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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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てっぺんの景色


男は枝に手を伸ばし足をかけ、大木を登っていく。


信号木の果実の色ばかりに気をとられていたが、おかしいのはそれだけではない

低い所からたくさんの枝を擁する広葉樹特有の枝ぶりなのに、回りの木よりもはるかに高くそびえ立つ。

針葉樹かと思う高さだ。

その枝は太すぎず細すぎず、数も多く、木登りにはピッタリだった。


ゆっくりだが着実に進むと、三色の果実には手が届く所まで来た。

だが赤い果実にも、青いものにも黄色にも、その手がのびることはなかった。

ただひたすら、より高い所の枝を掴むためにのばされる。

足場を確保するときにチラッと見える景色が怖い。

高所恐怖症ではなくとも怖いモノは怖い。

できるだけ真下は見ないように、慎重に登っていく。

まずは登れるだけ登ってみたかった。

高い木の上から見渡せれば、何かわかるかもしれない。


たくさんいるリスらしき獣も、はじめの方こそ男が近づくと慌てて移動していたが、段々反応しなくなってきた。

特にかまうことなく、マイペースに木を登る男に警戒心が薄れてきたようだ。

この大木の住人に、共に在る事を認められたようで少し嬉しい。

少しずつ登りつつ、この隣人達を観察した。

 

見た目はリスそっくり、茶色の体、大きさも見たことがあるものに似ている。

しかしそこは不思議な森の住民、一筋縄ではいかぬ。

普通のリスだとは思えなかった。

ツッコミどころは、両前足で押さえて食べている果実。

その実は、獣自身の頭よりはるかに大きい。

その小さい体躯には大きすぎる実を、ひたすらカジカジと食べ続けている。



「食べ方だけは可愛いんだけどなあ・・・・・。」



あの小さな腹のどこに入るんだろうか。

食べ終わろうとしている獣も見た。



食べきったのか?



あの大きさの果実が腹におさまるはずがないのに。

質量保存の法則はどうなってんだ。

胃がブラックホールにでもなっていなければ、説明がつかないだろうと思う。

ちなみに赤い実も青いのも黄色いのも、全ての色の果実が食べられていた。

このリスもどきが食べれるなら、ヒトも食べれると思いこみたい。

だがその考えは危険だろう。

明らかに普通の獣じゃないのだ。

少なくとも男はあれらの果実を食べる度胸はない。

どの色だってごめんだった。


食欲旺盛な隣人達を横目で見ながら登り続けてきたが、そろそろてっぺんに近いようだ。

枝も細くなってきた。

このあたりで登りおさめだろう。

男は体勢を変え、大木の幹を背に枝をまたいで座る。


体を落ち着け、改めて辺りを見回した。



「・・・・・うん、木だな。」



見渡す限り木が見える。

たくさんの木、それしかない。、

てっぺんからの景色。

がっかり名所か。



「・・・・ははっ、こんなに登ったのに木しか見えねーってっ、ははっ」



しかし男は妙にテンションが上がり、笑いが止まらなかった。

これほど苦労して登り、たいしたものは何も見えない。

成果が何もない。

命綱もないなかでの、大いなる無駄。

それがなぜかとても面白かった。楽しい。

気が大きくなり、何でもできるような気がしてきた。

ほうれん草を食べて異常に力が出る主人公のように。

3分しか戦えない正義の味方のように。

マントを翻して空を飛ぶスーパーな男のように。



「へんしーんっ。」



戯れに口にした言葉が、全身に特別な力を与えるような気がした。

気持ちいい。

常に感じる筋肉痛すら、なくなったような気がする。



今の俺、きっと力持ち。



男に根拠のない自信を与えたのは、木登りの達成感か。

不思議な森の力か。

変身というロマンあふれる三十路が発するにはイタイ言葉だろうか。

単に残念な勘違いという線も捨てがたい。


しかし、てっぺんを満喫した男はそんな事は気にしなかった。

十分に満足し、みなぎる力を感じながら、木から降り始める。

既に果実を手に取る気は失せていた。

どうせ食べられないのだ。

欲しくなった時に、いつだって取りに来れる。

調子よく木から降りていった。

登りとは全く違うペース、ひょいひょいと効果音がつきそうな勢いだ。

すぐに真下を見ても怖くない高さになる。

地面まではあと4~5メートルほどだろうか。

しかしその時。



「うぉっ。」



枝から足を滑らせてしまった。

慌てて枝をつかもうとしても間に合わない。

奮闘むなしく、男は地面に勢いよく落下していった。


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