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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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同じ見た目で赤身と白身


明るい夜明けを前にして、ようやく始まったキャンプファイヤー。

祭りの再開だ。

目的を見失う前に、再開できてよかった。

しかし肉を焼こうとなる前に、男はよく洗って土を落としたウサギのツノ、3本を手に取った。

そのまましばらくあぶってみる。



「長さはいいんだけどなー・・・・・。」



ツノは白くまっすぐな円柱型で30センチほどの長さ。

円柱の底、丸い部分の直径は500円玉の1.5倍ぐらい。

結構太い。

もう少し全体的に細ければ、菜箸にぴったりだった。

実に惜しい。

いくら男の手が大きくとも、流石にこの太さでは使い辛かった。



それでも熱に強ければ。

金串替わりになるんじゃないか。



少なくとも、肉に枝を刺すより楽だし、でかい肉もそのまま焼けるだろう。

なんたって尖っている。

菜箸にはならない太さも、金串代わりなら気にならない。

形はピッタリ。

そもそも木の枝に刺した肉を焼くのは、そんなに簡単な話じゃなかった。

丁度良い木を探して、先端を削って尖らせる手間がいる。

注意深く面倒を見ても、焼いてる間に落として土まみれになるリスクも結構高い。

肉だって、ほどほどの大きさに、また切らなくちゃいけない。

せっかくのでかい肉。

ありのままで、でかいままで、かぶりつきたいじゃないか。

骨だって熱には強いのだから、ツノだって大丈夫じゃなかろうか。

そう考えた男は、消毒も兼ねてツノをあぶっていた。


しばらく様子を見ていたが、特に危ない臭いがする事もなく、形に変化はない。

よかった。

大丈夫そうだ。



「やっと焼けるな。」



いそいそと肉を取り出した。

4つのビニール袋から、まな板ほどに平べったく捌かれた大きな1枚を選ぶ。

これは肩から背中にかけての1枚だ。

残念ながらまだ硬かった。


もちろん先入先出が基本。

一番はじめに捕らえたウサギ肉。

無造作に同じ袋に入れていても、間違えるはずがなかった。

何と言っても、肉の色が違うのだ。

見た目は全く同じ、野ウサギだったのに。

捌いてみたらあら不思議。

1匹目は赤身肉、残りの2匹は白身肉。

さすがはおかしな森の住民達だと言っておこう。

一筋縄ではいかなかった。


ちなみに、野兎は赤身肉であることが多いようだ。

男が今まで山奥で食べてきたのも、全て赤身肉。

反対に、高級品として輸入されたり、ヨーロッパのスーパーで売られている食用ウサギは白身である。

少し赤身よりの肉ではあるらしいが、れっきとした白身肉に分類されるそうだ。

赤身肉は食べ慣れていても、日本で白身肉は見た事すらない。


実は高校時代、男はウサギの調理法を勉強しようと、料理本を探したことがあった。

だが兎肉の人気がない日本で、そんなものは見つかるわけがない。

そこで頼ったのがインターネットの海外サイトだった。

ただしそれらしきサイトを探し当てるのは、今ほど簡単な話じゃない。

20年近く前の時代である。

スマホなんかあるわけない。

ガラケーだって持っていない大人も普通にいた頃だ。

パソコンだって同じ。

はじめて市民図書館に行き、パソコンの使用枠を申請、署名して使わせてもらった。


だからといって、特に勉強のできるわけでもない少年時代。

辞書をひきつつ読んだところで、何がわかるでもない。

粘って頑張り、ウサギ肉には2種類あるということだけが理解できた。


「ドメスティック・ラビット」と、

「ワイルド・ラビット」。


この2つが何なのか、単語のメモを手に、英語の先生にはじめて質問しに行った。

付き合いの良い先生は、メモを見て首を傾げ、熱心に男の話を聞いてくれた。

いい先生だった。

ポイントを押さえない話を辛抱強く聞くこと1時間、推論を教えてくれたのだ。


ドメスティックは「国内の」という意味だからね。

「ドメスティック・ラビット」は、その国のスーパーで売られてるお肉じゃないかしら。

「ワイルド・ラビット」は、その名の通り、野兎でいいんじゃないのと。

なるほど。

納得した少年は、その後、英語の授業だけは熱心に受けるようになった。


今ならわかる。

ワイルド・ラビットは赤身肉、ドメスティック・ラビットは白身肉。

あの日の英語のサイトには、それぞれの調理法が紹介されていたのだろう。

そして今日食べるのはワイルド・ラビット。

赤身肉。

白身肉とは違い、食べ慣れた味に近いはず。

塩もなく、胡椒もなく、ハーブも使えない。

タレもない。

素材本来の味。



「楽しみだ。」



ウキウキとまだ硬い肉にツノを突き刺しつつ、呟いた。


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