつつ、実感する。

これならちょっと我慢すれば普通に動ける。

少なくとも肉は腹いっぱい焼くことができるはず。

睡眠は偉大だ。


休憩をはさみつつ、時間をかけてウサギの白身肉を焼いて食べた。

途中で月が1つ昇り、太陽が沈んだ。

20時半を過ぎたのだろう。

スポーツバッグの中に大事にしまった腕時計を見なくとも、だいたいの時間がわかるのは有難かった。

ゆっくりと時間をかけ、今度は腹いっぱい食べられるだけ肉を焼いた。

時間も経っているから、そろそろ白身だけでも食べきる事を考えねばならない。

たいらげたのは、腹肉2つに背肉が1つ、骨付きもも肉2つ。

最後の〆に胸肉1つ。


苦しいほどの腹加減におおいに満足した。

何せ昨日は丸一日、何も食べられなかったのだ。

旨い白身がさらに旨さ倍増。

旨いと感じる自分の丈夫な胃腸に感謝する。

それにしても寝すぎたのか、食べてすぐ横になっても睡魔が今度は訪れなかった。

かといって散らばったままの服を拾い上げ、洗濯する気にはなれない。

シャワーもまだ遠慮したい。

熱いのも寒いのも勘弁だ。

体が異常な熱さを感じた事も、氷水に助けられた事も、熱がおさまり一転して氷水の冷たさで震えた記憶も新しい。もう少しそっとしておきたかった。


しかし体が回復してきた今、何かしたい。

動きたい。

スェットだけは着ているものの、いまだに裸足の男は寝ころんだまま、次に何をしようかと考えた。

日はとっくに暮れている。

もう何時間か待てば、真夜中のイルミネーションが始まるだろう。

前々から考えていた事を試すのは、いいかもしれない。


男の野望への第一歩。

光の花を採取する。

いつか手に入れる自分の店に飾るのだ。



たった数時間、儚く咲いて散っていく光の花。

どうやったら枯れずに保存できるのか。

持ち運べるのか。



疑問は尽きなかった。

全く想像もつかない。

しかし、この結果に店の将来がかかっている。


そう、例えば。

照明を落とした、上品かつロマンティックな店内。

ゆったりとした夢のような時間。

鍛え上げられた男の造形技術を生かした、見た目に美しい料理を引き立てる光の花。

皿を見て、食べて、輝く笑顔のお客様。

何度も来てくださる多くのリピート客。

予約枠が毎日埋まる一流店。


毎晩、イルミネーションを見ながら夢中で思い描いていた。

つまりは妄想だ。

しかし、男にだけは具体的な店の姿が見えている。

いつか手にするはずの理想のレストラン。

オーナーシェフとして好きなだけ腕を振るえる店だ。



自分の店に光の花を使うなら、目指すは高級店一択だ。



エントランスには紫の光の花束がいいだろう。

ちょっとしたウェイティングバーのようにしてもよい。

上品に豪華な空間は、ゲストに夢の時間の始まりを告げてくれる。


照明を押さえた暗い店内でのディナータイム。

各テーブルを照らすのは光の花。

丸いテーブルには真っ白いクロスを引く。

それぞれ中央に光の花束を置くのだ。

いっそ無造作なほどに、ワインの瓶を花瓶に見立てて飾ればいい。

なんともロマンチックだ。


料理を引き立てて見せるには、白い花がいいだろうか。

ゴールドの花も捨てがたい。


流石に青い花は料理の色を損ないそうだ。

いや、でもチーズなど青いガラスの皿にのせて映える場合もある。


朱色に近い赤い花は肉料理を鮮やかに見せてくれるはずだ。

黒い皿を使う料理とも相性がよさそうだ。

ただ、赤ワインの色とケンカするかもしれない。


暗い空間はしっかりとした日本料理とも相性がいい。

わびさびを表現するには、どの花の色がいいのだろうか。


うーん、難しい。

どの色も使ってみたい。

いっそ、コースだったら皿ごとに飾る花の色も変えていくのも良いかもしれない。

手間がかかる分、絶対に人気も出るだろう・・・・・。



見知らぬ世界に来たところで、男の目指すところが変わるはずもなかった。

料理人はどこにいたって料理人。

人は探せばどこかにいるだろう。

ここには素晴らしい肉がある。

探せば他にもかわった食材があるかもしれない。

たくましくも楽しい妄想をふくらませつつ、男は真夜中のイルミネーションの始まりを待つことにした。



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