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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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早すぎたベストタイミング


どしゃ降りの雨を満喫していた男は一つ身震いする。

遅れて体が冷えていた事に気付いた。

暑いといっても、日本で言えば気温は春や秋。

日差しもない森の中、強い雨の日なら体が冷えるのは当然だろう。



「寒っ・・・・・。」



パシャパシャと走り、暗い森を飛び出した。

すぐにお日様さんさん大草原、安心のマイホームへ帰り着く。

慣れた動作でアパートのシャワーを出した。

もちろんエアーな動作だ。

すぐに熱いお湯のシャワーが何もない空中、ほどよき高さから降りそそいだ。

狙い通りだ。



「うーっ・・・あったかい。」



強張った筋肉がゆっくりとほぐれていく。

この世界での雨も初めてだったが、熱いシャワーを浴びるのも初めてだった。

気持ちいい。

目の前に拡がる大自然、我がマイホーム大草原。

青い空。

眺めも良く、高級旅館の露天風呂気分だ。

風呂ではないが、頭から浴びるたっぷりの熱いお湯に十分に満足できた。

寒さが落ち着いた所で、少し離れたスポーツバッグの所へ石鹸と洗濯物を取りに行く。

もちろん裸族、何も隠さぬありのままの姿で男は堂々と歩いた。

生まれも育ちも裸族のように馴染んでいる。

大丈夫か。

そのうち、生まれも育ちも変態のようにマッパに馴染んでしまわないだろうか。


出しっぱなしになっているシャワーの下に戻り、石鹸一つで顔から頭、体を洗い、洗濯も終えた。

気分はさっぱり、キンキンの水が旨い。

ビールがないのだけは残念だ。

本来の用途を取り戻したスポーツタオルでガシガシと髪を拭きつつ、洗濯物を干していく。

木のつるで作られた物干し場は、つるを結んだ境界線上の木の枝が大草原側にあるため雨の影響を全く受けていなかった。

天気もいいし、日没までには渇くだろう。


名残惜しくもマッパに別れを告げ、着替えの服を身につけていく。

時計をチェックした。


午後は12時23分。


昼ごはんの支度を始めるのに、ちょうどいい時間だった。

睡眠時間が思いの外、短かったようだ。

ちゃんと腹も空いてきた。


肉を入れた紙袋とウサギのツノを手に、キャンプファイヤーの為に土を掘った穴に近づいた。

燃料となる木の枝などは使い切っている。

集めようにも森はどしゃ降りの雨。

落ち葉も枯れ木もびしょぬれだろう。

しかし立派な奇人変人に成長した男には、自信があった。

何もない所から水が出せるのだ。

チャッカマンで火だって出せた。

空中でのキャンプファイアーだってできるはず。

燃料なんて必要ない。

キリッ。

効果音でもつきそうなイイ表情だった。

しかしながら無事キャンプファイアーが始まった時のドヤ顔で台無しである。

三十路のおっさんのドヤ顔。

ちょっとカッコ悪い。


空中で燃え盛る炎できれいに洗ったウサギのツノを炙りつつ、肉の入った紙袋をのぞき込む。



「これは・・・・早く食べきらないとマズイな。」



赤身肉はまだまだ硬直中。

だが白身肉は硬直が全て解けていた。

幸い、硬直が解ける際に出る水分が少ない。

触った感じは保水量の多い、しっとりした肉。

氷を使ったのが功を奏したようだ。

低温貯蔵でちゃんと熟成までされているとみていい。

この白身のウサギを捕らえたのは昨日の夕方。

男の経験論として把握しているウサギの硬直が解けるタイミングは、通常2~3日。

それと比べると、ウサギにしては解けるのが早すぎる。

計算が狂った。



「鶏肉に近いのか?」



牛豚鶏、日本市場を一般的に流通する肉の中では、硬直が始まるのも解けるのも、鶏肉が圧倒的に早い。

気温にもよるが、鶏肉ならば一連の流れを終えるには、だいたい半日。

遅ければ1日。

高級地鶏などは熟成方法が工夫されてこの範囲に入らないものもあるが、だいたいの鶏肉がそうだと思っていいだろう。

いくら新鮮さがもてはやされた所で、硬直中の肉は硬くて不味い。

旨味も少ない。

つまり、硬直が解けた頃がベストなタイミングだった。

新鮮かつ旨い。

逆に言えば、そのタイミングを過ぎればどんどん肉質が落ちていく。

ドリップが出て、水分も旨味も失われる。

数日で食べきらなければ、肉がダメになってしまう。

手つかずの白身肉はウサギ2匹分もあった。



最初は腹の肉にしよう。



この肉は一番初めに食べた背肉よりは小さい。

ウサギの前を胸から腹、後ろを肩から背中とすると、前は6枚、後ろは4枚に切り分けたのだ。

だから若干小さいが、それでも小ぶりのまな板ほどはある。

選んだ肉に金串代わりのツノを刺しこみつつ、つぶやいた。



「気合を入れて食べないと」



腹は減っている。

減ってはいるのだが、この量は厳しい。

これから始まるウサギ肉大食いマラソンに気が遠くなりそうだった。



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