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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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オーバーヒート


大草原で迎える9日目の朝。



「あっつい・・・・・・」



寝ていた男は一つ寝返りをうち、つぶやいた。

まだ起きてはいない。

現実にちゃんと向き合った器用な寝言だった。

非常に暑く、寝苦しいという現実。

どんな夢を見ているのか。

懸命に寝苦しさと闘っているようだ。


昨晩はたらふく肉を食べ、真夜中のイルミネーションを堪能した。

信号木から離れられないという問題は先送り。

フィナーレの光の花が魅せる花火までしっかり見て、寝床についた。

寝床といってもベッドではなく、単に地面であるのはご愛敬。

母なる大地が男の寝床。

字面はなんだかカッコいい。


対して三十路の男の寝姿は、とってもカッコ悪かった。

全身、びっしょりと汗をかいている。

大変に見苦しかった。

汗をかいた肌を締め付ける腰のベルトの部分が痒い。

腕時計が触れている皮膚も痒い。

寝ながらボリボリと体をかいていた。

もちろん無意識。

これはヒドイ。

尻をかいていないだけまだマシだろうか。


寝言からさほど時間をおかずに、あまりの寝苦しさで目が覚めてしまった。

まだまだ眠いのに。



「今・・・・何時だ・・・・」



仰向けのまま腕を持ち上げ、薄く目を開いて時計を見た。

すぐに上げた腕をパタンと下ろし、目を閉じる。



「まだ6時半・・・・・」



もうちょっと寝かせてくれ。

目をつぶったまま腕時計のベルトを外し、腰のベルトも外した。

ついでにカーゴパンツの腰のボタンを外し、社会の窓、大事なチャックも少し下げる。

腹を締め付ける感覚がなくなり、痒いのも少しおさまって満足した。

どれだけ見苦しかろうと気にしない。

いびきだって大丈夫。

隣にカワイイ彼女も寝ていない。

日本にいたって、もう何年もそんな生活していない。

自由に寝る事ができる幸せ。

誰に何と思われようが、男にとっては幸せなのだ。


しかしそんなささやかな幸せも長くは続かなかった。

暑い。

暑すぎる。

全身びっしょりと汗をかき、それをやさしい空気の流れが冷やしていた。

アウトドアならではの醍醐味。

本来ならば気持ちいい。

しかしその気持ちよさを超えるほどに、男の体は暑さを感じていた。



「あつい・・・・・」



とうとう起きてしまった。

あまりの暑さに寝ていられない。

目を閉じていられない。

枕替わりのスポーツバッグに触れている後頭部は熱がこもって、焼けるんじゃないか。

男は目を覚まし、半身を起こした。

地面と接触している下半身にも、熱がたまるような気がする。

じっとしていられず、立ち上がった。

すぐに冷たい水を出し、グイグイと飲み干す。

そのまま頭から水をかぶった。

それでも感じる熱は収まらない。

風邪か?発熱してるのか?

いやいや熱が出てたら、まず寒いはず。

気温はいつも通りのようなのに、男の体は異常な熱を感じていた。

おかしい。


男は全ての服をアタフタと脱ぎ捨てた。

急いで少し離れ、冷たいシャワーを空中から出して全身に浴びる。

水を浴びているにも関わらず、感じる熱はどんどん高くなる。



「オーバーヒートッ・・・・・」



そう。

男の体がクルマなら。

オーバーヒートと言うのがぴったりだった。

体が熱で爆発しそうだ。

煙ぐらいは出るかもしれない。



ボンネットを開けないと。

エンジンルームに空気を送って冷ますんだ。

ラジエーターはどうなんだ?

冷却水を足したらいいのか?

エンジン、エンジン切らないと。



熱に浮かされたように対処方法をぐるぐると考える。

しかし残念ながら男の体はクルマではない。

故障したラジエーターなど、体内には埋まっているわけがない。

奇人だろうが変人だろうが、びっくり人間であっただろうが。

男は一応、人間なのだ。

生きているんだ。

人間のカラダのオーバーヒートの対処法なんてわからない。

そんなの知らない。

およそ人間が感じる事のない体の熱。

このままだったら文字通り、男の命は燃え尽きてしまうかもしれない。



「やばいやばい・・・・・・」



いくら冷たいシャワーをあびようが、熱はひどくなるばかり。

シャワーにかぶせて、氷も出した。

クラッシュアイスだ。

男は他に為す術もなく、ひたすら大量の水と氷を浴び続けた。



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