なんてすばらしい肉曜日
晴れ渡る空の下、大草原ではキャンプファイアーが続いていた。
燃料もないのに空中で燃え盛る炎。
森の中だけで降っていた雨はいつの間にかあがっていた。
次々と肉が焼かれていく。
ウサギの白身肉は本当にうまかった。
どちらかというと淡泊よりの味なのに、食べ飽きることがない。
出汁を塊にして肉にすればこうなるのか。
もちろん昆布でもカツオでもないのだが、どこか懐かしい。
出汁文化で育った男にドンピシャの深い味。
逆に言えば、あまり肉肉しさがなかった。
塩もなく、胡椒もなく、たれもない。
でも旨い。
しかしながら、味をつける材料があればどれほどの味になるのだろうか。
このウサギ肉の香草焼きなら、堂々とコースのメインを張れる。
塩が欲しい。
ハーブが欲しい。
目の前にはこんなに草が生えているのに、どれが使えるのかわからないのが悔しかった。
香りはハーブという草もたくさんあるのに。
師匠、どこにいるんだハーブの師匠。
この土地で使えるハーブを教えてくれ。
ししょーっ!!!
テンションが高い。
この感動を誰とも共有できないのが残念だった。
あなたと行きたいこの食べ放題。
老若男女問わず、誰だって大歓迎するのに。
ボッチでないなら、人間でなくたっていい。
旨そうに一緒に食ってくれる犬がいたら、どれだけ楽しいだろうか。
忠犬、ニクラブと名付けよう。
赤身ほどではないが、獣臭さが残るのが惜しかった。
ちゃんと臭みを消して、ソースという衣をまとわせれば、どれほどの大変身となるだろうか。
専門外ではあるのだが、この骨でラーメンスープを作っても面白い。
鳥ガラスープならぬ、ウサギガラスープ。
ラーメン屋ができたら、さぞかし流行るだろう。
そのまま焼くだけなら、腹肉が一番旨かった。
骨付きもも肉は若干の弾力もあり、食べ応えがある。
胸肉は臭みを消して、サラダと一緒に食べてみたい。
冷製パスタに使うのも面白いだろう。
背肉で作った肉バームは相変わらず、すごいボリュームだ。
ラグビーやアメフト選手の力こぶぐらいの円柱。
コース料理のバランスをぶち壊す禁断のこのボリューム。
一度食べてほしい。
硬直したままだった赤身に比べ、この白身肉はやわらかく扱いやすかった。
焼きあがるのも早い。
つられて肉を食べるペースも早くなる。
肉がびっちりと詰まっていたビニール袋も、だいぶ中身が減っていた。
結局、食べたののは胸肉が2つに、腹肉3つ、背肉1つ、骨付きもも肉を2つ。
数日では食べきれないかと心配したが、このペースなら全く問題ないだろう。
料理人の魂を刺激するすばらしい食材。
もはや妄想と言えるほど、想像は膨らむ。
旨い肉を食らいつつ、色々と考えるのが楽しかった。
「さすがに食いすぎたな。」
べたべたの手を洗い、時計をカーゴパンツのポケットから引っ張り出した。
午後は15時13分。
日没まではまだまだ時間があった。
20時を超えてようやく陽が沈むのだ。
今から森に入って、腹ごなしに探索するのもいいだろう。
戻ってきたらまた旨い肉が食える腹になる。
今日のディナーもウサギ肉。
なんてすばらしい肉曜日。
とことん楽しもう。
「じゃあ、さっさと片付けるか。」
肉でいっぱいになった重い腹を抱え、男は立ち上がった。