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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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今日は記念日、肉曜日


一気に食べ頃を迎えた大量のウサギの白身肉。

日本で見ていたよりも大きいウサギだ。

男一人で食うには荷が重すぎるかもしれない。

森の方からの雨音に、目の前の炎のパチパチとはぜる音にまざって、空耳が聞こえる・・・・・・。



本日ご紹介致しますのは、日本ではなかなか手に入らない高級品、ウサギのお肉でございます。

普通のウサギよりも丸々として、とぉーっても大きいんですよ。

当社比、1.5倍増量のお肉が2匹分とたぁーっぷり。

その内訳は何と!

胸肉の塊が4つ、腹肉の塊が8つ、背肉が8つ、骨付きもも肉8つでございます。

背肉の半分は肩から背にかけてのお肉、もう半分は背から尻にかけてのお肉ですから、ボリュームがもーうー、たまりませんっ。

まな板と間違うほどの大きさ!

火が通りやすいよう、薄く開いて固いスジも全てとり、やわらかく食べられるよう、丁寧に下処理をしています。

あとは焼くだけ、とってもカンタン。

これだけあれば、ご家族やご友人の皆さまも、おなかいっぱい食べられますよ。

休日のバーベキューにはこのウサギ肉で決まりですね。



「おおぉー・・・・・。」



ウサギのツノを持って肉を焼きつつ、深夜のテレビ通販番組を思い出した。

男の生活に根付いていた番組だ。

空耳にだって律儀に、リアクションをしてしまう。

カン高く、しかし耳障りの悪くない、独特の声で紹介される様々な商品。

独り暮らしの男にとって、賑やかなテレビは必需品だった。

見るヒマはなくとも、帰宅するとすぐつけてしまう。

5分や10分、冷たいビールを飲みきるまでの晩酌相手。

ちゃんとテレビに向かって合いの手を入れていた。

「へー」とか「ほー」とか「おぉー」とか。

少しだけ見たってよくわからないドラマやバラエティよりも、カニやおせち料理の紹介は面白かった。



よし焼けてきた。



肉の焼けるいい匂いが辺りを制し始める。

背肉を焼いた時と同じように、くるくると巻き上げ、肉バームを作りあげた。

硬かった赤身の背肉とは違って、やわらかく、やりやすい。

しっとり仕上げだ。

慣れてきたこともあり、焼き上がりには時間もたいしてかかっていない。

一番はじめに食べた背肉より小さいこともあって、この肉バームはラグビーやアメフトの力こぶほどのボリュームはなかった。

男子競泳選手ぐらいの力こぶだろうか。

勝利者インタビューで見るたくましい上半身、あの力こぶも結構すごい。

例えるモノが力こぶぐらいしかないのは、仕方ないと思う。

高級店ではありえない、こんなふざけた見た目に肉を仕上げることはないからだ。


このテリテリとした艶やかさ。

したたりおちそうな肉汁。

鶏肉とはまた違う、すこし赤みがかった白身肉。

顔を近づけると、やはり少し獣臭い。

だがそれを上回る香ばしさ。



「旨そうだな。」



肉バームの両端に刺さったツノをそれぞれ両手で持つ。

見た目を楽しみ、香りを楽しむ。

目と鼻で味わった後は、真ん中をガブリといくのがこの肉の作法だろう。

豪快であればあるほど望ましい。

男はあーんと口を開け、満を持してかじりついた。


とたんにあふれる肉汁。

赤身肉の時とは比べ物にならない。

なんともジューシー。

そしてやわらかい。

歯を立てるとスーッと噛み切れていく。

弾力を感じる前に千切れていく。

何度も咀嚼する必要はない。

けれどもずっと咀嚼していたい。

噛むほどに肉汁が染み出してくる。

もはや出汁の塊。

出汁を固形にしたらこうなるだろう。

これを旨味というのだろう。

あえて味を例えると、淡泊な鶏肉に近かった。

しかし鶏肉よりも濃く、地鶏を超えていくような主張がある。

甘いや苦いなど、簡単に言い表せる味ではない。

なんとも深い。

それなのに主張しすぎない。

芯の強い味。


こんな肉、扱った事がない。

食べた事がない。

調味料やハーブで味をつければ、これまた大変身しそうな味だった。

しかし若干獣臭い。

そこだけが残念だった。

ちゃんとした料理が出来ないのが惜しい。

悔しい。

辛い。

言葉もなく、うんうんうんとうなずきながらあっという間に食べ終わってしまった。


料理バカでもバカ舌でも満場一致でこの味は。

大草原の端っこで、天に向かって叫びたい。



「うまかったぞーっ。うぉー・・・・・。」



これならいくらでも食べられる。

今日はバーベキューパーティー。

この味を称えて、記念日にしたっていい。

肉曜日だ。

「お肉様」と跪くのにふさわしい、すばらしい味。

すごいぞウサギ。

この味に会うために、俺はここに来たんじゃないか。

全ての苦労が報われる。


男は次の肉を焼くべく、いそいそと肉の袋を手に取った。


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