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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
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どこにいたって腹は減る


数十年ぶりの涙でも流したい気分だ。



なぜここにいる?

そんでなぜに大草原?



男には自分でここまで来たという記憶もなければ、そんな自覚も全くない。

「目が覚めたら知らないところにいる。」


例えばUFOに連れ去られ、気が付いたら見知らぬ場所にいるという話は小さいころにテレビで見たことがあった。

あえて自分で歩いて来た可能性をというならば、残るは夢遊病くらいだろうか。


夢遊病、UFO。

現実を前にした男が思いつくのはその程度だった。

ライトノベル読者ならば「異世界か!?」とすぐに考えるかもしれない。

しかし、料理本くらいしか興味のない男にはそんなことは思いもつかなかった。



「帰りたい・・・・・・。」



誰も答えてくれない。

ただただ呆けているだけの男も、理不尽な状況にだんだん腹が立って来た。



そのそも俺のアパートはどこに行ったんだ。



見渡す限り、建物は目に入らなかった。

人影もない。

文明を示すモノが何もなかった。



………俺は忙しいんだ。

年一番の稼ぎ時なんだ。

こんなところに連れてきてどうしろってんだ。

俺は帰りたいんだ。

職場でもアパートでもいい。

俺を帰せ。

ランチにはピザを焼くんだ。

本日のピザは仕込みに時間がかかるんだ。

ようやくメニューに入った自信作なんだ。

今日がデビューだったんだ。

頼むから。

誰か俺を帰してくれ。



一通り腹をたてるも、何も変わらなかった。



そして。

腹が。

減った。



腹の虫に気付いて時計をみると、すでに正午をかなり過ぎていた。



そりゃ腹も減るわ。



男は賄いのパンを食べることにした。

店のロゴが入ったしわくちゃの紙袋から、大きな塊の入ったビニール袋を一つ取り出す。

両手に余るほどの大きな塊を半分に割り、豪快にかぶりついた。



「やっぱり、旨いな」



焼いて1日経ってもこのパンは変わらず旨かった。

なんとなく甘く感じる塩味のきいたパンをかみしめる。

毎日食べ飽きるほどに慣れた味が、たまらなく旨かった。


男の店の自家製パンにはファンも多く、チーズとセットにしたお土産も人気の一品。

つられてワインもセットにしたかのように売れていく。

結構な売り上げが見込めた。

当然、売り切れは許されない。

だから繁忙期は毎日、大量に仕込んだものを朝に一度で焼き上げていた。

残ったって良い。

塊で売れ残った分は遅出の者が家で食べる朝食として、全て引き取ることになっていた。


毎朝1種類だけ焼き上げられる大きな塊のパンは、店で出すときには丁寧に切り分けられ、1つの塊が4~5食分になる。

その塊が6つ。

パンだけでも、3日は腹いっぱい食べられそうだ。

節約すればもっと持つだろう。


今となってはそれがありがたかった。

パンを食べつつ、お茶を飲むとペットボトルのお茶はすぐに空になった。

まだまだ飲み足りない。

コンビニの袋に空のペットボトルを入れると、茶色い瓶が目にとまった。

一度は手に取ったものの、パンのお供に栄養ドリンクを飲むのは違う気がしたので我慢する。

ファイトな時まで温存しよう。


食べ終わってもう一度寝転がり、青空を見上げながら今後の事を考えた。


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